第10話

 公園を出たあとはまっすぐ駅まで歩いた。

 今度は逆で、私が早足で進む隣を先輩が引っ付いてくる。

 

 先輩は「じゃあ駅でぶらぶらしよう」という。どこまでくっついてくる気なのか。

 正直言うと、あんまり一緒に歩きたくない。なぜなら目立つから。目立っているような気がするから。


「なんか、見られてる気がするんですよねー⋯⋯」


 駅周辺までやってきてすれ違う人が増えてくると、一人のときは感じない視線を感じる。

 もちろん見られているのは私ではなく、隣のそら先輩なんだろうけど。


「フツーちゃんかわいいから見られてるんじゃない。ひゅーひゅー」

「だからそら先輩のせいですって。なんか声かけられたりするんじゃないですか」

「私服でウロウロしてたときにあったね。『これからちょっと飲みに行きませんか』みたいな。いや高校生ですけど、っていうと『えぇ~? まじで?』みたいな」

「はぇ~⋯⋯」

「でもさ、向こうもわかっててやってるくさくね? やばくない?」


 フツーに間違えられそうな気もするけど、そういうパターンもあるのか。

 いずれにせよ私には縁のない世界の話だ。



 それから駅の中の近くにあるショッピングモールを適当にブラブラした。

 どこかお店に入るでもなく、あのお店ここにもあるんだーとか言うだけで素通り。本当に目的もなくブラブラ。私一人だと絶対やらないやつ。


 先輩が足を止めたのはちょっとしたゲームコーナーだった。

 クレーンゲームが所狭しと並んでいる。先輩は吸い込まれるように中に入っていった。


「せっかくだからなんか取りたいね。初デートの記念的なものを」

「は、はつでえと?」

「あれ? 違った?」


 そら先輩はケラケラ笑う。そんなこと一言も言ってないし悪意あるすり替えだ。


 周りを見渡していた先輩は小さめの筐体に目をつけた。中には小型のぬいぐるみキーホルダーがぎっしり詰まっている。


 先輩はおもむろにお金を入れてレバーを操作しだした。ぎっしり埋め込まれたぬいぐるみの団結は固く、クレーンは何もすくい上げることができない。


 クレーンが戻り始めるなり先輩はいきなり台パンした。目の前には「筐体を叩かないでください」と注意書きがある。


「ちょっ⋯⋯やめてくださいって!」

「ナメてんなこれ」

「店員さん来たらどうすんですか」

「大丈夫大丈夫、『ねえねえこれぜんぜん取れないんですけど~っ』てかわいく言えば取りやすくしてもらって逆転勝利まである。男の店員ならいける」

 

 まさかこの女常習犯か。汚い、汚いぞ。

 かわいいからって甘やかすのはよくない。

 かくいう私はそうやって店員に声を掛けることもできず、ストイックな勝負を繰り返してきたというのに。

 

「フツーちゃん上手なの?」

「まあ、多少は」


 といいつつ腕には覚えがある。

 あまねゲームにおこづかい使いすぎ! ってお母さんに怒られて半泣きになったぐらい。それ以来おこづかい減額食らったぐらい。

 今はもう足を洗った。魔王を倒したあとの勇者みたいな心持ちである。


「んじゃ一回やってみて」


 先輩が勝手にお金を入れた。

 流れてくる音を聞いて、あの血湧き肉躍る戦いの日々の感覚が蘇ってくる。


 私は前のめりに筐体にとりついた。まずは高さチェックだ。

 腰をかがめると、お尻に変な感触がした。

 

「って痴漢!」


 振り向きざま触れていた手を払いのけた。先輩の手だった。

 

「いまお尻触りましたよね? なんで触るんですか?」

「いや、突き出してくるから触ってほしいのかと思って」

「集中してるんですよ集中!」


 ちょっかい出されると気が散る。

 というかいま私の後ろに立つんじゃねえ。

 私が目で威嚇すると、先輩はなにか名案でも思いついたように手を打った。


「わかった、じゃあ二人で協力プレイしよう」

「そんな概念はないです」

「あるでしょ、あたしが横移動やるからフツーちゃんが縦」

「ないですよ、横ミスった時点で終了です」

「うわガチだね~」


 先輩を無視してレバーに手をかける。

 何を思ったか先輩はすぐ近くで私の横顔をじっと見つめてきた。また気が散る。

 

「おーフツーちゃんすげー! 2つゲット!」


 私の動かしたクレーンはぬいぐるみの坂を崩して転がした。先輩が取り出したぬいぐるみは2つとも同じ「わ⋯⋯ァ⋯⋯」な顔をしている。泣いてる。


「フツーちゃんにひとつあげる」

「えっ、いいんですか?」

「いいよいいよ~。あ、2つともあげようか?」

「いや自分が欲しかったんじゃないんですか」


 お金を払ったのは先輩だ。ならなぜ金を入れた。

   

「そしたらカバンにつけようよ、一緒に」


 先輩は手早く自分のカバンにくくりつけると、残りの一つを手渡してきた。

 まあ別にカバンにつけるぐらい、いいですけど。それこそ中学の時はキャッチャーで取ったやつを勲章みたいにカバンにくっつけまくってイキるという痛々しいことしてましたけど。


「えへ、これでおそろいだね」


 ここにきてフツーの女の子みたいなことをされて調子が狂う。

 フリョーのくせにたまにフツーにかわいかったりする。天然なのか、なにか裏があるのか。

 

「くく⋯⋯これでぬいぐるみを見るたびにあたしのことが頭によぎる、と」


 なんか言ってますね。

 んーこれは黒。

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