第2話 腐食の大地

-side ウィル-



「ここが腐食の大地〜楽しみだな!」

「ワクワクしてきた〜!」

「ここでワクワクするのどうかと思いますが」



 俺たちが腐食の大地を前にワクワクしていると、後ろって冷たい声が聞こえてくる。

 黒い髪に鋭い目をしたイケメン――セバスチャンは護衛兼執事だ。本来なら怯えてもおかしくないこの状況に、全く怯えている気配がない彼もまた只者ではない。

 なんせ、彼は史上最年少Sランク冒険者の称号を持っている天才少年だから。



「ふむ。ここだったらなんとかやっていけそうだ」

「もう?早くない?」

「まあ、普通の感覚だったらな」

「そっか。そういえば、君、全然普通じゃなかった。というか、君が普通だった瞬間を見た事、生まれてから一度もなかった。もし普通の行動を取るとしたら百発百中で天変地異の前触れだと言えるだろうね」

「よくなんの根拠もない発言をそんな早口でベラベラと。口が回りすぎだろ」

「そこで言い過ぎだとは突っ込まないのがウィルのいいところ」

「いろんな意味でずれまくってます。お二方とも」

「「お前もな」」

 


 セバスの呆れたツッコミに俺たちはすかさず返す。こいつはこいつで感覚がずれまくっているのだ。


 

「正直1ミリも自慢できないことを堂々と言わせてもらうと、俺とシンディはやばいことを自覚している」

「そーだそーだ!」

「本当に1ミリも自慢できないことを堂々と言わないでもらえます?」

「うるさい!だけど、お前に至ってはヤバさを自覚せずに、自分がまともぶっていつもツッコミ役に徹している!そーいうやつが大体1番やばい!」

「そーだそーだ!」

「風評被害も行き過ぎるとただの誹謗中傷になり、風紀を乱すと思うので、せっかくの追放ですし、ある程度ここら辺でこいつらしごくのはアリですかね……」



 セバスの目がぎらりと光る。うっ……これだよ、これ。これなんだよな。

 こいつは……怒らせたらダントツでヤバい。

 これはまずいっ!そう思ったさっきから「そーだそーだ!」しか言わないシンディと一緒に反論する。

 

 

「い、今更、俺たちの風紀をまだ正そうとしている!普通だったらとっくの昔に諦めているはずなのに!やっぱりこいつはやべえやつだと思う!」

「そーだそーだ!」

「お褒めに預かり光栄です。そしてやはり、これは『入り口』への確定演出」



 そう言って、セバスは後ろに出現させた門を開こうとする。

 うん、その『入り口』多分だけど、地獄への入口だよな?



「じょ、冗談じゃないですか!セバスチャンさん!冗談!」



 俺は必死にフォローする。あの門潜りたく無さすぎる。


 

「その割には、結構グサグサ心に刺さりましたが?」

「「えっ……?」」

 


 シンディとハモる。刺さったんだ。正直、自覚して無さすぎてかすりもしないと思ってた。



「セバスにも一応存在したんだ。人間の心が」

「そっくりそのままお返しします。一応、主人にも存在したんですね、人間の心が」

「どっちもどっちだね」

「あなたにだけは「お前だけには「「言われたくない」」



 マッドサイエンティストのシンディがまともな感覚を持っている訳でもない。

 常識を持っているツッコミ役が不在の中、全員がまともなふりをして他者を突っ込む。俺達三人は本当に相性がいいと思う。

 全員化け物で似たもの同士という点は見てみぬふりをするとして。


 

「まあ、一旦それは置いておいて……目の前に広がっている黒い大地について考え始めようか。君たち普通に、さっきからの会話が人間の顔をした悪魔たちみたいな会話なんだけど、大丈夫そう?やっていける?この腐食の大地浄化するには、神々の代理人たる天使の力を頼りにしないといけないみたいだよ?」



 そう言って、シンディは目の前に広がる腐食の大地を指さす。

 目の前には広大に広がる広場だが、全てが限りなく黒っぽいグレーのような灰で一面が覆われている。

 邪神の眷属である悪魔の悪戯によって撒き散らかされた呪いだ。

 その時に、その悪魔を召喚獣にしたのが、セバスである。ちなみに、さっきセバスは悪魔が住んでいる地域に俺たちをぶち込もうとしていた。

 あと、散々呪いを撒き散らした悪魔だが、呪いは自分では解呪できないらしい。

 セバスが散々脅したが、無理とのことだったので多分本当に無理なやつ。

 だが俺には秘策がある。

 


「そこは大丈夫」

「君の実力は疑ってないけど、本当?」



 シンディが明らかに疑っている目で俺を見る。相変わらず、こいつはわかりやすい。


 

「ああ」


 

 俺がこんなに自信があるのも、この腐食の大地。実は前世でプレーしたクラフトシミュレーションのオープンワールドのゲーム「異世界発展村+」に出てくるのだ。

 そして、この世界は「異世界発展村+」と酷似している。

 これは、勝ったな……ガハハ……!



「そうと決まれば、早速天使にお願いに行こう!」

「「え?」」

「え?」



 何を驚いているんだろう?2人とも?

 天使に頼らないといけないって言ってのはシンディの方だったと思うけど?




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異世界発展村++〜クラフトシミュレーションの世界に転生。元平民だと追放されたので、チートスキル[植物建築]で、なぜかついてきてくれた婚約者の天才美少女とチルくてストレスフリーな領地開拓スローライフ〜 幸運寺大大吉丸@書籍発売中 @book_hobby

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