治癒魔法の間違った使い方 ~戦場を駆ける回復要員~/くろかた

【12という数字】


「12って不思議な数字だよね」

 いつもと変わらないリングル王国。

 そんなある日、救命団に遊びに来ていた先輩が、お弁当のサンドイッチを食べている僕とカズキにそんなことを口にしてきた。

「いきなりどうしたんですか?」

「話題だよ、話題。あと、普通にふと思ったことを話したかったんだ」

「なんか話題の出し方が極端すぎて……いや、先輩だからなにが話題に出てもおかしくないのか」

「君は私のことをなんだと思っているのかな!? 吠えるぞ!! きゃん!!」

 なぜそこで子犬の吠え方。

 でも、話題としては確かにと思ってしまうな。

 12って数字は、結構日常でもありふれたものだと思うし。

「まー、確かに俺達が集まると基本近況のことしか話さないですしね。いいんじゃないですか?」

 僕に吠え続ける先輩に、カズキが苦笑いしながらそう言ってくれる。

「では、思いつく12が関係する事柄を出していきたまえ」

 先輩の言葉に、僕とカズキが考える。

「うーん、無難に時間とかですか? 時計の目盛りは1時から12時までありますし」

「うんうん。それもまた12だね。ウサト君は?」

 先輩に促され、僕もぽっと思いついたことを口にする。

「月とかですかね? 1月から12月とか。あとは十二星座とかですか?」

「それもまた12だね」

 なんだか、いざ考えてみると面白いな。

 満足そうに頷いた先輩は、人差し指を立て揚揚と口を開いた。

「オリュンポス十二神、十二神将、十二天、十二天将、十二使徒、などなど神話や伝承などに12という数字が用いられることが多いね」

 めっちゃ知ってるじゃん……。

 でもなんか知ってるジャンルがその……なんというか……。

「へえ、先輩って難しい言葉をよく知ってますね」

「ぐっ、カズキ君、無自覚なのは分かるけどヤメテ……」

「え、なんで……?」

 唐突に胸を押さえた先輩に、カズキが困惑する。

 一瞬で撃沈しつつもすぐに立ち直った先輩は、また口を開く。

「そして、まだ一つある。これは奇しくも私達に関係があるものなんだ」

「俺たちに? それはなんですか?」

 カズキの問いかけに、先輩は得意げに腕を組む。

「ここでクイズさ。さて、それがなんだか分かるかね? 二人とも」

 先輩の問いかけに、僕とカズキは顔を見合わせる。

「……同じ高校?」

「種族的に人間だってことですか?」

「解釈が広すぎるよ!? そもそも12関係ないし!!」

 いや、それはそうですけど。

 俺とカズキの答えに、先輩はため息をした後に答えを口にする。

「答えは十二支、つまり干支。私達の名前には干支の生き物が入っているってことさ」

「「……あ!!」」

 確かに、と思った僕とカズキは同時に声を上げる。

「僕は兎里健の兎で卯」

「俺は龍泉の龍で辰」

「私は犬上の犬で戌ってことだね。共通点としては面白いよね?」

 確かに、意外な共通点だ。

 いや、全然気づかなかった。

「名は体を表すってよく言うもんね。カズキとか龍っぽいし」

「龍っぽいってなんだよ」

「素でかっこいいところ?」

「や、やめてくれよ……」

 素直でそういったらカズキが照れる。

 実際、いざ話してみるとカズキは内面もかっこいいことを知れたし。

 でも、そういう意味で言ったら……。

「ウサト君、なぜ私を見る? あれかな? 君は私のことを犬っぽいと思っているのかな?」

「先輩って犬っぽいっすね」

「口で言った!! 言っちゃった!! がるるる!! きゃん!!」

「先輩ステイ」

「くぅーん」

「言った僕が言うのもあれなんですけど、それでいいんですか」

 悲しそうな子犬の鳴き声をする先輩。

 そういうところだと思うんですけど。

「ウサトも兎っぽくはあるな」

「あ、分かる」

「え、僕ウサギからかけ離れていると思うんですけれど」

 ウサギみたいに可愛いとかはマジでないとは思うけど。

 むしろ、僕としては真逆まである。

「動きが機敏なところ。ウサギみたいにあっという間に移動したりするところだな」

「あー、なるほど」

 なるほど、そういう意味でか。

「君のそっけなさが、小学生の時に学校で飼育していたウサギさんにそっくりだ……!!」

「貴女だけなんか違くないですか?」

 それはもう僕とかウサギとか関係ないでしょ。

 よく分からないことでわなわな震える先輩に呆れる僕に、カズキが笑みを浮かべる。

「だけど、この三人でこんな共通点があるのはちょっと嬉しいな」

「……まあ、確かにね」

「こういう話ができるのも楽しいよ」

 そう言って三人で笑いあう。

 こんな関係、この世界に来る前は想像もできなかったな。

 だからこそ、これから12年、24年、いやそれから先も、ずっとどんなに時間が経っても、僕たちの友情が続いていけばいいなと僕は密かに願うのであった。

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