隣人ガチャ失敗!? むかつくアイツが同級生だった件
よつ葉あき
隣のアイツ
とうとう実家を出た。
ずっと家族と暮らしてきたけど、初めて家族と離れての新生活。
どきどきしながらオートロックを解除し、エントランスを通り抜ける。
その先にあるエレベーターの上ボタンを押して、到着を待った。
チンッ!
乗り込もうとしたら──すでに男性3人が中にいた。
横に避けて道を譲る。たぶん同じマンションの住人だろう。
「こんにちは!」
反射的に笑顔で挨拶。
……無視。
盛り上がって笑ってたから、悪気はなかったのかもしれないけど、こっちはこのマンションで初めての挨拶だったんだぞ!?
新生活のワクワクに泥塗られた気分。
なんなんだアイツら。学生? 挨拶くらいしろよ。
しかも一人、やけに目つきの悪いのがいたんだけど……あれは住人じゃなくて、住人のお友達だと思いたい。
イライラを抱えたまま自分の階へ。
──わぁ……。
実家は三階建てだったから、この十一階からの景色はまるで別世界。
少しだけ嫌な気分も晴れた。
◆
やばっ! 電車間に合わない!
玄関の鍵を閉めようとするけど……ガチャ……ガチャガチャッ!
うわー! 慣れない鍵でうまく閉まらない!
焦って格闘すること数秒、やっと施錠完了。
「急げー!」
エレベーターへ向かおうとしたら、隣の部屋の男性が出てきた。
──ガチャン。わが家と違って、鍵がスムーズに閉まる音。
……って、この男っ!!
引越し初日に会った、あの目つきの悪いやつじゃないか。しかも、お隣さん確定!?
「……おはようございますぅ」
えらい私、ちゃんと挨拶した(たぶん笑顔)。
無言でペコッ。
……は? いや、無視じゃないだけマシか……でも言葉はあってもよくない?
イラッとしつつ、ボタンを押す私。なかなか来ないエレベーター。
そこへ、背後から例の男。
チッ……一緒に乗るのか。
到着。閉めたい衝動を押さえて、“開”を押す。
──一階に着き、“開”を押した私を追い抜き、男はスマホ見ながらスルー。
あんにゃろぉぉ! 「ありがとうございます」だろがぁぁ!
……って、遅刻する! 急げ私!
◆
──数ヶ月後。
挨拶はもうしない。
向こうももちろん何も言ってこない。
深夜の重低音(ドッドッドッ!)が壁越しに響く日も多くて、隣人ガチャ失敗を確信。
それにしても……どこかで見た顔。
そんなことを考えながら、郵便受けをチェック。
あれ? これ、私宛じゃない。しかもお隣の封筒だ。
“水卜 悠人”──みうら……?
いや、水卜(みうら)って……小学生の頃の同級生にいたよね?
スマホを手に取り、由美子へメッセージ。
『由美子、久しぶり! 小学生のとき、同じアパートに住んでた水卜君っていたよね? 下の名前ってなんだっけ?』
少しして返信。
『久しぶり! 確か……水卜 悠人だったと思う』
──一致。
でも偶然? いや、珍しい苗字だし……。
『ありがとう! 実はさ、一月に引っ越したんだけど、お隣がその水卜君っぽいんだよね』
即既読。
『は? マジ? ウケるんですけど! てか、よつ葉が同級生のこと覚えてたのが意外』
『いや、顔は全然覚えてなかったけど、今日うちに隣の郵便が間違って入っててさ。宛名見て思い出したの』
『あーなるほど……って、これさ! 少女漫画みたいに恋に発展するやつじゃん!?』
『いやいやいやいや、そんな訳ないから』
『なにその冷め方。もっとこう……「え、どうしようドキドキ」みたいなノリは?』
『ドキドキよりイライラの方が100倍強いんで』
『夢がねぇなぁ……でも気になるから調べるわ』
……調べるって何を??
数分後。
『ねぇ、この人?』──送られてきたのは、見覚えのある写真。
『この人! 間違いない!! なんで今の写真持ってるの?』
『名前で検索したらSNS出てきたんだよね~。イン○タ、鍵なしだったから写真見放題♪』
……ネット社会こわっ。由美子の調査力こわっ。
◆◇◆
──五年後。
「こら太一! 走らない!」
保育園帰り、スーパーの袋を抱えた大荷物の私。
十一階に着くと、太一が飛び出して──
「あっ!」
その先に、隣の男。
「こんにちはぁ!!」と全力挨拶する太一。えらいぞ!
……ぺこっと会釈だけ。
「僕の“こんにちは”聞こえなかったのかな?」
「聞こえてたよ、頭下げてたからね」
──みうらぁぁ! 四歳児に負ける三十代ってどうなの!?
玄関を開けると──
「あっ! パパぁ! なんでいるの!?」
「おかえり太一。あきもお疲れ」
「……ただいま」
珍しく早く帰った旦那に太一は大興奮。
私は洗濯物を洗濯機へ入れながらため息。
「どうした? 機嫌悪い?」
「……隣の水卜に会ったの。太一が可愛く挨拶したのに、やっぱりちゃんと返さないの! あのオッサン!」
「ぶはっ! 同い年だろ?」
「そうよ! だからもうおっさんよ!」
──引越し先のお隣がまさかの同級生。
少女漫画みたいな偶然に、友人の由美子は「恋に発展するかも!?」とわくわく。
……いやいやいや、そんな訳ないから。
現実は──
・まともな挨拶なし
・深夜の壁ドンドン音
・五年間の会話ゼロ
……結果、「恋」どころか「騒音苦情」の方が先に出そうな関係に成長しました。
いや、正確には管理人さんに騒音苦情入れました。
掲示板に貼られても、改善イマイチだったけど。
この話を久々に由美子に送ると、即既読。
『やっぱりそういうオチか~! 最初ちょっとワクワクしたけどさ、よつ葉が不倫する訳ないって思ってたしね』
『……だから恋どころか、友にもなれなかったよ』
『うん、想像どおり。むしろ想像以上に現実的だったわ』
はい、これが私の、新婚生活スタートからのドキドキな偶然エピソード……だけど現実はイライラなことしか起きなかったよ!! というお話でした。
隣人ガチャ失敗!? むかつくアイツが同級生だった件 よつ葉あき @aki-2
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