第18話 アテナは僕が守りたい~クロノス視点~

「クロノス、私のせいで、あなたまで嫌な思いをさせてしまってごめんね」


「アテナこそ、あんな酷い言いがかりをつけられて。アテナは誰よりも努力しているし、頑張っているのに。あいつら、きっとアテナに嫉妬しているんだ。アテナがそこら辺の騎士団員よりも、ずっとずっと強いから」


「ありがとう、クロノス。隊員の中には、女という理由だけでああやってバカにする人間もいるのよ…この国では、騎士団は男の仕事という固定観念があるから…それは仕方がない事なのよ。


 でも、それがどうしても悔しくて、私は頑張っているの。いつかあいつらを、見返してやりたくて。だから気にしないで」


「アテナ…」


 いつもの様ににっこり笑うアテナ。理不尽な男女差別を、当たり前の様にする騎士団。いいや、騎士団だけじゃない。我が国は他の国と比べると、考え方が古い。他国では男女関係なく、活躍しているところも沢山あるのに…


 誰よりも頑張っているアテナが、こんな理不尽が思いをする国なんて、僕は嫌だ!


「クロノス、そんな悲しそうな顔をしないで。私は、クロノスの笑顔が好きよ。本当に大丈夫だから。私、準備してくるわね」


 そう言って笑顔で去っていくアテナがなんだか心配で、そっと後を付けた。


 すると、アテナの美しい紫の瞳から、涙が!でも、すぐにゴシゴシと顔をこすり、真顔に戻ったのだ。


 アテナが泣くだなんて…


 アテナはどんな辛い稽古でも、涙どころか泣き言一つ言わない。それくらい強いのだ。そんなアテナが、泣くだなんて…


 アテナの涙を見た瞬間、無性に胸が締め付けられた。アテナは僕なんかよりも、ずっと辛く苦しい思いをして来たのだろう。それなのにアテナは…


 アテナ、君はどこまでも強い子なのだね。でも、君だってまだ8歳の子供だ。それなのに、こんな理不尽な目に遭っていただなんて…


「このままじゃダメだ…もっともっと頑張らないと。アテナがこの古臭い騎士団で、いいや、この国で安心して生きられる様に、僕が出来る事は!」


 その日から僕は、寝る間も惜しんで稽古に励む様になった。さらに、勉学にも励んだ。それもこれも、理不尽な世界からアテナを守るためだ。


「殿下、少しお休みください。あまり無理をなされたら、お体に差し支えます」


「僕は平気だよ。それよりも、アドルはもう休んでくれ。君はもう歳だろう?」


「誰が歳ですか!私は殿下の手となり足となりたいと考えております。それよりもまさか、殿下があのような事をなさるだなんて…」


「あのような事とは、あの愚か者たちを、騎士団から追放した事かい?」


 僕はどうしてもあの日、アテナに酷い暴言を吐いた奴らを許すことが出来なかった。その為、あいつらの悪事を徹底的に調べ上げたのだ。その結果、あいつらは新人の隊員たちの脅し、金品を奪い取っていたことが分かった。


 早速隊長を含めた騎士団の重役たちに証拠の映像を提出し、あいつらを騎士団から追放してやったという訳だ。元々ろくでもない奴らだとは思っていたが、やっぱりろくでもない奴らだったな。あんな奴らが騎士団にのさばっていたと思うと、吐き気がする。


 たまたま騎士団の公開日の日に重役たちに報告したせいか、たまたま見学に来ていた一部の令嬢たちに目撃されていた様で、その令嬢たちによって一気に噂が広がった。


 そのせいで、彼らは貴族世界からも居場所がなくなってしまったらしい。それにしても、令嬢とは本当におしゃべりな生き物だな。あんなに一瞬で、貴族世界中に広がるだなんて。アテナとは大違いだ…


 アテナが少しでも快適に騎士団で過ごせるように、そんな思いで動いている。


 ふと空を見上げた。雲一つない綺麗な星空だ。


 アテナと出会って、早3年。あの頃の僕は、本当に無力だった。いつも泣いてばかりいて、本当にどうしようもない人間だったな…

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