石山は従兄弟の陰謀を知らない


 問題だ。

 大問題だ。

 数日前に投稿したものが大炎上している。

 石山は頭を抱えた。

 初めは特典を買い取って抽選に応募し、華々しく「あくすた」を集めて華麗に彼氏の座をゲットする算段だったのだ。

 それが初めから大転けしている。

 これは由々しき事態だ。

 奈良へ行くべきか。

 しかし、新幹線に乗るのも面倒くさいし、勉強を中断したくない。

「……そうだ、アイツに頼もう!」

 思い立てば行動が早いのが石山。

 奈良に住む従兄弟に連絡を取ると、電話でことの次第を説明する。

「かくかくしかじかで、特典のあくすたが欲しいんだ。必要な準備はするから、代わりに行ってくれ」

『はぁ?なんでオレが。お前の恋愛事情だろ』

「そこをなんとか!お前の彼女もアイドル好きだろ?そのうちイベントとかについて行くことになるかもしれないじゃないか」

 従兄弟は散々渋るものの、石山は図々しさに押し負け、『準備はやれよ!』と電話を切った。

「よし!」

 これ以上従兄弟に以上彼に嫌われると輝姫かぐやの美しさを語る相手がいなくなる。

 準備は綿密にしよう。

 コラボカフェの予約をとると、石山は早速輝姫かぐやにメッセージを送った。

「愛しの輝姫かぐやさんへ

 必ずやご所望のあくすたを手に入れてくるので楽しみにしていてください。

 それではまた。  石山」

 これでよし、と石山はニヤける。

 彼女の彼氏の座は自分のものだ。


 ***


 ブーとスマホが震える。

 通知を確認すると、石山から一週間前とほぼ変わらないメッセージが表示されていた。

「胡散臭っ」

 いってらっしゃい、と適当に返事を返してパソコンと睨み合うと、夏休みのイベント巡りの計画の続きを練り始める。

 一瞬で既読がついたけれど、返事が返ってくる前に輝姫かぐやはスマホの電源を切った。


 ***

 

 土曜日午前九時。

 石山(従兄弟)は電車の中にいた。

 奈良といっても端っこの端っこ、中心部とは離れた場所に住む彼にとって、奈良最大の駅の構内にあるコラボカフェはそれなりに遠い。

 あの従兄弟は一度締めなければ、と顔だけはいい図々しさの塊のような従兄弟を心の中で恨む。

 乗り換えで戸惑いつつも、しっかりと予定の快速で目的の駅に到着した。

 スマホの地図を見ながら駅構内を進んでいく。

「あそこか」

 少し先に見えてきたのは、大勢の女性客で賑わう一角。

 等身大のパネルが並び、そこで写真撮影する人でいっぱいだ。

 わざわざ並ぶのは面倒だと、遠目から背景にパネルとカフェを写して自撮りをする。

 パシャっといい音が響いて、(自分なりの)キメ顔が映った写真を確認。

 映り込んだ人にはモザイクをかけて、嫌々ながら従兄弟に送信した。

「さてと、確か予約のチケットが必要だったな?」

 財布をゴソゴソと漁り、数日前に郵送されてきたアイドルのシルエットが印刷されたチケットを取り出す。

 時間も予定通りだ。

 なかなかに良いのではないだろうか。

 あのナルシストな従兄弟ならば自分の計画性の素晴らしさに惚れ惚れするようなところだが、従兄弟の計画性がいいのではない。

 自分の、従兄弟が書いたわかりにくすぎる地図を読み取る技術がすごいのだ。

 決して従兄弟がすごいのではない。

 自分が、すごい。

 なにせ、自分には彼女がいる。

「彼氏の座」という餌に釣られてパシリにされている従兄弟とはちがう。

 ――そんなパシリのパシリにされているのが自分。

 だが、そんなことは棚に上げて考えない。

 チケットを使って中に入ると、特典を渡された。

「これだな、抽選券は」

 渡されたのはアイドル五人が集合した写真が使われたシールと、抽選券。

 そして、カフェのコラボメニューを注文できるチケット。

「せっかくだし、何か食べて行こう」

 コラボメニューとして示されていたのは、カレーやカツ丼、パフェなど、十種類。

 迷った挙句、「オニガシラの鬼辛麻婆豆腐」を注文した。

「オニガシラ」ってなんだろう。

 ともかく、鮮やかな赤と、鬼のツノのように配置された豆腐に芸の細かさを感じる。

 が、

「カッッッッラ!」

 ここまで辛いとは思わなかった。

 アイドルは甘々なイメージがあったが、そうではないらしい。

 涙目で水を飲み、甘そうな「タローのピーチパフェ」を追加注文。

「あんっっっま!」

 今度は甘すぎる。

 一周回って舌が痺れるレベルで甘い。

 桃もクリームもソースも甘々だ。

 足して二で割ったくらいのものはないのだろうか。

 ヒイヒイと言いながら、完食した皿を写真に写して従兄弟に送る。

 なんだかんだで美味しくはあったが、もうこんなところには来たくない。

 あのムカつく従兄弟をギャフンと言わせるために、こうなったら抽選で華麗に大当たりをゲットするほかないだろう。


 ***

 


「やっぱ奈良は麻婆豆腐食べよっかなー」

 輝姫かぐやコラボカフェのメニューを見ながらポツリと呟く。

 お昼時のせいもあってお腹が空いてきた。

 今はあんな見るからに辛いものは食べる気にはなれないけれど、各イベント甘い食べ物が多いから、その後に食べるなら鬼辛くらいが丁度良いはずだ。

 同じ理由でこの鬼辛麻婆豆腐は人気らしい。

 そういえば、奈良へ行くと胡散臭いメッセージをよこしてきた石山はどうなったのか。

 そもそも本当に奈良に行ったのかすら怪しい。

 また炎上していたら今度こそ勝姫に大笑いされそうだ。

 もちろん自分ではない。

 石山が、だ。

 すると、丁度スマホがブーと震えた。

 見ると、写真が二枚。

 入り口のボード前で撮ったものと、完食した皿の写真。

 どちらも石山の自撮り。

 御丁寧に、映り込んだ人にはモザイクがかかっている。

 SNSにもこのくらい気の利いた投稿をすれば炎上することなんてなかっただろうに。

 そこまで考えて、ふと疑問が湧く。

「石山ってこんなに気が効くっけ?」

 図々しさの塊のような石山だ。

 今までのラブレターも、一方的に自分の感情を押し付けるようなものばかり。

 そんな彼が、わざわざモザイクをかけてくるのは腑に落ちないし、着ている服もなんだか彼が選ぶようなものではない気がする。

 写真をパソコンに移して顔を近づけてよく見ると……

「あ、加工してる」

 顔の周辺だけ周りの景色が歪んでいるし、顔と体の影の向きが合っていない。

「誰よ、この人」

 調べても、同じ格好の人の写真は見当たらない。

 ネットに載っている写真を加工したわけではなさそうだ。

「ご自身で、って言ったんだけどな」

 料理は食べる前のものを送ってきて欲しかったけれど、これで石山にカマをかけてみようか。

 食べ終わった皿に興味はないけれど、石山に我が物顔で他人の功績を話させるほど正義感がないわけではない。

 ここはしっかり追求しなければ。

 麻婆豆腐はもう少し綺麗に食べたらいいのにと思いながらふんわり笑うと、輝姫かぐや計画の続きを練り始めた。


 ***

 

「抽選当たれ、当たれ」と念じながら石山(従兄弟)は箱に手を入れる。

 今回のコラボカフェのグッズ抽選はコンビニで売られている某クジよろしく箱から引いてもらえるグッズがその場で決まり、その場で受け取れる方式だ。

 狙うはA賞、大当たりの奈良限定ビジュフィギュア五人セット。

 今まで初詣で大吉以外引いたことのないこのクジ運を、ここでも発揮したい!

 この先全部大凶でもいいからA賞を!

 そう念じながら意を決して引いたのは……

 A賞、アクスタセット。

 五人揃ったものが、特別な箱に入っている。

「やったぁ!……」

 これであの図々しい従兄弟をギャフンと言わせられる。

 羨ましさと悔しさがこもった歓声を背景に、石山(従兄弟)はスマホを開いた。

 

***

 

「ねぇ、見てよかぐちゃん。また炎上してるんだけど」

 放課後、数週間前までバイトをしていた学校近くのコーヒーショップでお茶をしばきつつ女子会をしていると、またもや勝姫がスマホを差し出してきた。

『DOUWAプリンス奈良コラボカフェ入場特典 A賞 あくすたセット 買い取ります』

 アカウントは言わずと知れたrock mountain @Otogi school

 コメント欄は当たり前に大炎上。

 例を挙げれば、

「またやってるよコイツ。バカだろ」

「またアクスタひらがななんだけど」

「まずは奈良に行け」 

 輝姫かぐやは、また炎上したコメント欄から目を逸らした。

「これのせいでDOUWAプリンス嫌われたらどうしよう」

「大丈夫だよ。うみが『輝姫かぐやちゃんは輝姫かぐやちゃん、その人はその人でしょ』って言ってたし」

「マジ?よかったー」

 乙姫は期間限定の涼しげなフルーツティーを飲みながら呑気に従兄弟の発言を伝える。

 そして、「面白そうだから進捗教えてって言われてるから教えちゃった」と爆弾を落とした。

「はぁ?教えちゃったの?」

 どうしよう。次に配信で画面を直視できる気がしない。

 普段から尊すぎて直視できていないが、それとはちがう意味で。

「ああーもう、サイアク〜」

「ごめんて」

 輝姫かぐやはお詫びに差し出されたフルーツティーを乙姫の前につき返すと、テーブルに伏せてしまう。

 早速、彼氏選びを後悔し始めた。


 ***

 

 石山(従兄弟)が奈良のコラボカフェに行って早数週間。

 その間自分でも動こうと投稿した相変わらずSNSは炎上し続け、石山はアカウントを消去しざるを得なくなった。

 従兄弟からは特に連絡も来ていない。

 抽選は外れたのだろう。

 これでは交換をすることもできない。

 意味もなく「DOUWAプリンス奈良 あくすた」と検索する。

 コラボカフェのホームページやらの公式情報の次に出てきたのは、フリーマーケットアプリに売られているDOUWAプリンスのあくすた。

「奈良限定ビジュ 五人セット」とされていて、数日前に出されたものらしい。

 サイズは二十センチほどで、輝姫かぐやが求めているものと同じ。

 買い手はまだ決まっていないようだ。

 写真を見ると、鹿をイメージした衣装でのメンバーがポーズをとっている。

「これだ!」

 早速値段を確認。

「おお、安い」

 常にブラックカード決済のためあくすたの相場価格は知らないが、かなりお得なのではないだろうか。

 早速買取のボタンを押す。

 あっという間に話がつき、すぐに発送してくれることに。

 これで彼女を喜ばせることができる。

 石山はその日、眠れなかった。


 ***


 『愛しの輝姫かぐやさんへ

 ご所望のあくすたを手に入れたので、お伺いしようと思います。

 楽しみにしていてください。

 それでは。  石山』

 五人に無理難題を示してから約一カ月。

 二度目の炎上から音沙汰のなかった石山から久しぶりにメッセージが来た。

 胡散臭いがツッコむにも飽きたので細かい部分は無視する。

 石山はあと一時間後にやってくるというから、着替えてでも待っていよう。

 さすがにオタク丸出しのグッズTシャツにホットパンツ姿で会うわけにはいかない。

 若竹色のワンピースに着替えて髪を整えていると、あっという間に時間が経って、インターホンが鳴った。


 ***


「お邪魔します……」

 緊張気味の石山が輝姫かぐやの祖父に案内されたのは、一カ月前と同じ部屋だった。

 ピシッと張り詰めた空気。

 どことなく背筋が伸びる。

 中にはすでに美しいワンピースを着た輝姫かぐやがいて、自分のためにめかしこんでくれたのか、と石山の胸が高鳴った。

 対して、輝姫かぐやは半眼で石山を見る。

 胡散臭さと図々しさが抜けない石山は、正直タイプでもなんでもなかったけれど、約束は約束。

 だけど、早く終わらせたい。

 この後はDOUWAプリンスが出る音楽番組が生放送なのだ。

 リアタイしなければ。

 おしゃれをしたのもそのためで、石山のためではない。

 時間を考慮した結果着替え直すタイミングがなかっただけだ。

 ちなみに今着ているのはDOUWAプリンスと洋服ブランドのコラボ商品。

 ライブにも来て行くほどの輝姫かぐやのお気に入りのワンピース。

 まったく眼中にない石山《《》》と話す間の心の支えだ。

 「輝姫かぐやさん、ご所望のあくすたを手に入れました」

 石山はそう得意げに笑う。

「炎上は大変でしたね。あれからずいぶん時間が経ってからのご連絡でしたが、何をなさっていたのですか?」

「はい。あの後も何度か奈良へ行ってきました」

 本当はそんなことはしていない。

 よくも涼しい顔で堂々と嘘をつけるものだ、と輝姫かぐやは感心する。

「そうですか。食事後の写真も送られてきましたが、はおいしかったですか?」

「はい。ちょうどいい辛さと、具材の味が調和していて、無限に食べられそうでした!」

 写真に写っていたのは、麻婆豆腐。

 偽装するなら口裏くらい合わせればいいものを、というのはまだ口にしない。

「そして、あくすたも、手に入れたのです!」

 石山は得意げに持っていた箱を輝姫かぐやに差し出した。

「アクスタを箱で」と言われたので、確かに箱ごと渡す。

 ただし、郵送された時のままの段ボール箱で。

 箱で、というのはグループ全体で、つまり五人全員分という意味で、段ボール箱とは関係ないのだが石山はよく分かっていなかったらしい。

 一回目の炎上した投稿内容で知っている物だと思っていたが、たまたまだったようだ。

 輝姫かぐやは引き気味にその箱を受け取り、開ける。

 中には五人分のアクスタ。

 たまたまというのは恐ろしい。

 今回の奈良限定ビジュは和風の衣装。

 ただし、出てきたのは鹿だった。

 鹿をモチーフにした衣装でかっこよく、なぜかオニガシラ一人だけ着ぐるみパジャマの鹿ビジュ。

 和風ではない。

 昨年の、「シカシカパラダイス!」という企画のビジュのはずだ。

 握手会に行って直接拝んだ思い出深いビジュ。

 当然、アクスタは全て持っている。

 確かに奈良限定ではあるが……

「具体的に、どのようにして手に入れたのですか?」

 表情を崩さないよう、石山に問いかけると、「手に入らなかったので買い取りました!三万円ほどです」と真顔で返された。

「三万円?」

「はい。あくすたの相場は知りませんが、お得だったと思います」

「――正気ですか?」

 沈黙が続き、輝姫かぐやは一度大きくため息をつく。

「――このサイズのアクスタの相場は、どんなに高くても三千円は行きません。高く見積もっても五人分で一万五千円。あなた、転売ヤーの鴨にされたんですよ。まずは金銭感覚を身に着けたらどうですか?」

 石山はあっという間に青い顔になる。

「それに、これは昨年のもので、私はすでに持っています。そもそも、あなたが送ってきた写真、合成でしょう?顔と体の影の向きが合っていませんし、顔の向きと大きさも不自然です」

 ギクリ、石山の方が強張る。

「あなた、キーマカレーの感想を教えてくれましたけど、写真のお皿は麻婆豆腐のものでしたよ?まさかわざわざ麻婆豆腐とキーマカレー、二品食べたんですか?」

「は、はい、そうです」

 石山の目が泳ぐ。

「そうですか。ちなみに、奈良コラボカフェのメニューにあるカレーはチキンカレーですけどね」

 石山の目が大きく開かれる。

 輝姫かぐやは畳み掛けるように言葉を重ねた。 

「このお話はなかったことに。嘘をつくお方は嫌いです。奈良になんて、行っていないでしょう?フリーマーケットアプリの使い方がわかって良かったですね」

 輝姫かぐやはそう言い残して立ち上がる。

 早くしないとリアタイに間に合わない。

「あの、せめて、受け取ってはくれませんか?」

 石山は震える声で輝姫かぐやを呼び止める。

「…………この期に及んで何を言ってらっしゃるんです?まぁ、お気持ちとそのアクスタだけは受け取ります。従兄弟さんにはお礼を言っておいてください。さようなら」

「でも、喜ばせたかったんです……オタクのことも、もっともっと学ぶから、だからっ」

 小さな呟き。

 気持ちは伝わってきた。

 今までの手紙で十分。

 だけど正直……

「ウザいです。帰ってくれます?」

 もう、振り返らない。

 今振り返ったら、石山にあらぬ期待を抱かせてしまう。

 少なくとも彼にとって自分はそれだけの価値があった。

 石山は悪いやつではない。

 図々しいが要領もいい。

 ただ、きっと自分のことを心の底から理解はしてくれない。

 輝姫かぐやはもう一度小さく「さようなら」というと、そのまま部屋を出ていった。

 後の祖父曰く、あのあと「ぢょっど待っでー」と騒ぎ立てた石山は、玄関からぺいっと追い出されたそうな。


 ***


「わざわざご連絡ありがとうございます。アクスタまで送っていただけるなんて」

『いえ、こちらこそ。従兄弟には弊壁していましたし、オレの彼女の推しはちがうグループですので。迷惑をかけたお詫びに、受け取ってください』

 音楽番組を正座で尊さに発狂しながら正座でリアタイした後。

 輝姫かぐやはとある人物に電話をかけた。

 石山の従兄弟、その人だ。

「迷惑だなんてそんな、こちらこそ」

 輝姫かぐやの前には、赤い衣装を見に纏った五人のアクスタがある。

 数日前に石山(従兄弟)が郵送してきたもので、本人曰く、「従兄弟の裏をかいてギャフンと言わせたいので受け取ってください。アイツが自滅したのは自業自得ってことで」とのことで、同封された手紙には石山と、従兄弟のやりとりの一部始終とお詫びの言葉が綴ってあった。

『まあ、お互い目的を果たせたので、結果オーライということで、ありがとうございました』

「こちらこそ、どうもありがとう」


***

  

 プツリと電話が切れる。

 スマホを机の上に置いて、輝姫かぐやは新しく迎えたアクスタに顔を近づけた。 

 キラキラと窓から差し込む太陽に反射して光るのが、五人のアイドルの神々しさを増す後光になっているようで面白い。

「私だけ得しちゃって、良かったのかな?どう思う?石山に悪いことしちゃったかな?まぁ、八割はアイツの自業自得な気もするけど」

 ぽつり、と呟く言葉は、配信のコメントと違って答えが返ってくるわけでもない。

 窓の外には、寂しげな月が浮かんでいる。

 ふと、古典の授業の内容が頭に浮かんできた。

「偽物を持ち帰った石山は石作の皇子、そんな彼を弄んだ私は輝姫かぐや姫?滑稽で笑えてくる」

 ふふふ、と漏らした笑いにも答えはない。

輝姫かぐや姫はさ、月に帰ったら、どうなっちゃうのかな?罪を犯した彼女は、感情を無くした月の民に戻ってしまう。それこそが、罰なのかな?」

 竹取物語なんて、授業でやった気がするけれど、もう覚えていない。

「もし私が輝姫かぐや姫になったら、月になんて行きたくないな。ネット繋がらなさそうだし。配信も見れなければライブも行けない、グッズも手に入らないんだから、やんなっちゃうよね」

夕暮れに輝く月は、眩しくて見ていられない。

自分は、石山達にとってはあんな存在なのかもしれないけれど、どうしてもあんなふうにはなりたく無かった。

「さて、他の奴らはどうしてるかな……」

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