「え、私がそっちなの!?」子犬系後輩彼女に食べられるカッコいい私
七斗七
第一章
第1話いただきます1
表と裏って、なんで善と悪みたいに語られるんだろう?
授業が始まり、教科書を偶然裏から開いたとき、ふとそう思った。
表裏一体なんて言葉もある。表と裏はいつだって共存していることを、私達は知っている。
じゃあなんで裏が悪く語られるのかっていったら、きっと公に見せない部分だからだろう。
……見せないことは悪なんだろうか?
私は首を横に振りたかった。
理由は知らない。だって今は授業を聞かないと。
意識を授業に戻そうとした刹那、窓の外に春風に運ばれてきた桜の花びらが、一枚舞ったのが見えた。私の席は窓際の為、窓から外の景色がよく見える。
瞬くように咲いては散る桜の花。
満開の桜は綺麗で好き。散った後の桜も気高く生きていて好き。
……桜の表裏はどっちなんだろう?
その問いも、授業を進める先生の声に吹かれ、花びらと共に飛んでいった。
私立
自由と品性の調和を校風として掲げている、綺麗な校舎が自慢の女子高だ。
「バイバーイ!」
「つかれたー……」
「ねぇ、帰りに本屋さん寄ってもいい?」
下校時になると今日も、校舎から校門まで続く桜の並木道では、学業を終えた生徒たちの思い思いの声が聞こえてくる。
しかし――
『ッ!!』
私が校舎から出てその場に一歩踏み入れると、バラバラになっていた彼女達の思いは、想いとして統一された。
「ねぇ見て! 雨ノ音さんよ!」
「今日もカッコいいなぁ……」
「え、あの先輩が噂の!? うわぁ……女子高の王子様って本当にいるんだ……」
「中性的なのがいいよね! ボーイッシュだけど女の子の美しさがあるっていうか!」
「挨拶だけでもしちゃダメかな!?」
歩いているだけで、生徒達が足を止め、視線を私に向けるのが分かる。
そんな彼女達に向かい、私は堂々と胸を張って歩を進め、大声を出さなくても十分に声が届く位置まできたら一旦立ち止まり、涼しい顔の流し目で周囲を見渡す。
――場に一瞬の緊張感が生まれる。
その直後、私は軽く微笑み、彼女達に手を振りながらこう言った。
「またね」
『キャーーーーーーーー!!!!』
それだけで、悲鳴にも似た黄色い歓声が、満開に響き渡った。
これが私、結衣園女子高等学校二年、
幼少期から背が高く、顔立ちも女の子にしてはシャープで、かわいいよりもカッコいいと言われたことの方がずっと多かった。
これは使い方によっては大きな武器になる――まだ幼かった頃の私でも、直感的にそう分かった。そして始めたのが、中学からの女子校通い。
結果的に私の直感は的中。見事女子校の王子様ポジションを確立することに成功する。
高校生になった現在も見事そのポジションは継続中。最近身長が伸び悩んでいるけど、それでも168センチはあるし、顔立ちは更に洗練されてきた。最近では学年も二年に上がり、後輩が入ってきたから、これから全盛期を迎える予感すらある。
この生き方を自ら選んできたのだから、私にとって黄色い歓声を浴びることは生きがいであり、日々を楽しむ自信の源だ。私を見て喜んだり楽しんだりしてくれている人達を見たときが、私は何よりも嬉しい。
はっはっは! 我が人生の意義、ここに見つけたり!
……そのはずなんだけどな。
手と共に爽やかな笑顔を振りまきながら並木道を歩いていると、一瞬笑顔が引きつるのが分かった。
いけないいけない、しっかりしないと……。
「ん?」
そのときだった――一人の生徒が気になったのは――
周囲の生徒に混じって立ち止まり、こちらにキラキラとした目を向けてくれている、小柄な女の子(150センチくらいかな)。今初めて見たし、制服の胸元のリボンがあの色ってことは、新入生だろう。
顔立ちも高校生にしては童顔で、どこか子犬のような印象の子だ。結衣園の制服が初々しくて、とてもかわいらしい。
だけど、それが気になった理由ではない。私はモテるから、かわいい子にも慣れている。カッコいいことが自慢なんだ、ここで謙遜していては王子様が廃れる。自らを王子様と自覚するからこそ、王子様としての振る舞いを全うすることができるんだ。
ならなぜ気になったのか? あの子はなにかが他の生徒と違っていたからだ。
その正体は……周囲からちゃんとカッコよく映るように意識している今、そこまで考える余裕はなかった。
横を通り過ぎる手前、他の生徒にしたように手を振ってあげると、その子は弾けるような笑顔で、両腕を使って誰よりも大きく振り返してくれた――
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