アダンソンハエトリグモがやってきた!
つだ いかみ
夏の課題
ぺこっぽこっぽこっ。
エアコンのドレンホースから外気が流れ込む音が響く。
大学に入学して約四か月、一人暮らしの部屋。周りは教科書や衣服で散らかっているためカーテンは閉め切り。冷房は動いているのに一部故障しているからか涼しさが乏しく、じめじめとした湿気が壁や床を這う。
太陽光が眩しい七月末。
「いやだぁ……」
パソコンを睨みながら小さく唸る。
明日締め切りの教養科目の期末レポート。千字だったら分かる、三千字はぶっとんでる。
期末テストがなく入学時の履修登録会で先輩に勧められた人気の講義。受講者は軽く百人は超えていた。先生だってそんな数のレポート読むの大変でしょ。この先生は苦行が大好きなのか。
それにしても暑すぎる。頭が回らない。
こうなったらAIに全部書かせようか。AIに書かせたレポートは一目で分かるって教授は言ってたけど、本当にそうかな。友達がバイト面接の履歴書をAIに書かせたみたいで実際に見せてもらったことあるけど、全く日本語に不自然さがなかった。
友達曰く、AIでつくらせた方が時短できる上、無駄がなく洗練された文章ができるのだという。実際にその子は無事バイトで採用させてもらったという。
友達はこう言ってたなぁ、使えるもんは使うべきだって。その子以外にもAIを使う大学生は多いみたい。今までAIに文章を作らせたことはなかったけど、みんなやってるなら私も試してみようかな。
でも、心のどこかで躊躇う自分がいる。それはズルなんじゃないか、バレたらどうするのって。
使い方すら危ういしなぁと思っていた時、真っ白なテーブルの上に小さく黒いものが動いているのに気づいた。
「え?」
とっさに身構えた。幼い頃から虫は苦手だ。以前部屋に小さい蛾が入った時、気が狂ったように大騒ぎしてしまい隣人に怒られてしまった。
でも、よく見てみるとそれは小さな蜘蛛だった。黒い体に白い縞模様。私はほっとして胸を撫で下ろす。
「なぁんだ、お前か」
実家でよく見かけた蜘蛛。名前はアダンソンハエトリグモ、だった気がする。蜘蛛は昆虫じゃないというつっこみはさておき、家に出てくる虫の中でこいつだけは平気だ。
おまえは巣を張らないタイプでしょ。邪魔にならないし、そして害虫を食べてくれるはず。
この蜘蛛は普通の個体よりもちょっぴり大きいような。なんだかちょっぴり強そうだ。
「おまえは害虫を倒してくれるんだろう? 頼んだよ」
私の言葉に応えるように蜘蛛は口をハムハム動かす。こうしてみるとちょっと可愛い。
とはいえこいつが長く居座るわけじゃない。蜘蛛なりに用が済めば勝手にいなくなるだろう。それまで自由に過ごしてくれ。
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