序章を読んでー
文章の隅々まで、主人公の内面が丁寧に描かれている。悪夢、デジャヴ、二度寝、そして不審者との遭遇──日常の細部と非日常の奇妙な絡みが絶妙に積み重なり、読者は静かに息を呑む。特に六月十五日の描写は、時間と意識がねじれる感覚を自然に体験させる。
登場人物たちの性格描写も緻密で、佐踏誰郎の凡庸さと賢太の不良的魅力、そして霧ヶ原澪の静かな異質さが対照的に映える。文体は抑制されつつも視覚的に鮮明で、夢と現実の境界を行き来する感覚が心地よい。
印象的な文章も随所にあり、「夢とは思い通りにいくからこそ夢なのだろう」という冒頭の一文は、物語全体の静かな不安定さを端的に示している。細部の描写や日常の妙な違和感が積み重なることで、単なる高校サスペンスを超えた独特の読書体験を味わえる作品。
総じて、巧みな時間描写とキャラクターの個性、そして日常と非日常の微妙な交錯を楽しめる一冊。高校生活の中に潜む「奇妙」を愛でる読者におすすめ。