エピローグ

最終話 新たな命、最高のハッピーエンド

 ――直樹とロレルは正式に夫婦になった。大勢の魔族、知人に祝福されながら結ばれ、幸せの絶頂を迎えた。

 さらに直樹の執筆したISNはSNSで多くのファンを獲得、晴れて出版社から書籍化され今や直樹は売れっ子作家になった。


 これはその後、あの日から一年が過ぎ、さらなる幸せが訪れたエピローグ。


「――おぎゃあぁ! おぎゃあ!」

 春の名古屋。マミムメゾン――ではなく、千種区のとある一軒家に、元気な赤ちゃんの鳴き声が聞こえた。

「よーしよし、今日も元気いっぱいだねノレル。ほら、ママのおっぱいでちゅよー」

 ここは直樹のマイホーム。ISNの印税とオリハルコン貯金で一括払いで購入した建売住宅である。

 まだ新築の匂いが残る綺麗な家に暮らすのは、直樹とロレル。そしてシルヴィと、生後二ヶ月の新生児。

「ロレル様、やはりここは継母である私が。ノレルは私に抱っこされたいのかも知れません」

「落ち着けよシルヴィ。この泣き方はおっぱいだ。それに見ろ、こんなに夢中で飲んでるぞ。きゃわいすぎだろ」

 直樹がシルヴィを制止する。黒髪に銀の毛が混じる赤ん坊は、ロレルに抱かれながら必死に口を動かしている。

 この子――高田ノレルこそ二人の愛の結晶。魔界と現世の間に産まれた始めての子供であり、これから先、海より深い愛情を注がれる現代魔王の愛娘。

「ほんとノレルきゃんわいいよねー。なんたって私と直樹の赤ちゃんだもん」

「それな。多分――いや、世界一可愛い」

「やれやれ、直樹も親バカ一直線ですね。――ですが、本当に可愛いですね」

 三人の視線がノレルに注がれる。だがロレルが気になることを直樹に訊ねた。

「ねえ直樹。ノレルと私、どっちが可愛い?」

 純粋な疑問。ノレルの愛おしさを誰よりも分かっていながら、ふとそんな疑問が湧いた。直樹は「あはは、そうだな……」と言葉を溜め、すぐに迷わず答えた。

「どっちも世界一可愛いよ。二人とも愛してる」

「……えへへへへへへ。嬉しい。幸せー」

 超バカップルから超バカ夫婦に進化。ノレルが産まれても二人の愛情は何も変わらない。それどころか以前に増してラブラブまである。

「……はぁ、私も直樹との子供が欲しくなりました」

『奇遇ですねシルヴィ。私もです』

「お前ら何言ってんだ⁉︎ シルヴィはともかくアイはAIだろ⁉︎」

 二人の爆弾発言に直樹が大慌てでツッコむ。するとロレルは、ベッドのそばに立っていた直樹の傍に、角をプスっと突き刺した。

「ぎょわあああっ⁉︎ けっこう深くまで刺さってる!」

「うるさい直樹。シルヴィはともかくってなに? こんな可愛い奥さんと子供がいながら、シルヴィと浮気してるの⁉︎」

「してません! 断じてそんな不貞行為してません! おいシルヴィ! 変なこと言うな! お前からも説明しろー!」

「もちろん冗談です。ねえアイ?」

『いいえ、シルヴィはともかく私は本気です。――あ、分かりにくいジョークでしたか?』 

 夫婦になっても四人の関係は変わらない。むしろシルヴィはノレルの継母となり、家族の一員として二人を支えている。

 そんな騒がしい団欒の中、ピンポーンというチャイムが玄関から聞こえてきた。

「私が出てきます。二人は――いえ、三人はごゆっくりどうぞ」

 瞬時にメイドモードに切り替え部屋を出ていくシルヴィ。だが直樹もロレルも、来訪者が誰か分かっていた。

「ロレルー! ノレルー! パパが、お爺ちゃんが来たよー‼︎」

「直樹ー、お邪魔するわよー」

「父さんたちも来たぞー!」

 家に響くラリルと、直樹の両親の声。ラリルはこのところ毎日、直樹の両親ズはほぼ毎週ノレルに会いに来ていた。

「むひょおおお! ノレルちゅわん、今日もきゃーんわいいねぇ!」

 母乳を飲み終わり、すやすやしだしたノレルを見て、ラリルの理性が崩壊する。

「ラリルさん静かに。ノレルちゃん寝てるわよ」

「寝てるところも本当に可愛いなぁ。直樹、ロレルちゃん、マジでグッジョブ!」

 ラリルに呆れながら母が、ノレルに見惚れながら父が、それぞれ口にする。

 賑やかさはさらに増し、騒がしさと温かさが際限なく膨れ上がっていく。

(……なんつーか、これが幸せの答えなのかもな)

 毎日満たされ、代え難い充足感を堪能する日々。ロレルが、ノレルが、シルヴィが、みんなが笑い、幸せが連鎖する。

 過去から逃げ、現実主義者を装っていた時には想像もしていなかった。これほどの幸せが、この世界に存在しているなんて、直樹は未だに信じられなかった。

「……ねえ直樹。幸せだね」

 ロレルも同じことを思っていた。今の幸福をしっかりと受け止め、最愛の夫に寄りかかる。

「ああ、幸せだ」

 直樹も彼女の頭を撫で、全ての愛を伝える。


 ――だがその時。


「……ん? ……はぁ、まーた新しいゲートが開かれたっぽいな。ちょっと行ってくるわ」

 ピリリっと何かの異変に気付いた直樹がそう口にする。

 新たな魔界侵食が起き始めてから常にアンテナを張っている直樹は、新たな召喚も、魔界からの転移も、いち早く気が付き対処してきた。

 何故ならこうなった責任は自分――というかISNにあるから。ならば現代魔王の自分が、責任を持って対処するべきだと、直樹は執筆と現世の秩序の維持を生業にしている。

「待ちなさい直樹君。私が解決してくるから、君はロレルとノレルのそばに……」

「そうはいかないっすパパ。これは俺の責任。誰かに任せたり逃げたりできないっす。パパこそロレルたちとゆっくりしててください」

 魔力が直樹の体を包み、黒龍の鎧が装着される。そのまま窓から飛び出そうとした直樹の腕を、ロレルがガシッと掴んだ。

「直樹待って。――シルヴィ、ノレルをお願い」

「分かりました。お気をつけてロレル様」

 シルヴィがふわりとノレルを抱き上げ、ロレルが直樹の隣に立つ。そして出産後初めて、背中の翼を広げた。

「さ、行くよ直樹! 私と直樹のラブパワーでちゃちゃっと解決しよー!」

「なんでだよ⁉︎ 俺一人で十分だし、お前は待ってろって!」

「ダメー。シルヴィにならノレルを任せられるし、直樹と離れたくないもーん」

 母親になってもラブウォーリア。直樹への愛に忠実すぎる彼女に――やはり直樹は逆らえなかった。

「はぁ…………分かった、分かりました。……一緒に行こうかロレル。俺が絶対守るからな」

「ふへ、えへへへへ。……うん!」


 そして二人は飛び立った。固く手を繋ぎ、自分たちと――ノレルが生きていく世界を守るため。


「ずーっと大好きだよ、直樹」

「俺もだよ、ロレル」


 二人の愛の物語は、これからも続いていく――――。



Fin

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ISN【異世界侵食都市・名古屋】 〜異世界転移してきた魔王娘と逃避する現代魔王〜 リスキー・シルバーロ @RiskySilvero

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