第18話「オランダ港、奇襲任務の真実」
オランダ港の夜は、霧と冷たい雨に包まれていた。潮と油が混じり合った独特の匂いが、湿った空気に重く漂う。波止場に並ぶコンテナは、まるで巨大な墓標のように、暗闇の中にひっそりと佇んでいる。錆びついた金属の扉には、過去の港湾労働者たちが残したチョークの落書きが、雨に濡れて滲んでいた。霧に霞む照明が、アーバレストの機体に鈍い光を投げかけ、その輪郭を不気味に浮かび上がらせていた。
テッサは、この港を、宗介たち特別チームに、大胆な奇襲作戦を指示していた。彼女の心は、成功への確信と、宗介たちを危険に晒すことへの不安が、激しくぶつかり合っていた。指揮室のモニターには、宗介たち三人の心拍数が表示されている。彼らの心拍数は、緊張と高揚で、一定のベクトルを示していた。しかし、テッサ自身の心拍数は、激しく乱れ、不安と安堵の間で揺れ動いていた。
「宗介、聞いて。この作戦は、私の直感だ。論理的な根拠は、まだない。しかし、私は、この作戦が成功すると信じている…」
テッサの声が、宗介の耳に届く。宗介は、その言葉に、わずかな違和感を覚えた。
(直感…? 論理的な根拠がないのに、なぜ…?)
宗介の脳内のベクトルは、テッサの言葉の必然性を探ろうと暴走し始める。
『直感とは、過去の経験と知識が、無意識下で統合された結果だ。彼女の直感は、私には理解できない、彼女の持つ「ウィスパード」の能力によるものかもしれない。しかし、その直感に、彼女の個人的な感情が混ざっている可能性も否定できない。もし、彼女の個人的な感情が、この作戦の失敗を招けば、私たちは…!』
宗介は、テッサの言葉に、何も答えることができなかった。彼は、アーバレストの武器システムを、完璧な手順で点検していく。彼の手は、冷静に動いていたが、心は、テッサの言葉を信じるべきか、それとも、自分の論理を優先すべきか、激しく葛藤していた。彼の心に、テッサに対する「信頼」と「不信」が複雑に交錯し、摩擦熱を生み出していた。
「宗介、どうした? 緊張してんのか?」
クルツの軽口が、無線越しに聞こえる。
「…任務に、個人的な感情を持ち込むな、クルツ」
マオが、クルツに冷たく返す。宗介は、その二人のやり取りに、かすかに安堵した。
「宗介、信じてくれるわね?」
テッサの声に、わずかな不安が混じっていることに、宗介は気づいた。宗介は、テッサの言葉に、ただ頷くことしかできなかった。彼の心は、もはや論理ではなく、テッサへの信頼という感情の助走が、彼の行動を支配し始めていた。
作戦は、決行された。宗介たちは、テッサの指示通り、港に停泊している敵の輸送船に、奇襲を仕掛けた。
第一次接触:輸送船の入り口に配置された敵の歩哨と遭遇。宗介は、無駄な銃撃を避け、一瞬の格闘で敵を無力化する。
第二次接触:輸送船のデッキ上での銃撃戦。敵は、宗介たちの奇襲に驚きを隠せない。彼らは、まさか、このような悪天候の中、奇襲を仕掛けられるとは思っていなかったのだ。
テッサの直感は、的中した。しかし、その作戦には、大きなリスクが伴っていた。敵の輸送船は、宗介たちが想定していたよりも、はるかに強力な武装をしていた。
「くそっ、見つかったぞ!」
クルツが叫ぶ。金属片が飛び散る音、銃火の音、そして、ASの駆動音が、雨音をかき消していく。宗介のAS、アーバレストの装甲が、敵の銃弾を受け、火花を散らす。
第三次接触:敵の増援、AS部隊との交戦。宗介の心は、焦燥感で満たされていた。
(なぜだ…なぜ、テッサの直感が、こんなに危険な状況を招いた…?)
宗介の脳裏に、過去の失敗の記憶がフラッシュバックする。信じた作戦が、仲間を失う結果を招いた、あの忌まわしい記憶。宗介の思考は、再び、テッサの直感を疑い始める。彼の心に、テッサに対する不信のベクトルが、強く刻み込まれた。
「テッサ! 敵の増援だ!」
クルツの声が、無線越しに響く。宗介は、その声に、絶望した。テッサの直感は、間違っていなかった。しかし、その直感は、宗介たちを、絶体絶命の危機へと導いていた。
第四次接触:その時、テッサの声が、無線越しに響いた。彼女の声は、冷静で、そして、決意に満ちていた。
「宗介、クルツ、マオ…信じて。この作戦は、まだ終わらない」
テッサは、自身の「ウィスパード」の能力を使い、敵の動きを予測し、宗介たちに、次の行動を指示する。テッサの指示は、宗介の論理を嘲笑うかのように、非効率で、そして、危険なものだった。
しかし、宗介は、テッサを信じた。彼の心に、テッサへの信頼という感情の助走が、再び始まる。
宗介は、テッサの指示通り、危険な行動を取った。彼は、敵のASの前に立ち、挑発し、敵の注意を自分に引きつけた。その隙を突き、クルツとマオが、敵のASを撃破していく。作戦は、成功した。
宗介たちは、テッサの大胆な奇襲作戦によって、危機を脱した。しかし、宗介の心には、テッサへの不信が深く刻み込まれていた。彼は、テッサの指揮官としての決断力を認めた。しかし、その決断力は、宗介たちを、死の淵へと突き落としかねない、危険なものだった。宗介の心に、テッサへの信頼と不信が、複雑に交錯し、摩擦熱を生み出していた。
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戦闘後、港には、火薬の煙が漂い、瓦礫に雨が落ちる音だけが響いていた。
「いやー、マジで死ぬかと思ったぜ!」
クルツの軽口が、緊張を和らげる。
「…データ上、生還率は20パーセント未満だったわね」
マオが、現実的な分析で会話を締めくくった。
宗介は、アーバレストのコックピットの中で、静かに拳を握り締めていた。
テッサへの信頼と、不信。その二つの感情は、彼の心を激しく揺さぶっていた。彼は、彼女の命令に従うべきか、それとも、自分の信じる道を歩むべきか、激しく葛藤していた。
この作戦は、テッサの指揮官としての決断力を証明しつつ、宗介の彼女に対する信頼と不信が複雑に交錯する、最初の必然性となった。そして、この矛盾が、今後の二人の関係に、大きな影響を与える感情の助走となるのだった。
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