とある投稿者の記録

『とある投稿者の記録』

【映像記録：2025年6月12日／午後3時／旧瑞江第三児童公園】

（カメラがゆっくりと錆びたフェンスをなぞる。風に揺れる雑草の向こう、青いクジラ型の遊具が半分地面に埋もれている。目の部分は剥がれ、黒くぽっかりと穴が開いている。）

村瀬悠人「この公園、ネットでは“人面クジラの公園”って呼ばれてる。地震でガス管が破裂して、子供が死んだ事故があった場所。だけど、地元の人はそれ以上に、ある“噂”を信じてる。」

（カメラがクジラの遊具にズームする。目の穴の奥に、何かが動いたように見える。）

【SNS投稿：@yuto_murase】

「#人面クジラ #都市伝説 #心霊スポット

旧瑞江第三児童公園に来た。地震で死んだ子供の霊がクジラの遊具に宿ってるって話。マジで目がヤバい。動画撮ったけど、なんか音入ってる。誰か解析できる人いない？」

【インタビュー記録：地元住民・Aさん（仮名）】

Aさん「可哀想だったよ。母親も、ずっと泣いてて…最後は、あの公園で自分も…それからよ。夜になると、クジラの目が光るって。誰もいないのに、遊具が揺れてるとか、子供の声が聞こえるとか…」

【映像記録：2025年6月13日／午後11時／旧瑞江第三児童公園】

（夜の公園。街灯は壊れており、月明かりだけが地面を照らす。クジラの目が、かすかに光っているように見える。風の音に混じって、子供の笑い声が微かに響く。）

村瀬「……誰かいるのか？」

（カメラが左右に揺れる。遊具が、誰も乗っていないのにギシギシと音を立てて揺れている。）

【日記の抜粋：2023年4月18日／高梨真理子】

「翔太が寂しくないように、紙人形を作って埋めた。名前もつけた。“ユウくん”“ミナちゃん”“コウタくん”。翔太があの世で友達を作れるように。次は、翔太の声を呼ぶ。夢で聞いた言葉を紙に書いて燃やす。煙が空に届けば、きっと…」

【映像記録：2025年6月14日／公園裏の林】

（地面に朽ちた紙人形、焦げた紙片、小石で囲まれた円形の跡が残っている。カメラがゆっくりと円の中心を映す。そこに、白く焼け焦げたぬいぐるみの一部が見える。）

村瀬「紙人形、名前、火…。まるで、子供のために何かの儀式をしていたみたいだ」

【日記の抜粋：2023年5月3日／高梨真理子】

「“最後の友達”は、翔太が一番好きだったぬいぐるみ、“シロちゃん”。シロちゃんは、翔太を守るために地獄の門を閉じる役目を持ってる。でも、門は開いたまま。翔太が、あのクジラに乗って、どこかへ行こうとしてる。今夜、私もクジラの口に入る。翔太に会うために」

【新聞記事：2023年5月4日／江戸川区地域紙】

「女性、旧瑞江第三児童公園で自死か。地震後のガス漏れ事故との関連性は不明」

【映像記録：2025年6月17日／午前2時／クジラの遊具前】

（地面が陥没し、黒い穴が広がっている。子供の笑い声が断続的に聞こえる。クジラの目が“人間の目”のように動き、村瀬を見ている。）

村瀬「え」

（画面が乱れ、ノイズが走る。最後に、クジラの目が画面いっぱいに映り、そこに“村瀬悠人”という文字が浮かび上がる。）

【新聞記事：2023年６月１８日／江戸川区地域紙】

「旧瑞江第三児童公園で男性死亡。公園の遊具内で倒れているところを発見された」