ぼっちの冒険者は、パーティが組みたい。/くろぬか

【ぼっちだって気を使う】


 昼下がり、冒険者ギルドの玄関脇に座り込んだまま時間が過ぎるのを待っていた。

 中をのぞき込んでみれば、若い冒険者パーティが慌ただしく依頼を選んでいる姿が。


「もぉぉホント何やってんの!? アンタが遅いから、ろくな依頼残ってないし!」


「悪かったって……すみませーん! コレ受けます!」


 まさに元気いっぱいの若者達。

 登録して日が浅いのか、キラキラした瞳をしているように思える。

 今という日々を、これからの未来を夢見ているといった雰囲気が傍から見ても分かるようだ。


「俺も、あんな風に誰かとおしゃべり出来たらなぁ……」


 はぁ、とため息を零しつつ腰のバッグから干し肉の入った袋を取り出した。

 かぶとのバイザーを上げ、一人寂しく簡単な昼食。

 冒険者といったらまずはパーティ。

 友人や歳の近い者を集い、仲間がそろえば冒険の始まり。なんて……何度夢見た事か。

 この仕事を始めてから、何年も経っているのに。

 いまだに俺は、ソロ。

 色々あって周りから避けられる立場にあるのだ。

 身体もデカイし、馬鹿デカイ大剣を使っているので他の人から怖がられている。

 他にも理由はあるのだが……ギルドに立ち寄るのだって、人が少ない時間じゃないと迷惑が掛かってしまう。

 などと思いつつ干し肉をガジガジ、ボケッと街並みを眺めていると周囲の視線がチラチラと此方こちらに向いて来るのが分かった。

 全身よろいだし、縮こまっていてもデカいし、剣も立てかけてある。

 まぁ、見るよね。

 何だか申し訳なくなってしまい、顔を逸らしつつ干し肉をかじり続けていると。


「ほら急いで! 今からじゃ野営確定じゃない!」


「仕方ねぇじゃんよ! 昨日頑張ったんだから、疲れが残ってんの!」


 そんな会話と共に、若者達がギルドから飛び出していった。

 口喧嘩をしていても仲良さそうな様子で、彼等は街の門へと進んでいく。

 何度でも思うけど、いいなぁ……パーティ。

 本来なら最初の一歩であるソレがいまだにかなわないまま、時間だけが過ぎてしまった。

 会話が上手だったり、緊張して黙る癖が直れば違うのかもしれないけど。

 どうにも、苦手だ。

 嫌いなわけじゃない、むしろもっとお喋りしたい。

 もう長い事掲げている、人生の目標。

 冒険者の友人を作って、『固定パーティ』を組む。

 なんて、思っているだけでは始まらないと分かっているのだが。

 どうしてもその一歩が踏み出せない弱虫が、俺。


「……食べてから入ろ」


 ギルド内を覗いてみれば、もうクエストボードに集まっている冒険者は皆無。

 むしろ職員が未処理案件として依頼をがし始めている。

 俺が受けます! と言って飛び込んだ方が良いのだろうけど。

 生憎あいにくとそんな行動力は無いし、相手の仕事を邪魔してしまうのも申し訳ない。

 しかも食事しながら声を掛けるとか、失礼にも程があるだろう。

 幸い、俺には担当受付が付いてくれている。

 だから未処理案件から、ある程度斡旋あっせんしてくれるとは思うのだが。

 なので縮こまったまま静かにモグモグしていると、周りには小動物が集まって来た。

 さっきから口元くらいしか動いていないので警戒が緩んだのか、それとも俺の事を置物か何かと勘違いしているのか。

 猫やら鳥やら、色々居る。

 人もコレくらい寄って来てくれたら嬉しいのに……なんて、やっぱりため息が零れてしまうわけで。


「仕事、行こ……」


 こんな所で嘆いていたところで、というか嘆く事すらしないままねていても変わらない。

 何度同じ事を考えたか分からないが、俺に出来るのは身体を動かす事くらいだ。

 だから今日も、誰かの役に立つ仕事をしようと決めてから空を見上げ。


「いい天気……雨の心配も無し、野営日和だ」


 小声でつぶやいてから、残りの干し肉を口に放り込むのであった。



 非番の昼下がり、街中を歩いていれば。

 冒険者ギルド近くに衛兵が集まっているのが見えた。

 まさかと思って覗き込み……思わずため息が零れる。

 ゴツイ鎧の男が、縮こまって干し肉を食っているではないか。

 街中でも兜を脱がず、デカイ抜き身の大剣を脇において。

 その状態で保存食なんぞ齧っていれば……まぁ、不審に思われる事もあるだろう。

 アイツは……何をやっているんだ。


「すまない、私はこういう者だが」


 衛兵に騎士の紋章を見せてから、彼は普通の冒険者だから問題無いと事情を説明。

 お節介を焼いてみたが……当の本人は此方に気付かず。

 食べ終わったら、さっさとギルドに入って行ってしまうではないか。

 食事に対して口は挟まないから、せめて中で食ってくれ。

 一言声を掛けるかと、ギルドへ足を向けようとしたが……担当受付嬢と喋っている光景を見て、きびすを返した。


「お小言はまた今度だ、“ダージュ”」


 アイツはソロの冒険者。

 誰よりも確かな戦果を残しているくせに、それを語らない無口な剣士。

 勿体もったいない生き方にも思えるが、アイツらしいと言えなくもない。

「あぁ、珈琲コーヒーを買い足しておかないと」


 ポツリと呟いてから、コチラは休日の続きを始めるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る