廃魚

貝柱ミルク

第一章 魚を狩る者

第1話 始まり

 僕は今走っている。なぜならシュモクザメに追われているからだ。サメと言ったがここは海ではない。


 廃墟だ。


 肝試しで有名な廃墟。魚など、いるはずがない。


 何故魚がいるのか、何故追われているのか、そんなことも初めは考えていたが、今はもうそんな余裕はない。


走る


走る


走る


ただ走る


 もうとっくに足は限界を迎えていたが、本能が突き動かす。


 必死に逃げる。だが、もう無理だ。食われ———

ドシュッ


「……あ、れ」


 助かったのか……?

 先程まで猛スピードで追ってきていたシュモクザメは頭から血を流して倒れている。


「大丈夫?」

「エッ、は、はい…」


 手にクロスボウを持った女性が話しかける。シュモクザメの頭に刺さった矢を見るに、彼女が殺したのだろう。


紗代香さよか、そっちはどうだ」

「大丈夫。生存者が一人いるよ」


 しばらくすると、男性が一人こちらへ寄って来た。この女性の名前は紗代香というらしい。この二人は仲間である様だ。


「あ、あの…、お二人はどういう方なんですか」

「え?あぁ!俺たちは廃魚漁猟隊はいぎょぎょりょうたい。こういった、廃墟に巣食う魚、廃魚はいぎょを狩る部隊だ」


 廃魚漁猟隊。昔、どこかで聞いたことがある。政府公認の討伐部隊。猟友会の様なものだと思っていたが、違うのだろうか……。


「にしても、あのシュモクザメから逃げ切るなんてすごいな!お前才能あるんじゃないか。よかったら入らないか、ウチの部隊」

「エッ」

「ちょっと!勝手な勧誘はダメよ!この子も怖い思いしたのに!」


 部隊の勧誘……。本来なら断るべきだ。


 でも、僕は……


「入ります」


 入りたい、と言った。


「何言ってんだ、冗談だぞ。それとも、本気で入りたいって思ってんのか」

「はい、本気です。お願いします」


 そう言うと。男性は少し困った様な顔をし、考える動作をした。


「誘っといて言うことじゃ無いが、これは気軽にできる様な仕事じゃない。こっちだって死ぬリスクがあるんだ。それでもか」

「……はい。それでもです」

「………。わかった!いいぞ」


 しばらく僕を見つめた後、男性はニッコリと笑ってそう言った。あの質問は僕の覚悟を見定めるためのものだったらしい。


「ダメだよ!この子見たところ学生でしょ!親とか学校への連絡どうするの?隊長にも話できてないし」


 親、学校。確かに他の人にとっては大切なものだろう。でも、僕は……


「いいんじゃないか」

「え?」

「学校辞めて一人暮らしするんだろ。な?」


 真っ直ぐ僕をみつめてくる。この人はきっと何か感じ取ってくれたのだろう。そう思い、僕はさっきの問いかけに首を縦に振った。


「まぁ、この仕事じゃ珍しくないしいいか。でも、連絡は自分ですること。それと、隊長への交渉は雄大ゆうだいがやってよ」

「はいはい、わかってますよー。それじゃあ戻るか。部隊の本拠地まで連れて行ってやるよ」


 雄大さんは僕の腕を引き、ある装置を起動させた。僕は何も理解できないまま身を任せるしかなかった。

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