第1話 始まりの荒野 Aパート
北米大陸のとある荒野。
その荒野を一台の軍用ジープが大地を駆けていた。
軍から払い下げられたジープに乗っている三人の男女は、今向かっている研究所に着く時間について話していた。
「後何分で“シークレット・テクノロジー研究所”に着くのかな?
「後10分だ。それと、尻ぐらいは我慢しろ。このジープ以上に固い座席に座っていただろ。エリー」
「む~~。それは、そうだけど~。それが女の子にかける言葉~? 少しデリカシーが無いんじゃないの~? そうでしょう? イウル君?」
「その話をいきなり僕に振るんですか? アーネム中尉?」
昔の階級込みで呼ばれたエリー・アーネムは、少しムッとした表情をして、イウル・ヴェーノの顔をジト目で見る。
「イウル君。貴方を含めて、私達はもう軍人じゃないんだから、階級抜きかつ名前で呼んでよね」
「申し訳ありません。エリー……さん」
「それでOK よ♪」
エリーとイウルのやり取りに呆れつつも、
「ちょっと、スピードを上げるなら、上げるって言ってくれる?」
「鉱獣か動塊が出る可能性を考慮とお前の尻を配慮して早く着くようにスピードを出している。言わなくて、すまなかった」
「そう言われたら……、納得するしかないよね♪」
態度をコロリと変えたエリーに呆れつつも、イウルは恭一に質問する。
「それにしても、僕達はシークレット・テクノロジー研究所で何をするんでしょうね? 除隊してしばらくした後に、エリーさんが見つけた求人情報で行くこととなりましたけど」
「確かあの求人情報には、『元軍人等の実戦経験者は大歓迎‼』って書いてあったから、大方は警備かそれともーー」
「テストパイロットか。とりあえず、研究所へと一刻も早く到着するぞ」
「だからと言って、スピード飛ばしすぎ~~!! 髪が乱れるでしょう~~~!!」
エリーのクレームを無視して恭一はジープのアクセルを強く踏んで引き続きシークレット・テクノロジー研究所へと向かうのであった。
オープンフィンガーグローブを着けた両拳を握りしめボクシングの構えを取る虎鉄は、木刀で居合いの構えで相対しているラメルに向かって宣言した。
「ラメル!! この模擬戦、オレの勝利で飾らせてもらうぜ!!!」
「それはこっちの台詞よ! 今日の模擬戦三回目の勝者はアタシなんだから!!」
お互いそう宣言すると、お互い一歩も動かず睨み合う。
その睨み合いが数秒経った時、虎鉄とラメルはお互い数歩踏み込んで接近し、模擬戦を始めた。
まずは虎鉄の右ストレートが放たれるも、ラメルはそれを紙一重でかわし木刀による居合いの一撃を喰らわせようとする。
しかし、それに気づいている虎鉄はバックステップで木刀の居合いを回避する。
「やるね」
「これぐらいは、お互いできるだろ」
「それもそうか」
短く会話をした二人は、即座にそれを終えて再び数歩踏み込んだ。
虎鉄はハイキックで木刀を叩き落とそうと片足を上げかけるも、ラメルは瞬時にしゃがんでその蹴りをかわし床を踏みしめている方の片足を狙う。
しかしそれはフェイントであった。
蹴りをしようとしていた足で木刀の切っ先を踏んでラメルの武器を封じる。
だがラメルは木刀を手離してさっきの虎鉄みたいにバックステップで距離を取る。
「さっきのオレの真似じゃなさそうだな!」
「その通り!!」
ラメルは得意げな笑みを浮かべて、太ももに装備している木製の棒手裏剣を取り出して虎鉄めがけて投げ放つ。
しかし、虎鉄は冷静に高くジャンプしてその木製棒手裏剣を回避した。
そしてすぐに空中一回転して片足跳び蹴りを決めた。
対してラメルは腕を交差させ、その蹴りをガードして虎鉄の跳び蹴りを防いで虎鉄を弾き跳ばした。
「そこまでだ!!」
弾き跳ばされた虎鉄が床に着地すると同時に、厳格そうな男の声が武道館に響きわたる。
虎鉄とラメルは、ほぼ同時にその男の名前を親愛と敬意を籠めて呼んだ。
「セルド師匠!!」
「セルド先生!!」
二人の師匠であるセルド・ゾンドは、弟子とも言うべき虎鉄とラメルに休息を勧める。
「二人共、そこまでで良いだろう。いつ、“敵”が来るかも分からん。故に休んでおけ」
「「解りました!!!!」」
虎鉄とラメルはそう元気良く返事した後、勢い良く武道館を後にした。
「相変わらず、元気なものだな……」
セルドはそう言って呆れながらも、どこか穏やかな表情を浮かべていた。
「ここが、シークレット・テクノロジー研究所か」
「中々、物々しい塀で囲まれていますね」
「塀だけじゃなくて、中にある施設も物々しそうじゃない?」
恭一、エリー、イウルの三人はシークレット・テクノロジー研究所を見て何気なく会話する。
そうして少し会話していると、イウルが物々しいと言った塀の真正面にある自動ドアがスムーズな音を立てて開く。
その自動ドアが開き終わると、その向こうには白衣を着た冴えない雰囲気を醸し出しながらも知的な印象がある男性が塀の外を出て恭一達に挨拶した。
「ようこそ、シーテク研へ。私はこのシーテク研所長であるファリル・フェンだ。今後ともよろしく」
「よ、よろしくお願いします……」
ファリルの緩やかな態度にイウルは脱力しかけるも、なんとか返事をする。
エリーはそんなファリルに質問する。
「ええと、私はエリー・アーネムですけど、このシーテク研での仕事は何ですか?」
(さっそく、
エリーの軽いノリに恭一がいつもの事だと少し呆れ気味に考えていると、突如として警報が研究所一帯に鳴り響く。
警報を聞いて、軍にいた頃の習慣で身構える恭一、エリー、イウルの三人に対して、ファリルはいたって冷静であった。
「やれやれ、また襲撃か。なら、話は早い。確か、君達は元“地球圏統合連邦軍”のパイロットだったよね? 今から紹介する機体に乗って、シーテク研を守ってくれないかな? ちゃんと、お給料は口座に振り込むよ」
「お給料の金額はともかく、私達が動かせる機体はどんな
「まだ、HCWとは一言も言ってないが鋭いな。話す時間も惜しい。とりあえず、急ぐぞ!」
そう言い終えて走り出すファリルを先頭に、恭一達もファリルに続くようにその後を走った。
研究所内の休憩室で休んでいた虎鉄とラメルは、急ぐように格納庫へと走っていた。
「急ぐぞ、ラメル!!」
「言われなくても急いでるよ!! バカ虎鉄!!!」
そうして走っている二人に並列するようにファリルが迫ってくる。
「虎鉄とラメルは相変わらず競い合うね。喧嘩する程仲が良いって奴かな?」
「「そんなんじゃない(よ)!! ファリル博士!!!」」
「あらあら、随分と息が合ったツッコミで」
「冷やかすな、エリー。今は格納庫へと辿り着く事だけを考えろ」
「彼の言う通りだな。今は戦うための力を手にする事だけを考えるべきだ」
「そう言う貴方は誰ですか?」
イウルのごもっともな質問にファリルが横から入るように答えた。
「彼はセルド・ゾンド。私の古い友人だ」
「教えいただきありがとうございます。後、我々の名前はーー」
そうしてイウルは、自身を含めた三人の名前とシークレット・テクノロジー研究所に来た理由を述べた。
「解った。なら、信じよう」
「信じるのは、我々の腕だけですか?」
恭一の指摘にセルドはこう返す。
「それだけではない。合ってすぐではあるが、君達の真っ直ぐな目を見て信じると決めた」
「それだけじゃなくて、君達の前歴を確認しての判断なのは付け加えておくね。ん? そうこう言っている内に格納庫に着くみたいだよ」
ファリルがそう言うと同時に一同は格納庫へと入っていった。
その頃、シーテク研は敵の攻撃を受けていたが、あの物々しい塀の上から突き出たバリア発生装置によってできたバリアのお陰でなんとか無事であった。
そんな中、シーテク研のレーダー室に勤めている所員がこう呟く。
「敵さん、とんでもない数で来たな…」
「そうだね。ざっと数えて15機かな?」
「しょ、所長!? どうして、ここに!?」
「どうしても何も、私は
「データベースによれば、“カンカ・エンタープライズ”製の機動兵器12機が研究所周囲を囲んで攻撃し、“遊撃警察隊”が追っている怪ロボット3機がその後方で待機しています!」
所員の報告を聞いたファリルは、スマホを手にして虎鉄達にその報告をそのまま言った後、こう尋ねた。
「ーーと言うわけだ。皆、戦えるな?」
そう尋ねられた一同は、各々こう答えた。
『こちら、虎鉄。とっくに準備はOK だぜ!!!』
『こちらラメル。アタシも大丈夫です』
『イウルです。問題ありません』
『セルドだ。俺も問題無い』
『こちら恭一。大丈夫です』
『こちらエリー。ノープロブレムよ♪』
彼らの返答を聞いたファリルは、リラックスした表情で期待の言葉を言った。
『君達がそう言うのなら、心配は無い。思う存分、戦ってくれ』
ファリルの期待に、虎鉄は武者震いする。
「いつも通り、このシーテク研に手を出す連中を叩きのめしてやるぜ!!」
血気盛んな虎鉄にラメルはモニター越しに呆れながらも同意する。
『アンタって、いっつも猪突猛進ね~。だけど、解らないでもないね……!!』
そんな二人を見ていたイウルは、セルドに尋ねる。
「ゾンドさん。あの二人は、いつもこういった調子で出撃するんですか?」
『そうだ。だが、安心して良い。あの二人の腕は保証する』
「そこまで言うのなら、信じます」
『なら、俺も君達三人の腕と心意気を信じよう』
「はい!!」
イウルとセルドのやり取りを聞いていたエリーは、恭一に話を振る。
「今の話を聞いた? 恭一? 私達の腕と心意気を信じるだって。凄く嬉しくない♪」
『心意気はともかく、腕は信頼されて当然だろ。俺とエリー、イウルは元とはいえ連邦軍でパイロットをしていたからな』
「恭一の言う通りだけど、それじゃ寂しいじゃない」
『話は後だ。まずは“コイツ”を動かす。皆、準備はできているな?』
恭一の問いに、虎鉄は笑みを浮かべて返答する。
「いつも動かしているから、セルド師匠とオレ、ラメルはOK だぜ!!」
虎鉄の返答に、ラメルは頬を膨らませる。
「虎鉄!! アタシをついで感覚で言うな!!!」
ラメルのツッコミにセルドは、平静な声で諭す。
「落ち着け、ラメル。ここではなく、戦場で熱くなれ。無論、冷静さを忘れずにだ」
『す、すいません……』
虎鉄達の会話を尻目に、恭一は自分が乗っているHCWの起動準備を始めた。
「各部チェック異常無し。マンマシーンインターフェイス“
起動準備が終わると同時に、駆動音が低く鳴り響いて、メインカメラであるツインアイとやゴーグルアイに光が灯り、鋼の巨人が起き上がる。
出撃準備が終わったのを確認した虎鉄は、レーダー室にいるファリルに出撃許可を要請する。
「博士! 準備は終わった! だから、発進させてくれ!!」
『了解した。これより、バリアを解除して塀を収納した後、格納庫の天井と大型シャッターを開く。それと、この研究所の外壁と窓は、それぞれ特殊合金と超硬化ガラス製だから多少、攻撃が当たっても平気だ』
ファリルの台詞を合言葉にするように、バリアは解除されて塀は地面へと収納され、格納庫は天井と大型シャッターが同じタイミングで開く。
それと同時に六人のパイロットは、それぞれの相棒である六機の鋼の巨人と共に出撃する。
「相崎 虎鉄、“ファイトカイザー”行くぜ!!!!」
「ラメル・ルーアン、“ナイトエンジェル”出るよ!!!!」
「セルド・ゾンド、“ブレイブギガス”発進する!!」
「名雲 恭一、“イエッロフランメ”出撃する!!」
「エリー・アーネム、“セウリッダー”発進!!」
「イウル・ヴェーノ、“ウニウェルスムクリーガー”行きます!!!」
シークレット・テクノロジー研究所防衛のために敵を迎え撃つ。彼らはそのために出撃する。
だが、彼らは知らない。この戦いの後に、幾多の試練が待ち受けているのをーー。
続く
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