S級冒険者だったけど100年前に転生してもう一度魔王軍と戦うフラグが立っている件について

秋犬

主人公が一番強い

 目を覚ますと、集団の中で座らされていた。周囲は小僧だらけで、どいつもこいつも純朴そうな顔をしてやがる。ああ、わかったぞ。これは修練学校アカデミー時代の夢に違いない。


「ヨハン・ストラウト。前に出なさい」


 誰か呼ばれてやがる。でも俺には関係ない。俺が目を閉じようとしたとき、凄まじい怒号が俺の上に降ってきた。


「ヨハン・ストラウト! 居眠りとは良い度胸だな!!」


 は!?

 俺の名前はヨハンなんかじゃねえぞ。俺は泣く子も黙るS級冒険者エイオス・カダルスその人だぞ!?


「おいヨハン、さっさと前に出ろよ」


 隣の奴に小突かれて、俺は前に出る。どうやら俺はヨハンらしい。変な夢もあったもんだ。


「はぁい……」


 俺はやる気無く立ち上がって前に出た。小僧どもが20人くらい。一体ここはどこで、俺は何をすればいいんだ?


「あの、何をすればいいんでしたっけ?」


 俺のド天然な質問にガキどもは笑い、おそらくセンコーと思われる偉そうな奴は青筋を立てた。


「今は剣術の試験の時間だ! 受け身の基礎が身についているか確認するぞ!」


 はあ……そうですか。俺は持たされていた木刀を構える。受け身の試験だって? 馬鹿馬鹿しい。その気になれば俺はここにいる奴らを全員ぶっ飛ばせる自信があるぞ。


「そうですか、それじゃ遠慮なくかかってきてください」


 受け身なんてしゃらくさい。とりあえずこいつはぶちのめす。


 センコーらしき男が木刀片手に突っ込んできた。受け身の基礎、なんて嘘じゃねえか。俺をぶちのめすつもりだなこいつ。俺は半身で奴の剣を受けてやった。その時、思ったより俺の腕が痺れる感じがしたが気にしないことにした。


「それで、どうするんですか?」


 剣を止めたら後はこっちのもんだ。でもさっきの痺れが気になったから、俺は加速魔術を使うことにした。


超速壱式ギア・ファースト


「貴様一体何をぶっ」


 センコーが最後まで何を言おうとしたのかはわからなかった。ただ俺はムカつくセンコーを加速魔術を用いて木刀でぶっ飛ばしただけだ。地面に座ったガキどもがポカンとしているのが見える。俺が代わりに剣術の先生でもやってやろうか?


「ヨハン、お前……一体……」


 さっき俺を小突いた奴が震える声で呟きながら、俺を指さす。


「ああ、加速魔術を使っただけだ。それが一体何なんだ?」


 変な夢なら覚めて欲しいが、一向に覚める気配がない。周囲の気まずい感じがずんと染みてきて、俺は次第になんてことをしたのかと思い始めた。


「ヨハン・ストラウト! 貴様一体何をしたのかわかってるのか!?」


 代わりと思われるセンコーが一斉に駆けつけて、俺を取り囲んだ。


「あの、こいつが弱かっただけだと思うんだけど……」

「問答無用! 貴様は退学処分だ!」

「俺に勝ってからそういうこと言ってもらっていいですか?」


 センコーの数は4人。余裕。加速魔術を使ってもいいけど、別にこのくらいなら地力で十分。


「生意気を!? 劣等生のくせに!」


 劣等生? 上等だ。俺を誰だと思ってやがる。天下のエイオス・カダルス様だぞ?


「こっちから行きますよ」


 ムカつくので俺は全員ぶっ飛ばすことにした。まずは一番手前のヒゲ。ヒゲは俺の中段から繰り出した突きを食らって吹っ飛んだ。まあ、こいつは威力を高めればドラゴンにも通用する奴だから随分と手加減をしたつもりだ。


「ヨハン! 止まりなさい!」


 だからヨハンって誰なんだよ。次はそう叫んだ背の高い奴を俺の木刀は捕らえた。下から掬い上げるような攻撃をこいつは一度受けたが、その後の俺の切り返しについて行けずに地面とキスすることになった。その次にやってきたデブは木刀を使うまでもなく、俺の足払いと蹴りで勝負がついた。最後にひとり残った奴は少々骨がありそうだった。それにしてもこいつ、どこかで見たことあるな。誰だっけ。


「ヨハン! 何故急にそんな力がついた?」


 俺の上段からの木刀を受けてもそいつはびくともしなかった。流石、戦いはこうでないと。


「力もなにも、俺はいつも通りだぜ?」

「もしかして……お前、ヨハンじゃないのか?」


 そう言えば、さっきからこいつらは俺のことをずっとヨハンって呼んでるよな。だからヨハンって誰なんだって思ってたけど、もしかしたら俺がエイオス・カダルスって方が実は間違っているんじゃないのか……?


「ヨハンだか何だか知らねえが、俺は次元狭間龍スケイプド・ドラゴンを追いかけるS級冒険者の免許があるんだが」

「何を言ってるんだ? お前の夢の話か?」


 は? いくらいけ好かないセンコーだろうとスケイプド・ドラゴンを知らねえってっことはねえだろう!? 頼む、何かの間違いだって認めてくれ!


「それに、先ほどの動きを速くした魔術はなんだ?」


 ただの加速魔術じゃないか……マジでこいつが何を言ってるのかわかんねえ! こんなワケのわかんないときこそ、俺のS級冒険者のカンを働かせる時だろう!?


「なあ、今何年だ!?」

「ヨハン、こんなときにふざけて……」

「いいから俺が勝ったら答えろ、今何年だ!?」


 いいや、こいつらには身体でわからせるしかない。人間相手に強化魔術は基本使わないのだけど、この話が通じない連中にはこのくらいしたほうがいいだろう。


体力増加フィジカル・アップ


 俺の一撃の重さが増した。焦ったのは向こうだった。


「待て、強化魔術はまだ教えてないはずだぞ?」

「俺は使えるんだよ、馬鹿め」


 向こうも急いで強化魔術を唱えるが、そうはさせるものか。


捕縛ゲイルド・シュレック


 俺は捕縛の術を唱えて奴を押さえつける。動きの止まった奴の懐に入ったらこっちのもんだ。俺は木刀を捨てて思い切り奴のみぞおちを殴りつけた。


「ぐふっ!」


 へっ、ざまあみろ。俺に楯突こうなんて100年早いんだよ。俺の前に膝をついたセンコーは俺を見上げ、座っているガキどもは硬直している。


「ヨハン、一体何があったんだ……? 君は、本当に誰なんだ?」

「だから俺はエイオス・カダルスだって言ってるだろう?」


 俺を見る目が冷たい。あれ、俺の方がおかしいのかな……?


 そう言えば、いつもより魔術の効きが悪い気もするし、なんか周りの奴らの服装が古めかしい気もする……?


「ヨハン、いやエイオスと呼べばいいのか? その怪しい魔術は一体なんだ?」


 一番歯ごたえのあったセンコーが俺に話しかけてきた。


「怪しいって、何も怪しいところはないぞ、俺は修練学校アカデミーでちゃんとみんな習ったんだからな!」

「そのアカデミーというのは何だ?」


 修練学校アカデミーを知らない、なんて嘘だ。いよいよおかしいのは俺の方なのか!?


「ここは王立魔術学園カレッジだ。君はこの前魔術師候補生として基礎の剣技の授業中だったはずだ」


 王立魔術学園カレッジだって!?


 嫌な汗が俺の背中を伝って落ちていく。王立魔術学園カレッジだって、そんなの有り得ない。


 その制度があったのは俺の知る限り、100年前の話だぞ!?

 つまり、俺は過去にやってきたってことなのか!?


 しかも、どうやら俺はヨハン・ストラウトというガキの身体に入ってるらしい。確か冒険者の階級制度がスタートしたのは40年くらい前だっていうから、俺がいくらS級冒険者って言っても通じないわけだ。


 100年前と言えば、第4次魔王行軍の時期じゃないか。このままで行くと、俺は魔王軍と戦うことになるのか?


「ヨハン、今から貴様には特別授業だ。とりあえず校長室に行け」


 俺はようやくそいつのことを思い出した。第4次魔王行軍時に活躍したとされる勇者一行として銅像が残っている、疾風のアインツ・ドライじゃないか……!?


「あの……」

「いいから、行け」


 アインツ先生の目は思いのほか冷たかった。俺はこれからのことを考えてちょっと気が重くなった。


〈続かない〉


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