団地の朝と、ごみ箱の星
第13話 分別は迷子から始まる
「生ゴミは〜主食になれない〜♪ ならば分別しちゃえば、ぼっくのお〜もいど〜り〜♪」
朝の台所。
さつきはご機嫌に鼻歌を響かせながら、袋の口をキュッと縛った。
外の光はまだやわらかく、あちこちで戸が開く音や、朝の台所の音が重なっている。
シンク横には三つの袋。黄色タグの可燃、青いタグの資源、そして「未判定」。
今日は可燃の日。マグネットのルール表にも「黄=出せ」の文字。
「……で、この子はどっち?」
さつきの手には、謎の破片。木の欠片にプラスチックが刺さり、しかも鳥の羽みたいなものがちょこんとついている。
どう見ても分別に迷わせるための挑戦状だ。
「えいっ、今日は可燃でお願い!」
袋の中にぽんと投げ込む。決断の早さは、さつきの長所だ。間違っていたら……そのとき謝ればいい。この団地はそういう場所だ。カルメラ婆さんにさえ、見つからなければ大丈夫。
袋をまとめて両手に抱え、玄関を開ける。
冷えた空気が顔に当たって、団地の匂いが流れ込む。
頭上の配管からはシュッと白い蒸気。すぐ近くをクリーニングゴーレムが走り抜け、洗剤みたいな匂いを残した。
そのとき――袋の中から、かすかに「ぎゅう」と鳴き声。
思わず足を止める。耳をすませると、ただの擦れる音にも聞こえるし、ほんとうに何かが鳴いたようにも思える。
さつきは袋を持ち直し、苦笑いをひとつ。
「おはよう、って言った? ……可燃でも、仲よくしてね」
一段下りる。
どこかの棟からヤカンの口笛が響き、別の棟から「早くー!」と子どもの声。
湿った配管の間からは、目玉みたいなランプがぎょろりと瞬き、また消えた。
「うふふ、今日も賑やかでいい日になりそう」
ゴミ出しに行くだけ――けれど、この団地では、それも小さな冒険のはじまりに見えてしまうのだった。
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