声がエミを呼ぶ

@ItsukiHaruma_JP

第1章:そんな日じゃなかった

朝の光が薄いカーテンを通り抜け、私の寝室の天井に金色の帯を描いていた。一瞬、朝の優しい温かさを無視して眠り続けられるかと思った。しかし、そうではなかった。彼女はもうそこにいた。


「もう着替えたの、お姫様?今何時?」


「6時半だよ、パパ。もう準備できた!」


エミの声は、子供だけが持つあの無邪気なエネルギーで私の怠惰を打ち破った。ゆっくりと目を開けると、彼女はベッドの横に立っていて、まるで冒険の鎧のように制服を着ていた。小さくて、活気に満ちていて、生命力に溢れている。世界に残された良いものすべてが…彼女に凝縮されていた。


「本当か?僕はひどい父親に違いない。今日は週末だと誓っていたんだが。」


「パパ、何言ってるかわからないよ。」


彼女は私にあの口元の笑みを向けた。それはどんな言葉よりも「騙されたね」と語っていた。そして一瞬、ほんの一瞬だけ…重荷が消えた。傷跡も、後悔も何もない。ただ私たち二人だけ。


「わかった、君にやられたよ、パパ。」


「お前の年老いた父親にそんなことして恥ずかしくないのか?もうそんな歳じゃないんだぞ、知ってるか?」


「パパ、約束したでしょ!覚えてる?今日はパパが私を公園に連れて行ってくれる日だよ。」


「うーん…それは僕と約束したことか、本当に?」


彼女の笑顔がさらに広がった。それには逆らえなかった。ベッドから起き上がり、抗議するようにお腹が鳴るのを無視しようとした。バスルームは冷たかったが、シャワーを浴びて頭を整理した。急いで服を着て階段を降りると、エミはもう学校のこと—友達、絵、夢—をしゃべりまくっていた。


淹れたてのコーヒーの香りが、彼女が一人で温めようとしたパンケーキの香りと混じり合った。完璧ではなかったが…それが私の幸せの味だった。


電話がカウンターで振動した。画面が点灯し、警察署の名前が表示された。くそ。


「お姫様、警察署でいくつか解決しないといけないことがあるんだ。」


「嘘でしょ?でも、パパ、公園に行くって言ったじゃない!」


あの目。怒りではなく、失望の目。どんな武器よりも胸を痛めるような種類の失望。


「明日、必ず連れて行くから、約束する。」


「本当?」


「本当だ。僕が約束を破ったことがあったか?」


「指切りげんまん?」


「指切りげんまん。」


私たちの小指が「契約」を交わした感触は、どんな金の指輪よりも神聖だった。彼女の額にキスをして、私は家を出た。


知らなかった。誰も知らない。こんな朝が最後になるかもしれないなんて。


事件はありふれたものだった。安っぽい芝居のような夫婦喧嘩。叫び声、涙、そしていつもの結末。しかし、私はそこで何時間も息を潜め、エミのことを考えていた。ようやく家に帰ると、街は白い雪の毛布に包まれていた。


そして、私は見た。


ドアが半開きになっていた。それは意味をなさなかった。


外の寒さなど、内側で感じたものに比べれば何でもなかった。銃を抜き、心臓は高鳴り、足取りはゆっくりと進んだ。明かりは消えていた。沈黙はあまりにも重く、肌にまとわりつくようだった。


「エミ?」


何も聞こえない。


「エミ?!」


中に入った。すべてが…ひっくり返っていた。まるでハリケーンが通り過ぎたかのようだった。胸が張り裂けそうだった。呼び続け、探し続け、部屋から部屋へと走り回った—そして、そこに。


彼女のドレスの切れ端。汚れていた。血が…ついていた。


いや。いや。いやだ。


私の手は震えていた。電話をかけようとして、携帯を落としそうになった。指が番号につまずいた。ようやくかけることができた。


雪が最初に到着した。普段は穏やかな彼女の顔は、石のように硬くなっていた。


「知らせを聞いてすぐに来たわ。何か手がかりは?」


私の喉は乾ききっていた。私の心は、廃墟と化していた。私は…受け入れることができなかった。


彼女は私の肩に手を置いた。単純な仕草だったが、それが私の崩壊を防いだ。


「ここからは私たちが引き継ぐわ。」


「彼女を連れ戻してくれ。この街をひっくり返してでも。」


「必ず彼女を連れ戻すわ、誓うわ。」


そして…すべてが消えた。文字通りではない。しかし、私の中で、光が…消え去った。


三年。


あの日から三年。


今日、私はかつての男の影に過ぎない。散らかったアパートに住み、最も忠実な仲間は、まるでその場所の主人のように床を歩き回るゴキブリだ。私は気にしない。ゴキブリのことも、自分のことも。


冷蔵庫からビールの缶を取り出した。空だった。床に投げつけた。皿にはインスタントラーメン、少しカビが生えていたが、食べられそうだった。


そして…ドアをノックする音がした。


無視した。しかし、彼女はしつこかった。


開けた。もちろん。私の元パートナー、天野 雪だった。


「やあ、不機嫌なじじい。まだ生きてる?」


「ドアを閉めるぞ。今日は君の冗談に付き合う気分じゃない。」


「でも、椅子に座って一日中テレビを見て、人生がいかにクソか嘆く気分はあるのね?」


「そうする方が、君の話を聞くよりずっとマシだ、間違いなく。」


彼女の笑顔はいつも通りだったが…その目には、何か違うものがあった。硬く、真剣なもの。


「今日、大変なことになるわよ、春。」


「なぜだ?」


「市長が消えたの。誰も彼女を見つけられない。」


そしてその瞬間、私は知らなかった。しかし、この事件が私の人生をひっくり返すことになるだろうと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る