第11話

「息子のポラリスです、はい、ポーちゃん、こんにちは出来るかな~?」

 アウロラの第一子、ポラリスは水色のベビー服を着た赤ん坊だった。彼は目をぱちくりと瞬く。ゆりかごでごろごろしていたら、突然母に抱き上げられ、知らない相手の前に突き出された。よくわからないので、そのまま母の胸元に顔をうずめる。赤ん坊の額にある一本ツノはまだ柔らかく、母親の肌には刺さらない。


「あら、まだおねむですかね」

「お昼寝はしてきたんですけど、すいません」

「お気遣いなく、子供は寝るのが仕事でしょう」


 アウロラは息子を抱え、一定のリズムで左右に揺れた。堂に入った動きは、常日頃からの親子の親密さを如実に表している。


「あ、あの、すいません、お話聞かせてもらえませんか」

 ひん死のジャスティが、最後の力を振り絞り魔王たちへ声をかけた。


「何だ急に」

「…?あれ、貴方この前のジュースのお客さん」

 二人とも怪訝な顔をしていたが、アウロラの方はうっすらと思い出した。


「はい、先日はジュースご馳走様でした、あの、その、ご結婚…なさってたんですね…?」

 少年勇者はお礼も忘れず、そして震えながら事実を確認した。


「…はあ、そりゃ何百年も前からとっくに結婚してますが」

 アウロラの返答に、ジャスティは血を吐いて倒れた。


 若干十五歳の少年には耐えられなかった。ドラゴンの咆哮より、ゴーレムの一撃より、筋肉ゴリラのつかみ投げよりも。運命の一目惚れをした推しが、子持ちの人妻であったという事実が、なによりも手酷く精神を打ち砕いた。


 少年が聞いてないのもそれはそうで、出先の街中で自らの家族構成をいちいちばらまくような奴は、人間でも魔族でもそんなにいない。


「この子が産まれたのも、もう四十五年も前の話ですよ?」

「俺の親父と同い年」

 ジャスティはまた大量の血を吐いた。

 魔族の種類にも由来するが、基本的に魔族のほうが圧倒的に長命である。ヒトでいう成人にあたる大きさに育つまで、途方もない年月が掛かることなどざらにあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る