第五話 空飛ぶプテラーとの戦い
大きな公園がある川原につくと、ティラノはぼくのむねポケットから地面に飛びおりた。
しばふが広がるこの場所はかけ回るにはちょうどいいし、遠くには山なみが見えて景色も最高だ。
「正人、さっそく始めよう」
「そうだね。えっと、どうしよう?」
「うむ。まずは身体を元の大きさにもどそう。二人とも少しうしろに下がっていてくれ」
カノちゃんといっしょに少しうしろへ下がると、ティラノは口を開く。
「ボーン!」
ティラノの身体が光に包まれて、みるみるうちに大きくなる。ボーンというのは変身に必要なかけ声みたいなものなんだ。小さくなるときもさけんでたし、まちがいない。
「わぁ、あらためてみるとすごい大きさよね」
「ティラノかっこいい!」
「正人、クッキーをわたしの口に投げてくれ」
「うん。カノちゃん、クッキー出して」
カノちゃんからクッキーを受け取り、ティラノの口へ投げつける――チョコチップ入りのクッキーをティラノの大きな口が飲みこんだ。
「むぉおおおおっ! この感じ! チカラがわいてきたぞ!」
これでクッキーのこうかがいつまで続くか時間をはかれば――って!
「あぁああ! どうやって時間をはかろう! ぼく時計もってきてないよ!」
「ちょっとまって! あたしがいまからはかるね!」
カノちゃんはスマホを取り出してヒビの入った画面で時間を見る。それにしても、いつのまにスマホなんて買ったんだろう?
「カノちゃん、なんでスマホもってるの?」
「えへへ、お兄ちゃんからお古をもらったの。通話はできないけど、家ならネットにつなげるよ」
「へぇえええ、いいなぁ」
「画面がわれちゃったのが残念。もらってすぐに落としちゃったんだぁ」
本当だ、ヒビが入ってる。あぶなくないのかなぁ。
「二人とも話しているところ悪いが、わたしはいまから、このあたりを走ってみようと思う」
そうか。戦うときにはげしく動くだろうから、なるべく動いてみたほうがクッキーのこうかが正しくわかるかもしれない。
「いってらっしゃい! 時間はちゃんと見てるから安心してね」
――ドシンッ! ドシンッ!
ティラノははげしい足音を立てながらぼくたちのまわりを、ぐるぐると走り出す。この公園にはいつも人がこないからどんなに動きまわっても安心だ。
「カノちゃん、どのくらいたった?」
「まだ、一分しかたってないよ。はかり始めたばかりだもの」
「そうだよね」
クッキーのこうかはどれくらいもつんだろう。一つで長い時間もってくれたらいいんだけど……。そうすれば、だがしの数も少なくていいし。
「ねぇ、正人。よく考えたらティラノが合図をくれないと、終わりがわからないわよね?」
「そっか、今回はだいたいでいいかも」
「正人! カノ!」
「あ、カノちゃん、ティラノがもどってきた。もう終わりかな?」
ティラノの動きが目の前でピタッと止まる。
「二人とも、どうやらクッキーのこうかはきれたようだ。チカラが出なくなってきた」
「もう? カノちゃん、時間は?」
「えっと、三、じゃなくて二分かな?」
「二分かぁ……。短いね」
クッキーを一つでチカラを出せるのは二分だけ。残りは六つだから全部で十二分……。トリケラーだけじゃなくてプテラーまであらわれてしまったし、二頭との戦いを考えたらチカラが出せるのは一頭につきたったの六分。
「でも、二分はちょっと不安ね。あたしが買ってきたデカチョコバーを足したら、クッキーよりも時間が長くならないかな?」
たしかに。カノちゃんがくれたデカチョコバーはクッキーよりかなり大きいし、おまけにねだんも高い。
「そのデカチョコバーだが、クッキーとはべつのこうかがあるかもしれない」
「ティラノ、デカチョコバーも二本あるし試してみよう」
「いや、やめておこう。これ以上、大事なだがしを失いたくない」
「そっかぁ……」
「だいじょうぶだ。トリケラーたちはだがしをもっていない。クッキーとデカチョコバーのあるこちらが有利だ!」
勝つためにはぜったいトリケラーたちに、だがしをわたしちゃダメだ。必ず、だがし屋さんを守らなきゃ!
「ねぇ、もう終わりなら、そろそろいっしょにだがし屋さんに行かない? あたしまだおこづかい残ってるから少しなら買えるよ」
「カノ、ありがとう。それは助かる」
「どういたしまして! それじゃあ決まりね! 正人、行きましょ」
「その前にティラノはもう一度、小さくならないとだね」
「うむ。では小さくなろう。ボー……、むむっ⁉︎ 二人とも! わたしのそばからはなれるな!」
ティラノがするどい声を上げる。
「もしかして宇宙恐竜? カノちゃん、こっち!」
「うん!」
「うしろからだ! 来るぞ!」
ティラノの合図にふり向くと、見覚えのある大きなツバサを広げた宇宙恐竜がまっすぐ、こちらに向かって飛んできた。
「プテラーだっ!」
――ピュギャァアアア!
鳴き声があたりにひびく! すごいスピードで向かってくる!
「二人とも! 身をかがめるのだ!」
ティラノの声にカノちゃんと同時に頭をかかえるようにして身をかがめた。
――バシンッ!
あまりにも急に、はげしい音が耳に入ってきた。見上げるとティラノがプテラーのツバサをつかんでる。まばたきをするまもなく、プテラーの長いクチバシがティラノの頭めがけてこうげきした。
「ぐぉ!」
「ティラノ!」
いまの一発のせいで、ティラノがプテラーのツバサをはなしてしまった。プテラーが空へとまい上がっていくと強い風が起きる。
「きゃっ! 飛ばされちゃいそう」
「カノちゃん! ぼくにしっかりつかまって!」
「正人、ティラノにクッキーをあげなきゃ!」
「そ、そうか! ティラノ! クッキーを!」
ティラノはぼくの声を聞いて大きく口を開いた。
カノちゃんから受け取ったクッキーをティラノの口にめがけて投げ入れる!
「むぉおおおおっ! チカラがわいてきたぁあああ!」
「ティラノだいじょうぶかな。勝てるよね?」
「う、うん……。だいじょうぶ。ティラノサウルスは強いんだ」
でもティラノは空を飛べない。プテラーはツバサをバタバタと動かしたまま空からおりてこないし、あれじゃあこうげきがとどかない。どうやって戦えばいいんだろう……。このままボーッとしてたらクッキーのチカラを出せる二分なんてあっというまだ。
「プテラー、なかなかおりてこないね」
「さっきツバサをつかまれたし、用心してるのかも」
「あ! 正人、プテラーが動いたわ!」
ティラノの真上からいきおいよくおりてきたプテラーのクチバシがハリのようにするどく変化した! あんなのにさされたらひとたまりもない!
「ティラノ! にげるんだ!」
「うぉおおおっ!」
ティラノは転がるようにしてプテラーのこうげきをかわした!
プテラーは地面すれすれで、ビュン! と空へ上がって行くと、一回目のこうげきと同じようにハリのようにするどくなったクチバシをティラノに向けて、ものすごいスピードでせめてくる。
ティラノも負けじとうまくかわして長いしっぽでこうげきするけど当てることができない。
「正人、もう二分すぎてる! ティラノにクッキーをあげないと!」
「そうしたいけど、いまあそこに近づくのはあぶないよ」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! このままだとティラノ負けちゃうかもしれないのよ! もう! いいわ、あたしが行ってくる!」
「カノちゃん! あぶないって!」
どうしよう。あんなにはげしく戦ってる二頭のそばに行ったら、まきこまれてケガしちゃうよ。
カノちゃんは、気がつくとあっというまにティラノの手前にまで走っていってしまった。
「ティラノー! クッキーもってきたわよ!」
「カノ⁉」
――ピュギャァアアア!
カノちゃんがティラノにクッキーをあげようとしたとき、プテラーがカノちゃんめがけて飛んできた!
「カノちゃん! あぶない!」
「きゃあぁああ!」
――ズガンッ!
ものすごい音。見ていられなくて顔をそむけてしまった。
「ぐぉぉぉぉ……」
うめき声が耳にとどく。おそるおそる顔を正面に向けると、目に入ってきたのはカノちゃんをかばうようにしてうずくまるティラノのすがた。
よく見ると、ティラノのせなか、ホネとホネのあいだにするどいクチバシがはさまってた。
ピシッという音と同時にホネにヒビが入る。
「ティラノ!」
「むおおおおおっ!」
ティラノは声を上げながらせなかにいるプテラーをふりはらうと、長いしっぽをふり上げて一発をくらわせた!
ふき飛ばされたプテラーは大きなツバサでバランスを整えながら空に上がって行く。
しっぽのこうげきがきいたのか、空でこちらの様子をうかがってるみたい。
「ティラノだいじょうぶ?」
「うむ、心配ない。カノ、正人もケガはないか?」
「ぼくはだいじょうぶだよ」
「あたしも平気。守ってくれてありがとう。それよりクッキーを食べないと!」
「うむ。しかしカノ、あぶないことはしないでくれ。いまのはキケンだった」
「ごめんなさい……」
ダメだ。このまま、ただクッキーを使ってるだけじゃ勝てそうにない。数にもかぎりがあるんだし、どうすれば……。せめてティラノが空を飛べたら。でもティラノにはそんなチカラは……、って、あった! ティラノが空を飛べる方法が!
「ティラノ! ぼくにいい考えがあるんだ! ワープっていまできる?」
「うむ」
「クッキーを食べてワープをくり返しながら、空にいるプテラーをこうげきするんだよ」
「なるほど、その手があったか! むずかしいがやってみよう。だが、そのためにはいまあるクッキーをすべて食べないとダメだ」
そうか、ワープをくりかえすんだから一つや二つじゃ足りないんだ。
「全部……。カノちゃん、クッキーの残りはいくつあるの?」
「えっと、五つかな。足りるかしら?」
「五つあれば問題ないだろう。しかし、ワープの出現ポイントがずれてしまったら、きみたち二人をまたキケンな目にあわせてしまうかもしれないぞ」
「うん、わかってる……」
でも、プテラーをたおすにはこの方法しかない。ここでティラノがやられちゃったら、それこそ大変だ。ティラノを信じるしかない!
「だいじょうぶ。ぜったいに成功するよ!」
「あたしもティラノを信じてる!」
「正人、カノ……。わかった。やろう!」
三人で大きくうなずき合い、かくごを決める。
「カノちゃん、残りのクッキーを出して」
「わかったわ」
「正人! プテラーが動くぞ!」
ティラノの声に残りのクッキーをまとめて大きな口に投げ入れた。
――ピュギャァアアア!
プテラーの鳴き声が耳にひびく。
「行くぞ!」
ティラノは大きくジャンプをすると、プテラーも同時に動き出し、つっこんでくる!
「ボーン! ワープ!」
プテラーに近づいたとき、さけび声とともにティラノのすがたが消える。プテラーは目標を見失ってあたふたしてる。
そして、プテラーの真上にティラノがあらわれた!
「ティラノ! いけぇえええ!」
――ドカッ!
ティラノは空中でプテラーの身体へしっぽの一発をあたえた!
よし! これなら勝てる!
「正人! プテラーが落ちてくるわ!」
――ドカンッ!
はげしい音とゆれ――プテラーの身体が地面にたたきつけられ、土けむりが地面にまい上がると、ティラノがあと追うように着地した。
「ティラノ! いまだ! やっちゃえ!」
ティラノが大きな口を開けてプテラーの首へかみついた。
「やった!」
――ピュギャァアアア!
プテラーがあばれる。
「ダメだ! ティラノのこうげきがきいてない!」
「正人、ティラノの口を見て! しっかりとかめてないみたい!」
「もしかして……」
ワープでエネルギーを使い果たしてしまってチカラが出ないんだ。このままじゃまずい……。なんとかしないと。
「正人! これ!」
カノちゃんがとつぜん、目の前にデカチョコバーを差し出した。クッキーはもうないけど、まだこれが残ってたんだった。
――ピュギャァアアア! ピュギャァアアア!
プテラーがティラノの大きな歯からにげると、大きなツバサを広げてつっこんできた。
「カノちゃん! デカチョコバーをティラノに!」
「うん! ティラノ、これを食べて!」
カノちゃんの手からはなれたデカチョコバーが、回転しながらティラノの口に入る。すると、ティラノのうではまるでナイトがもつ長いツルギのような形に変形した。
――ズバッ!
ツルギはプテラーのツバサを大きく切りつけた。悲鳴を出しながらプテラーは地面にドシンッ! とたおれる。
「す、すごい……」
「正人……。デカチョコバーがツルギになっちゃった……」
「う、うん……」
デカチョコバーはクッキーとはちがってぶきになるこうかがあるんだ。
気がつくとティラノのうでは元の恐竜のホネにもどってた。デカチョコバーのこうかもそんなに長くはもたないみたい。
「正人、カノ。二人とも無事か」
「うん。ぼくはだいじょうぶだよ」
「…………」
カノちゃん、急にだまってどうしたんだろう?
「カノ、どうしたのだ? どこかケガでもしたのか?」
「カノちゃん?」
「ティラノ……。プテラー、死んじゃうの?」
そうか……。ぼくがティラノサウルスを大好きなのと同じように、カノちゃんはプテラノドンが大好きなんだった。だから、弱ったすがたを見るのがつらいんだ。
「カノ、正人もプテラーをよく見てごらん」
「「え?」」
地面にたおれてるプテラーの身体がとつぜん白く光りだす。まぶしくて目をうすめたくなる。
「なにが起きてるの⁉︎」
光が弱まっていくと、さっきまで全身が黒かったプテラーの身体はまっしろになってた。
「正人、見て! プテラーのツバサが元にもどってる」
「本当だ……。でも、どうして」
「わたしたちがプテラーをたおしたことによって悪い心が消えたんだ。これで元のすがたにもどることができる」
元のすがたにって……。キズついたツバサまでもどっちゃうなんて。でも、治ってよかった。宇宙恐竜は本当にナゾだらけだ。
「カノちゃん、プテラーが元気になってよかったね」
「正人……。うん!」
カノちゃんはとびきりの笑顔をぼくたちに見せた。
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