第18話
それから先輩とフツーにデートらしきものをした。
これをデートっていうのはどうなのかと思うけど、先輩がそう言うんだから仕方ない。
駅の周りにあるショッピングモールをあてもなくぶらぶら。
アパレルショップや雑貨屋さんをひたすらはしごする。
歩いていると先輩は急にいたずらで手を繋いできたりする。ぺいっと振り払うと、頭をぺしぺしってやってくる。だからそういうのやめいって。
そしてやっぱり先輩と並んでいると、視線を感じる気がする。
ここは地元だし、中学の時の知り合いとかに見つかったらどうしたのってなるかも。
まあでも、せいぜい親戚のお姉さんとか。そんな感じじゃないかなあ。
ファミレスを出てから、先輩はキャップにサングラススタイルを崩さない。
私みたいなのがやるとイキってるとか不審者になるんだろうけど、先輩がやるとフツーにかっこいい。ボーイッシュ度が上がる。
パンツもダボッとしたやつではなくぴちっとしたやつを穿いている。
なにかこだわりがあるのかも。まあ、なに着ても様になるんだろうけど。
先輩はアパレルショップの一角で私の着せ替えを企んでいた。
棚に向かってかがむたびに、パンツとシャツの隙間から肌がちらっと見える。シャツの丈が短いせいだ。いやそれは見えてもいいやつ見せるやつなんだろうけど。私なんかはアラっ、と思ってしまう。
「ん、なに?」
腰のくびれに見入っていると、先輩が私の視線に気づいた。ごまかす。
「せ、先輩はなに着ても似合うからいいですよねぇ」
「ん、これ? いま着てるやつね、自分で買ったの一つもないんだよね」
「え?」
「これ似合うねあれも似合うね、であれこれ着せ替えさせられて、そんで買ってもらった」
誰に? とはとても聞きづらい。
お母さんかな、とも思ったけど、先輩のこれまでの言動を見ていると、そういう仲でもなさそうだし。
「あたしって、あんまりその⋯⋯自我っていうか、主体性? ないんだよね。周りからチヤホヤされて流されてばっかで。服とかも、こだわりとか別にないし」
私の予想はあっけなく裏切られた。
けど先輩がそんな自信なさげなことを言うなんて意外だ。本当かどうかはわからないけど。なんで急にそんな事言いだしたのかも。
「わかりました、それってつまりイケメンは話が面白くないみたいなやつですよね」
「ん? ん~~? そうなの? よくわかんないけど」
先輩は手にしたワンピースを私の体に近づけて見比べてきた。
いやそのハワイみたいな花柄はないですて。もしかしてファッションセンス壊滅の人?
「イケメンはイケメンっていうけどさ。女の子の場合、なんかいい呼び方ないのかね」
「イケメンはイケメンだから⋯⋯。ん~⋯⋯イケメスとかですか?」
「フツーちゃんそれはやばいって」
先輩はばしばし私の肩を叩きながら笑い出した。
別にそんな面白いことを言ったつもりはないんですが。わりと真面目に答えたんですが。
「あたし多分コミュ障なんだよね」
先輩は広げた服をきれいに折り畳みながら言う。
「いや全然そんなふうには⋯⋯」
「距離の詰め方バグっているっていうか。よくわかんないっていうか」
そう言われるとそうかもしれない。
距離を詰められなくても詰めすぎてもコミュ障ってことか。難しい。
「ホントは連絡先とかも聞きたかったんだけど、聞けなくてさ~」
「え? そこ? もうそれ以上のことしてますよね?」
デートに誘うとか家に入れるとか。
順序がおかしい気がする。なるほどこれがコミュ障。でも私も人のことあんまり言えない。
「私も、どっちかっていうとそうですよ。今日だって誰も誘えなくて」
「え~そうなんだ、うれしい!」
いやうれしいって何。
まあ、似た者同士ということで多少の親近感は⋯⋯いやでも、先輩のそれと私のはベクトルが違う。
「ほんというとこの前、嫌われたかなーって思ってて。だから今日フツーちゃんから誘ってくれて、めっちゃうれしかった」
にへら、と笑いかけられてどきりとする。
カッコイイと見せかけて急にかわいい。サングラスがなければ即死だったかも⋯⋯。
「てゆーわけで、連絡先交換しよっか?」
「げっ⋯⋯」
「げってなによげって」
そこを握られると、いよいよ逃げ場が⋯⋯。
距離感バグってるって自分でも言ってるし。
連絡先を聞かれなかったのは、私がきっとその他大勢のうちの一人だからとかって考えてた。
でもそれは違うっぽい。ってなると⋯⋯。
「ほらほら先輩命令だよ? 早くスマホ出して」
先輩にカツアゲされてます。
けどちょっと嬉しいみたいに思っちゃってる自分がいる。
アプリのIDを交換すると、さっそくハートマークにちゅっみたいな絵文字が送られてきた。だららっと連続で。
うーん、これがコミュ障ってやつか⋯⋯。
フリョーの先輩がフツーの私を悪堕ちさせようとしてくるんですが! 荒三水 @aresanzui
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