強化人間と美少女型アンドロイドが往くダンジョン殲滅記

ユーラ@KKG&猫部

第1章 取り戻したチカラ

第1話 最期、或いは最初





「…お?ラッキー」


*純度3の魔法石か*

*運ええやん*

*今の相場だと確か10万くらいやっけ?*


地面に落ちていた輝く石を拾い上げる。


俺の名前は蒼坂理亜そうさかりあ。リアって名前のダンジョン配信者だ。2年前に事故で記憶を失った後からなんだかんだ続けてきている。まぁ人気がある訳ではなく、チャンネル登録者は100人と少し、同接数は二桁行けば良い方、趣味でやってる分には十分だ。むしろリスナーとの距離が近いからこっちの方が良いんじゃないかと思ってたり。


「これで今月のアニメイベント制覇出来るぜ」


*全部オタク趣味にぶっ込むんかいw*

*少しは装備とかに使えや*

*金遣い荒いのは改善した方が良いぞ…?*


配信用ドローンが投影するコメントを見ながら、俺は淡い光を放つ魔法石をポーチにしまう。


「大丈夫だって、制覇出来るってだけで全部使うなんて言ってないし」


*全部使うなんて言ってない(9万9999円は使う)*

*信用無くて草*

*そろそろ飯食ってくるンゴ*


「おう、いてらー。そして9万9999円は使うって言った奴。後でDMでお話しような?」


*ゑ*

*お話し…ねぇ…*

*南無(-人- )*


やれやれとため息を吐きながら、俺は更にダンジョンの奥へ足を踏み入れる。




…今から数十年前、世界中に無数の「穴」が出現した。ダンジョンと呼称されるこれらが出現した当初は世界中が混乱に陥ったらしい。


だがそんな混乱も長くは続かず、ダンジョン関連の法律やの資格やのが整備された今ではダンジョンは資源地や魔法石などで金儲け出来る場所としての価値と、普通に暮らしていたら見ることのない“リアル”な戦いを中継、配信するダンジョン配信者による娯楽の地になっていた。


もちろん危険が無いわけじゃないけど、スタンピードを起こす可能性があるダンジョンには自衛隊が駐屯しているし、高レベルダンジョンへの侵入には許可が必要だったりする。まぁ今俺が潜ってるダンジョンでは必要ないけどな。



「さてさて、今日は何がいるかなっと…」


「GyaGyaGya!!」


そう呟いた途端、目の前の藪から人型のE級モンスター「ゴブリン」が笑い声を上げながら現れ殴りかかってきた。


「おっと、危ない危ない」


だが俺はゴブリンの攻撃を難なく躱し、バックステップで距離を取ると腰から取り出した拳銃を構え、引き金を引く。


「Gya?」


発砲音がダンジョンの空洞内に鳴り響き、ゴブリンは血を噴き上げながら倒れ伏す…事は無く再び飛び掛かってきた。


「ウッソだろ!?あれ当たんねぇの!?」


*当たり前やろ、素人はそう簡単に当てられへんねん*

*まぁだからと言って1mで外すのはちょっと…*

*リアはやっぱ銃より剣とかのが向いてると思うんやが*


リスナーが好き勝手言ってるのを横目に俺は引き撃ちを続けるが…当たらない。


「何で当たんないんだよ…!?後お前らごちゃごちゃうるせぇ!俺は銃を使う!」


*その理由は?*


「カッコいいから!」


*やっぱダメだわこの人*

*別に銃じゃなくてもカッコ良さは出せるでしょうに…*

*ゴブリン相手だから良いけど、D級モンスター以上だとワンチャン死ぬぞ?*


「それはそうなんだけどさ…えぇー…一応剣も持って来たけど…」


ダンジョンやモンスター、探索者は国連によってS〜Eにランクが定められており、強さや危険度の大体の指標として用いられている。


ゴブリンなんかのE級は小学校高学年でも倒せるほど弱いし素肌に攻撃を貰っても怪我など負わないが、E級からD級で攻撃力が途端に跳ね上がり、防弾ベストの上から内蔵をやられる事もあるらしい。


何が言いたいかというと、今みたいにゴブリンにペチペチ殴られながら銃を撃ちまくる事はD級相手には不可能って事だな。


「痛い痛い、石で殴んなこの野郎」


*緊張感無いなぁ…*

*これがリアだから*

*本来殺伐とするダンジョン攻略をほのぼのした雰囲気で見れる貴重な配信者()*


俺がいつも潜ってるこのダンジョンはE級な上3層しかないため危険度は1番少ない。出現するモンスターも基本E級で、極稀にD級が出現するが何十回も潜っている俺の方が地の利は上。見かけたらさっさと逃げます。(そのせいで半分雑談配信になってるのは内緒)


……だけどこれでも探索者の端くれ。記憶喪失から立ち直るキッカケになったの期待に応えるため、やっぱり強くなって有名になりたいって気持ちはある。実力は残念ながら伴っていないが。


「俺にもっと魔法の才能があったらなぁ…」


ボヤきながら、良い加減うるさく思えて来たゴブリンの頭を、俺はダンジョンの奥へと歩を進める。


そのまま奥まで進むと、奥に湧水が沸いている場所が見えてきた。


いつもここには複数のモンスターが集まり、効率よく討伐出来るんだが…


「居ない…?」


*おろ?居らへんやん*

*マジか、いつも最低3体は居るのに*

*珍しいこともあるもんやな*


どういう訳か今日は1匹もモンスターが居らず、近寄ってみると慌てて逃げ去っていったような足跡が幾つも残されていた。


「…今日はここまでにしてさっさと帰るか」


正直もう少し進んでみたかったが、胸の嫌な感じが拭えなかったので俺は帰還の判断を下す。


*せやな、それが良い*

*家さ帰るべ*

*安全管理大事や*


リスナーの皆も心配してくれてる。今日は終わりにしよう。


などと思って終わりの挨拶をしようとした、その時。


「よし、じゃあ今日の配信はここま……っ!?」


ドンッ!!


轟音と共に土煙があがる。ダンジョンの奥から飛来した棍棒が体を掠め地面に突き刺さったのだ。


流石に予想できなかった俺は配信を切れず、飛来した方向を向き剣を抜き放つ。ここでカッコいいからと銃を使うほどアホじゃない。


「クソッ、何だ!?」


*え、なに*

*棍棒が飛んできた?*

*リア逃げた方が良い*


「…あぁ、こりゃ逃げるが勝ちだな!」


棍棒が飛来した方向に赤い双眸を認めた俺は、冷や汗をかきつつ全力で走り出した。


「ブモォォォォォォォ!!!」


後ろからナニカの咆哮が響く中、池を飛び越し、岩をよじ登り出口へひたすら走る。


「何だってE級ダンジョンに〈オークロード〉なんか居やがるんだ…」


*やっぱりあれオークロードか*

*やな、稀に起こるって聞いたことある*

*これは帰還の判断早くて命拾いしたな*


再び後ろを見ると、棍棒を握りしめたオークロード猪頭の巨人が地響きを立てながら追いかけて来る様子が目に入り、思わず叫んでしまう。


「ふざけんな身体能力高すぎるだろッ!!」


さっきから複雑な地形を半ばパルクールみたいに移動してきてるが距離は離れるどころか縮まってきている。D級モンスターのコボルトガードとかならとっくに撒けたはずなのに!


*これ本格的にマズくね?*

*マジで死ぬなよ*

*逃げろなniモタモタしてんだ!*


色々書かれてるけど今の俺にはコメントを読む余裕なんか無く、ただ生き残るために全神経を集中させ走ることしか出来ない。


…けどそれでA級モンスター相手にE級探索者が逃げ切れるかと言ったら、ほとんどの人がNoと言うだろう。


「ブモォォォァァァァァァ!!!」


「は!?」


*嘘だろ大ジャンプしてリアの前に!?*

*逃す気は無いってことか*

*どうすりゃ良いんだよ…*


俺の前に降り立ったオークロードは赤い目でこちらを眺め口角を上げながらよだれを垂らしている。対する俺は震える手で剣を構えながらどうにか逃げる手段は無いかと視線を巡らせるが、この行動すらオークロードにはお見通しだった様だ。


「ブモォォォォォォォ!!」


「うおッ!?」


凄まじい速度で振り下ろされる棍棒を辛うじて躱し、抉れた地面に顔が引き攣る。そんな俺の様子を見て、オークロードは口元をニヤつかせ更に追撃を繰り出してきた。



棍棒による薙ぎ払い、丸太のような腕のパンチ、回し蹴りなどなど…一撃一撃がE級の俺を血煙にしかねない攻撃が次々放たれ体力がどんどん無くなっていくのを感じる。


「はぁ、はぁ…チッ、剣が折れやがった」


*クソ、通報はしたけど間に合うか?*

*耐えろリア!*

*頼む逃げ切ってくれ*


「ははッ…まさかこんなトコで死ぬなんてな…」


後方へ飛びずさりただ呟く。


まだ攻撃自体は一撃も喰らっていない。俺程度の防御魔法では展開するだけ無駄、避けた方がよっぽど良いからだ。だけどあからさまに手加減されてる上使から助かってるだけだし、避けるのに専念しても生き残れる訳じゃ無い。


*いやオメェはまだ死なねぇだろ!*

*諦めんなボケ!!*

*いつかは探索者の頂点に立つんじゃなかったんか!*


「いや、そんな事一回も言ってねーっての…まぁ…思ってはいたけどな」


*リア!*


「さて、と。1発くらいかませるかなっと…」


*おいおいおい、本気かよ*

*ふざけんなマジで、死んだらアンチなるからな*

*救援はまだかよ!?*


「往くか………あばよ」


それだけ言って俺は配信を切り相対するオークロードを睨みつける。対して奴は相変わらず気色の悪い笑みを浮かべ、こちらを眺めていた。


「…疾ッ!!」


もはや迷いや生存欲などはない。ただ愚直に、目の前のへ攻撃を当てることだけを考え、走り出す。


「ブモォォォォォォォ!!!」


上からの大振りの攻撃。何時もなら恐怖で身がすくみ動けなくなっていたかもしれないけど、今はこのままだと死ぬな程度にしか感じなかった。


轟ッ!!


「オラァァぁぁぁ!!!」


眼前へ迫る棍棒を躱し懐に潜り込んだ俺は、右拳をオークロードの腹へ全力で叩き込んだ。





-マスターのビーコン反応を探知-





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