フィオナの離脱

 賑やかな広場。アランは数人の女性たちに囲まれていた。


 彼の善良さと人懐っこさは、時に剣や鎧よりも強力な魅力になる。


「まあ、勇敢な騎士様!」


「今度私たちの村にも来てくださいな」


 差し出される花束、絡む腕。


 アランは照れながらも笑顔で応じていた。




 ――まただ、くだらない。


 遠巻きにその様子を見ていたフィオナは、心の中で毒づく。


 どれだけ危ない目にあっても、どれだけ失敗を繰り返しても、結局は誰にでも優しい。


 それが長所なのは分かっている。


 けれど、今は耐えられなかった。




 その夜、フィオナは短い置き手紙を残した。


《しばらく実家に戻ります。従者としてお仕えするのはここまでです》




 数日後、実家の屋敷の庭で鍬を振るっていると、見慣れた影が現れた。


 旅装束のまま、埃まみれのアランだった。


「……何しに来たんです?」


 声は冷たい。けれど、その奥にわずかな動揺がある。




 アランは一歩、二歩と近づき、深く頭を下げた。


「私が軽率だった。君を従者ではなく、ただの便利な相棒のように扱っていた」


 その言葉に、フィオナは息を呑む。アランがこうして自分の非を認めたことなど、今まで一度もなかった。




「君がいなければ、私は本当にただの馬鹿な男で終わる。……戻ってきてほしい」


 真剣な眼差し。嘘のない声。




 フィオナはそっぽを向きながらも、口元がわずかに緩んでいた。


「……条件があります。お金の管理は全部私です」


「もちろんだ」


 そう言って差し出された手を、フィオナは渋々――しかししっかりと握り返した。




 この日、二人の間にはそれまでとは違う、確かな絆が結ばれた。


 


 しかし、異変が起きた。フィオナはふらつきその場で膝をついてしまった。

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