『俺達のグレートなキャンプ87 二日酔い状態でヴィクトリアサンドウィッチを作ろう』

海山純平

第86話 二日酔い状態でヴィクトリアサンドウィッチを作ろう

俺達のグレートなキャンプ86 二日酔い状態でヴィクトリアサンドウィッチを作ろう


朝日がキャンプ場の木々を染める中、三つのテントが不気味なほど静寂を保っている。昨夜の酒瓶が散らばったテーブルの周りに、空のビール缶がまるで戦場跡のように転がっている。

「うぐぐぐぐ......」

石川のテントから、うめき声が漏れる。ファスナーがゆっくりと開き、髪の毛がぼさぼさで目が充血した石川が這うように外に出てきた。

「おはよう......じゃない、おは......ウェップ」(手で口を押さえながら)

千葉のテントからも同じような呻き声。

「いしかわ......頭が......割れそう......」(テントから半身だけ出して、顔は土色)

富山は比較的しっかりしているものの、眉間にしわを寄せながらテントから出てくる。

「あんたたち、昨日あんなに飲んで......私も頭痛いのに」(こめかみをマッサージしながら)

キャンプ場には他の家族連れやソロキャンパーたちが既に活動を始めており、朝の爽やかな空気が流れているというのに、この三人だけが異世界のような状況に陥っている。

石川がふらつきながら立ち上がる。

「よし!今日はグレートな......ウップ......グレートなキャンプの時間だ!」(気合いを入れるものの、顔は青白い)

千葉が不安そうに見上げる。

「石川、今日は何をするの?正直、頭が痛くて何も考えられないんだけど......」(頭を抱えながら)

富山も心配そうに口を挟む。

「今日は大人しく休んだ方がいいんじゃない?みんな二日酔いなんだから......」

しかし石川の目がキラリと光る。二日酔いで霞んだ視界の中でも、その情熱は失われていない。

「そこがポイントなんだよ、富山!今日の暇つぶしキャンプは『二日酔い状態でヴィクトリアサンドウィッチを作る』だ!」(両手を広げて宣言するも、バランスを崩してよろめく)

千葉の目が点になる。

「ヴィクトリア......サンドウィッチ?」(首をかしげながら、理解が追いつかない表情)

富山は頭を抱える。

「またそんな突拍子もないこと......二日酔いでお菓子作りなんて、絶対失敗するに決まってるじゃない」(溜息をつきながら)

近くでコーヒーを飲んでいた中年夫婦が、この奇妙な会話に耳を傾けている。奥さんが旦那さんの耳元で「あの人たち、大丈夫かしら?」とささやく声が聞こえる。

石川は千鳥足でクーラーボックスに向かう。

「見ろよ!昨日のうちに材料は全部準備してあるんだ!」(クーラーボックスを開けながら、勝ち誇ったような表情)

中から出てきたのは、スポンジケーキ、生クリーム、いちごジャム、そして大量のいちご。まさにヴィクトリアサンドウィッチの材料一式が、きちんと保冷されて入っている。

千葉が感嘆の声を上げる。

「すごいじゃん!でも石川、ヴィクトリアサンドウィッチって何?」(素直に聞きながら、材料を見つめる)

「イギリスの伝統的なケーキだよ!スポンジケーキにクリームとジャムを挟んで......」石川が説明を始めるが、途中で頭を押さえる。「うぐぐ、説明してるだけで頭が痛い......」

富山が諦めたような表情で立ち上がる。

「分かったわよ......でも絶対に無茶しちゃダメよ?みんな体調悪いんだから」(心配そうに二人を見ながら)

キャンプ場の管理人のおじさんが、ゴミ収集で近くを通りかかる。この三人の異様な雰囲気に気づいて、心配そうに近づいてくる。

「あの、皆さん大丈夫ですか?顔色が悪いようですが......」(親切そうに声をかける)

石川がふらつきながら振り返る。

「大丈夫です!今からヴィクトリアサンドウィッチを......ウェップ......作るんです!」(無理に明るく答えるが、顔は土色)

管理人のおじさんが困惑する。

「ヴィクトリア......?えーっと、体調が悪い時は無理しない方が......」

千葉が慌てて補足する。

「いつものことなんです!石川はこういう人なんで......」(苦笑いしながら手を振る)

石川が作業テーブルに材料を並べ始める。しかし、二日酔いの影響で手がふらつき、いちごのパックを危うく落としそうになる。

「おっと!」(慌てて受け止めるが、いちごが数個転がる)

富山がすかさずフォローに入る。

「もう、気をつけなさいよ!」(転がったいちごを拾いながら、溜息をつく)

近くでバーベキューの準備をしていた大学生グループが、この光景を見て笑いを堪えている。一人が仲間に「あの人たち、何やってるんだろうね」とささやいている。

千葉が恐る恐る質問する。

「で、具体的にはどうやって作るの?」(材料を眺めながら、不安そうな表情)

石川が得意げに説明を始める。

「まずスポンジケーキを半分に切って......」(ナイフを取り出すが、手が震えている)

富山が慌てて止める。

「ちょっと待って!その状態でナイフなんて危険よ!私がやるから!」(石川からナイフを取り上げる)

「あ、そうだね......じゃあ僕は生クリームを泡立てる!」(泡立て器を手に取るが、やはり手がふらつく)

千葉も心配になって声をかける。

「石川、本当に大丈夫?無理しないで......」

しかし石川の情熱は止まらない。

「大丈夫大丈夫!これがグレートなキャンプなんだよ!普通の状態でケーキを作っても面白くないじゃないか!」(強がりながらも、額に冷や汗が浮かぶ)

生クリームをボウルに入れ、泡立て器で混ぜ始める石川。しかし二日酔いの影響で、リズムが全くつかめない。

「シャカシャカ......うぐぐ......シャカ......」(途中で止まっては頭を抱える)

千葉が見かねて手を差し伸べる。

「代わろうか?」

「いや!これは僕がやるんだ!......うっぷ」(意地を張るが、明らかに限界が近い)

富山はスポンジケーキを慎重に半分にカットしながら、呆れたような口調で話す。

「毎回毎回、なんでこんなことになるのかしら......」

近くのファミリーキャンプのお母さんが、子供に「あのお兄さんたち、ちゃんと食べ物作れるのかしら?」と話しているのが聞こえる。

石川の生クリーム泡立ては全く進んでいない。手がふらつき、ボウルからクリームが飛び散りそうになる。

「うーん、なかなか泡立たないな......」(汗だくになりながら、必死に泡立て器を動かす)

千葉が観察しながら指摘する。

「石川、泡立て器の動かし方が変だよ。円を描くように......」

「分かってるって!......うぐぐぐ」(頭を抱えながらも、泡立てを続ける)

富山がスポンジケーキのカットを終えて、様子を見に来る。

「どう?クリームの調子は?」

石川が振り返ると、ボウルの中のクリームは全く泡立っていない。それどころか、少し分離気味になっている。

「あれ?なんか変になってない?」(困惑した表情でボウルを覗き込む)

富山が溜息をつく。

「予想通りね......私がやり直すから、あんたは休んでなさい」(石川から泡立て器を取り上げる)

「いや、まだ大丈夫!頑張るから!」(必死に抵抗するが、足がふらつく)

千葉が石川の肩に手を置く。

「石川、無理しすぎだよ。みんなで作れば同じことじゃない?」(優しく諭すような口調)

管理人のおじさんが再び心配そうに近づいてくる。

「あの、本当に大丈夫ですか?救急車を呼んだ方が......」

石川が慌てて手を振る。

「大丈夫です!これはグレートなキャンプの一環なんです!」(よろめきながらも笑顔を作る)

富山が新しいクリームでやり直しを始める。手慣れた動作で、あっという間に生クリームが泡立ち始める。

「ほら、こうやってやるのよ」(手本を見せながら、リズムよく泡立てる)

千葉が感嘆する。

「さすが富山!手際がいいね!」

石川が悔しそうに見つめる。

「くそー、二日酔いじゃなければ......」(拳を握りしめるが、すぐに頭を抱える)

近くの大学生グループの一人が、興味深そうに近づいてくる。

「すみません、何を作ってるんですか?」(好奇心旺盛な表情で)

千葉が答える。

「ヴィクトリアサンドウィッチっていうイギリスのケーキです!」

大学生が首をかしげる。

「へー、初めて聞きます!美味しそうですね!」

石川が急に元気になる。

「でしょう!これがグレートなキャンプなんですよ!」(よろめきながらも胸を張る)

大学生が疑問そうな表情を浮かべる。

「あの、顔色が悪いようですが......」

富山が苦笑いしながら説明する。

「二日酔いなんです。それでもこの人はケーキを作ろうとしてるんですよ」

大学生たちが爆笑する。

「えー!二日酔いでお菓子作りですか!すごいですね!」

石川が得意げになる。

「そうでしょう!普通じゃ面白くないからね!」(調子に乗るが、すぐに気持ち悪くなる)

富山の生クリームが完璧に泡立つ。

「よし、できた!次はいちごジャムね」(満足そうに泡立ったクリームを見る)

千葉がいちごジャムの瓶を取る。

「これはそのまま使えばいいの?」

石川がふらつきながら指示する。

「そう!スポンジケーキに塗って......」(説明しながらも、頭がふらつく)

しかし、瓶の蓋がなかなか開かない。二日酔いで力が入らない石川が必死に回すが、全く開かない。

「うーん、開かない......」(額に汗をかきながら格闘する)

千葉が手伝おうとする。

「貸して!」

「いや、これくらい......うぐぐ」(意地を張るが、明らかに限界)

富山が呆れて近づく。

「もう、貸しなさい!」(石川から瓶を取り、あっさりと開ける)

「あっ......」(拍子抜けした表情の石川)

大学生グループが面白そうに見守っている。一人が仲間に「あの人たち、見てて面白いね」とささやいている。

いよいよ組み立ての時間。スポンジケーキの下の部分にジャムを塗る作業から始まる。

石川がスプーンを持ってジャムを塗ろうとするが、手が震えて均等に塗れない。

「うーん、なかなか難しい......喉乾いたな」(真剣な表情で集中するが、手の震えが止まらない)

テーブルの端にあったペットボトルに手を伸ばす石川。昨夜の名残で、日本酒の入ったペットボトルが水のボトルの隣に置いてあったのだが、二日酔いで判断力が鈍っている石川は気づかない。

「ゴクゴクゴク......」(一気に飲み干す)

千葉が気づいて慌てる。

「石川!それ水じゃなくて昨日の日本酒だよ!」

石川の顔が一瞬で真っ赤になる。

「え......えええええ!?」(目を丸くして固まる)

富山が頭を抱える。

「もう、何やってるのよ!さらに酔っちゃうじゃない!」

しかし、時すでに遅し。石川の体が左右にゆらゆらと揺れ始める。

「うわわわ......なんか......世界が......回ってる......」(目がうつろになり、体がふらつく)

近くの大学生たちが心配そうに見守る。

「あの人、大丈夫ですか?」

千葉が慌てて説明する。

「水と間違えて酒を飲んじゃったんです!」

管理人のおじさんが駆け寄ってくる。

「おい、大丈夫か!?」

しかし石川は、急激にアルコールが回った影響で、奇妙な状態になっていた。体が勝手に動き始める。

「おおおお......これは......酔拳だ......」(ふらふらと体を揺らしながら、まるで太極拳のようなゆっくりとした動作を始める)

富山が唖然とする。

「酔拳って......何それ?」

石川は完全に酔いが回った状態で、調理を続けようとする。しかし、その動きはまるで武術の型のように流れるような、しかし同時にふらつくような奇怪な動作になっていた。

「これが......酔拳調理法だ......」(ゆらゆらと体を揺らしながら、スプーンを持つ手も波のような動きをする)

ジャムを塗る動作が、まるで書道の筆運びのように、大きくゆったりとした動作になる。

「ふわ〜ん......」(酔いながらも、なぜか優雅にスプーンを動かす)

千葉が目を丸くして見つめる。

「すごい......なんか芸術的な動きになってる......」

不思議なことに、酔拳のような動作で塗ったジャムは、フラフラの状態にも関わらず、意外にも均等に塗られていく。

「これが酔拳の......極意......」(石川、完全に自分の世界に入っている)

富山が呆然と見守る。

「信じられない......あんなにフラフラなのに、ちゃんと塗れてる......」

近くのファミリーキャンプの家族も、この奇妙な光景に釘付けになっている。

「お父さん、あのお兄さん、踊ってるの?」(子供が無邪気に質問)

「いや、あれは......なんだろうな......」(お父さんも困惑)

石川の酔拳調理法は続く。今度は生クリームを塗る番だが、その動作はさらに幻想的になっている。

「生クリームは......雲のように......ふわりふわりと......」(体全体でリズムを取りながら、スプーンを優雅に動かす)

千葉が感嘆の声を上げる。

「石川、すごいよ!普通に塗るより上手になってる!」

本来なら二日酔いでふらつくはずの手が、酔拳の動作と相まって、まるで熟練のパティシエのような流れるような動きになっている。

「これが......グレートなキャンプの......真髄......」(石川、完全に酔いの世界に浸っている)

富山も驚きを隠せない。

「なにこれ......本当にきれいに塗れてる......」

大学生の一人が興奮して言う。

「これ、動画撮っていいですか?すごすぎます!」

石川はいちごのトッピングも、酔拳調理法で行う。体をくねくねと動かしながら、いちごを一つずつ丁寧に配置していく。

「いちごは......赤い宝石......一つ一つに......愛を込めて......」(まるでダンスを踊るような動作で、いちごを完璧な位置に置いていく)

千葉が興奮する。

「これ、普通にやるより絶対上手だよ!酔拳調理法って実在するんだ!」

管理人のおじさんも、心配から興味に変わっている。

「すごいな......あんなにフラフラなのに、手だけは正確に動いてる......」

石川の動きはますます幻想的になる。最後の上段のスポンジケーキを載せる時、まるで太極拳の「雲手」のような動作で、ゆっくりと持ち上げる。

「最後は......天と地を......結ぶように......」(深呼吸をしながら、神聖な儀式のようにスポンジケーキを持ち上げる)

周りのキャンパーたちが固唾を飲んで見守る中、石川はふらつきながらも、完璧にスポンジケーキを上に載せる。

「完成......」(満足そうに微笑むが、すぐによろめく)

千葉と富山が慌てて支える。

「石川!大丈夫?」

しかし、出来上がったヴィクトリアサンドウィッチを見て、全員が息を呑む。酔拳調理法で作られたケーキは、最初の予想とは全く違って、驚くほど美しく仕上がっていた。

「うわあ......」(大学生たちが感嘆の声を上げる)

「綺麗......」(ファミリーキャンプのお母さんも感動)

生クリームは完璧に塗られ、いちごも芸術的に配置され、全体のバランスも完璧だった。

富山が信じられないという表情で呟く。

「嘘でしょう......あんな状態で作ったのに......」

管理人のおじさんが感心する。

「これは......プロが作ったみたいだ......」

石川はまだふらついているが、満足そうに作品を見つめる。

「これが......グレートな......キャンプ......」(酔いながらも達成感に満ちた表情)

千葉が興奮して叫ぶ。

「すごいよ石川!こんなに美しいケーキができるなんて!」

近くのキャンパーたちが拍手を始める。

「素晴らしい!」「感動した!」「あんな作り方があるなんて!」

石川が酔いながらもお辞儀をする。

「ありがとう......ございます......これが酔拳調理法の......力です......」(よろめきながらも誇らしげ)

いよいよ試食の時間。富山が慎重にケーキを切り分ける。見た目の美しさに反して、切った瞬間の断面も完璧だった。

「信じられない......中身もちゃんとできてる......」(富山、驚きを隠せない)

三人が恐る恐る一口ずつ食べてみる。

「......!」(石川、目を見開く)

「うまい!」(千葉、感動の表情)

「嘘......こんなに美味しい......」(富山、信じられないという顔)

酔拳調理法で作られたヴィクトリアサンドウィッチは、見た目だけでなく味も絶品だった。生クリームとジャムの絶妙なバランス、スポンジケーキのしっとり感、全てが完璧に調和していた。

大学生たちが興味津々で近づく。

「僕たちにも食べさせてください!」

石川が酔いながらも快諾する。

「どうぞ......どうぞ......グレートなキャンプの成果を......味わってください......」

大学生たちが食べると、一様に驚きの表情を浮かべる。

「えー!めちゃくちゃ美味しいです!」

「お店で売ってるケーキより美味しいかも!」

「酔拳調理法、すごすぎます!」

管理人のおじさんも一口もらって、感動する。

「これは......本当にプロ級だ......どうやってあんな状態で......」

ファミリーキャンプの家族も興味を示す。

「私たちにも教えてください!酔拳調理法って何ですか?」

石川が酔いながら説明を始める。

「酔拳調理法は......心を空にして......体の自然な動きに......任せるんです......」(ふらつきながらも、なぜか説得力のある口調)

千葉が感心して聞き入る。

「なるほど......深いなあ......」

富山は相変わらず困惑している。

「でも、これってただ酔っ払ってるだけなんじゃ......」

しかし、結果は明白だった。酔拳調理法で作られたケーキは、誰が食べても絶賛するほどの出来映えだった。

キャンプ場中の人たちが石川たちの周りに集まり、このユニークなケーキを味わっていた。

「今度、酔拳調理法の講習会やってください!」(大学生の一人が興奮して提案)

「私も習いたい!」(ファミリーキャンプのお母さん)

「面白いアイデアですね!」(管理人のおじさん)

石川は完全に調子に乗っている。

「そうですね......次回は『酔拳調理法マスタークラス』なんて......どうでしょう......」(酔いながらも、次々とアイデアを思いつく)

富山が慌てて止める。

「ちょっと待ちなさい!そんなことしたら、みんな酔っ払いになっちゃうじゃない!」

千葉が笑いながら言う。

「でも、今日の石川は本当にすごかったよ!まさかあんな技があるなんて!」

石川が得意げになる。

「これが......グレートなキャンプの......真の力......」(よろめきながらも胸を張る)

しかし、急激にアルコールが回った影響で、石川の酔いはさらに深くなっていく。

「あー......なんか......また......気持ち悪く......なってきた......」(顔が青白くなる)

富山が心配そうに近づく。

「大丈夫?水飲む?今度は本当の水よ?」

「うん......ありがとう......」(石川、ふらつきながら水を受け取る)

千葉が感慨深そうに言う。

「でも今日は本当にすごい一日だったね。まさか酔拳調理法なんてものがあるなんて......」

大学生の一人が興味深そうに質問する。

「酔拳調理法って、他の料理でもできるんですか?」

石川がふらつきながら答える。

「きっと......できると思います......でも......今度は......もう少し......計画的に......」(明らかに限界が近い)

管理人のおじさんが心配そうに見守る。

「今日はもう休んだ方がいいんじゃないですか?」

富山が頷く。

「そうですね。石川、テントで休みましょう」

しかし石川は、まだ何かを思いついたような顔をしている。

「そうだ......明日は......『完全二日酔い状態で......究極のパンケーキ作り』なんて......どうかな......」(よろめきながらも、次のアイデアを口にする)

千葉と富山が同時に反応する。

「絶対ダメ!」

周りのキャンパーたちが笑い声を上げる。

「あの人たち、面白すぎる!」

「明日も見てみたい!」

石川が最後の力を振り絞って宣言する。

「明日も......グレートなキャンプを......お楽しみに......」(そう言うと、千葉と富山に支えられながらテントに向かう)

夜が更けるにつれ、石川の酔いはさらに深くなった。テントの中からは、時々うめき声が聞こえてくる。

「うーん......」「気持ち悪い......」「水......水を......」

富山が心配そうに看病する。

「もう、なんで余計なお酒を飲むのよ......」

千葉も心配している。

「大丈夫かな、石川......明日、相当ひどいことになりそう......」

そして翌朝──

朝日がキャンプ場を照らす中、石川のテントから聞こえてくるのは、前日をはるかに上回る悲惨なうめき声だった。

「あああああ......死ぬ......死ぬ......」(テントの中から、この世のものとは思えない声が響く)

千葉が恐る恐るテントに近づく。

「石川?大丈夫?」

「大丈夫じゃない......全然大丈夫じゃない......」(石川の声は完全に枯れ果てている)

富山が溜息をつく。

「予想通りね......昨日、水と間違えて日本酒を飲んだ分、さらにひどくなってる」

石川がやっとの思いでテントから這い出てくる。その姿は、前日の二日酔いなど比較にならないほど悲惨だった。

髪の毛はぼさぼさ、顔は土色を通り越して緑色、目は完全に充血している。

「おはよう......じゃなくて......おは......ウェッップ......」(挨拶することすらままならない)

千葉が心配そうに見つめる。

「石川、本当に大丈夫?病院行く?」

「病院......病院かもしれない......」(石川、完全に弱り果てている)

富山が呆れながらも心配する。

「自業自得よ。でも、ちゃんと水分取りなさい」

近くを通りかかった管理人のおじさんが、石川の様子を見て驚く。

「おお......昨日の酔拳の人......大丈夫ですか?」

石川が力なく手を振る。

「昨日は......すみませんでした......今日は......もうダメです......」

「昨日のケーキ、本当に美味しかったですよ。でも、今日は無理しない方が......」(管理人のおじさん、優しく声をかける)

石川がふらつきながら立ち上がろうとするが、すぐにまた座り込む。

「立てない......世界が回ってる......」

千葉が慌ててスポーツドリンクを差し出す。

「これ飲んで!少しは楽になるから!」

石川が震える手でスポーツドリンクを受け取るが、飲むことすらつらそうだ。

「ありがとう......千葉......優しいね......」(涙目になりながら)

富山が同情的な表情を浮かべる。

「まあ、昨日はすごいケーキを作ったから、許してあげるわ」

昨日、石川の酔拳調理法を見ていた大学生たちが心配そうに近づいてくる。

「あの、昨日の方ですよね?大丈夫ですか?」

石川が力なく答える。

「大丈夫......じゃありません......昨日は......ありがとうございました......」

大学生の一人が差し入れを持ってくる。

「これ、二日酔いに効くって聞いたので......」(しじみの味噌汁を差し出す)

石川が感動する。

「ありがたい......神様......」(涙を流しながら味噌汁を受け取る)

千葉が感心する。

「みんな優しいね。昨日の酔拳調理法、本当にすごかったもんな」

富山が苦笑いする。

「でも、もう二度とやらせないわよ。こんなことになるなら」

石川が味噌汁を飲みながら、弱々しく言う。

「もう......お酒は......当分いいです......」

しかし、その時、石川の目にかすかに輝きが戻る。

「でも......もし次に......酔拳調理法をやるとしたら......今度は......計画的に......」

富山と千葉が同時に叫ぶ。

「ダメ!絶対ダメ!」

周りのキャンパーたちが笑い声を上げる中、石川は相変わらず次のグレートなキャンプのことを考えているのだった。

「今度は......『究極の二日酔い回復キャンプ』なんて......どうかな......」(弱々しいながらも、アイデアは止まらない)

富山が頭を抱える。

「もう、この人は救いようがないわね......」

千葉が笑いながら言う。

「でも、そこが石川の良いところだよね。どんな状況でも前向きで」

こうして、石川たちの「二日酔い状態でヴィクトリアサンドウィッチを作ろう」キャンプは、予想外の酔拳調理法という奇跡を生み出し、そして翌日の究極の二日酔いという代償を払うことになった。

しかし、キャンプ場の人々の心に残ったのは、その美味しいケーキの味と、石川の変わらぬ情熱だった。そして石川は、相変わらず次のグレートなキャンプのことを考え続けているのだった......。

富山が溜息をつきながらティッシュで拭き取る。

「もう、散らかさないでよ」

近くのファミリーキャンプの子供が、この光景を見て「お母さん、あのお兄さん、お料理下手だね」と無邪気に言う。お母さんが慌てて「シッ!」と制する。

次に生クリームを塗る作業。富山が泡立てた完璧なクリームを、今度は千葉が塗ることになる。

「僕がやってみる!」(やる気満々の千葉)

しかし千葉も二日酔いの影響で、思うように手が動かない。クリームがべたべたと不均等についていく。

「あれ?思ったより難しい......」(困惑しながらも、一生懸命塗り続ける)

石川が指導しようとするが、自分も頭がふらついている。

「もう少し薄く......いや、厚く......あー、分からなくなってきた」(混乱した様子で手をかざす)

富山が見かねて、最後の仕上げを手伝う。

「もう、私がやるから!」(慣れた手つきでクリームを整える)

大学生の一人が感心して声をかける。

「女性の方、上手ですね!」

富山が苦笑いしながら答える。

「慣れてるんです。いつもこの調子なので......」

いちごをトッピングする段階になる。石川が意気込んでいちごを配置しようとするが、二日酔いで距離感がつかめない。

「えーっと、こことここに......」(いちごを置こうとするが、手が震えてうまく置けない)

いちごが転がってクリームの上を滑り、変な場所に落ち着く。

「あー!」(慌てて拾おうとするが、クリームがぐちゃぐちゃになる)

千葉が慌ててフォローする。

「大丈夫大丈夫!僕が直すから!」(必死にいちごを正しい位置に戻そうとする)

しかし千葉も二日酔いで、余計に混乱を招く結果になる。クリームがあちこちに飛び散り、見た目がかなりひどい状態になる。

富山が頭を抱える。

「もう、めちゃくちゃじゃない......」(呆れ果てた表情)

管理人のおじさんが再び心配そうに近づく。

「あの、本当に食べて大丈夫なものが作れそうですか?」(心配そうに様子を見守る)

石川が必死に弁解する。

「大丈夫です!見た目は......あれですけど、味は絶対美味しいはずです!」(汗だくになりながら、無理に笑顔を作る)

最後に上のスポンジケーキを載せる作業。これが一番重要な工程だが、三人とも二日酔いでふらついている。

「よし、慎重に......」(石川がスポンジケーキを持ち上げる)

しかし、手が震えてバランスを崩し、スポンジケーキが斜めに傾く。

「うわあああ!」(慌てて支えようとする千葉と富山)

なんとか三人がかりで支えて、スポンジケーキを載せることができたが、全体的にかなり歪んだ形になってしまった。

大学生グループが拍手する。

「おつかれさまでした!」(面白そうに手を叩く)

石川がふらつきながら満足そうに見回す。

「よし!ヴィクトリアサンドウィッチの完成だ!」(達成感に満ちた表情だが、顔は依然として青白い)

出来上がったケーキは、お世辞にも美しいとは言えない。クリームがはみ出し、いちごが変な場所に散らばり、全体が斜めに傾いている。まさに「二日酔い状態で作ったケーキ」という感じの仕上がりだ。

千葉が苦笑いしながら感想を述べる。

「見た目は......アレだけど、きっと美味しいよね?」(希望的な観測を込めて)

富山が溜息をつく。

「まあ、材料は良いものを使ってるから......」(諦めたような口調)

近くのキャンパーたちが興味深そうにこちらを見ている。中には写真を撮っている人もいる。

石川が意気揚々と宣言する。

「さあ、試食の時間だ!これぞグレートなキャンプの醍醐味!」(よろめきながらもナイフを取り出す)

富山が慌てて止める。

「ナイフは私が持つから!あんたたちは座ってて!」(安全を考慮して、石川からナイフを取り上げる)

ケーキを切る富山。切った瞬間、クリームがぐちゃぐちゃと崩れ、形が崩壊する。

「あー......」(全員が絶句)

それでも、せっかく作ったケーキを食べないわけにはいかない。三人が恐る恐る一口ずつ食べてみる。

「......」(石川、無言で咀嚼)

「......」(千葉、微妙な表情)

「......まずくはないけど」(富山、正直な感想)

意外にも、味は悪くない。材料が良かったおかげで、見た目とは裏腹にそれなりに美味しい。

石川が急に元気になる。

「美味しいじゃないか!これがグレートなキャンプの力だよ!」(二日酔いを忘れたかのように興奮する)

千葉も笑顔になる。

「本当だ!見た目はアレだけど、普通に美味しい!」(安心したような表情)

大学生の一人が興味深そうに声をかける。

「あの、一口もらえませんか?」

石川が快く応じる。

「もちろん!グレートなキャンプの成果を味わってください!」(得意げにケーキを差し出す)

大学生が食べてみると、予想以上の美味しさに驚く。

「えー!普通に美味しいですよ!見た目で損してますね!」

他のキャンパーたちも興味を示し始める。ファミリーキャンプのお父さんが近づいてくる。

「面白そうなことやってますね。一体何のケーキですか?」

千葉が誇らしげに説明する。

「ヴィクトリアサンドウィッチっていうイギリスのケーキです!二日酔いで作りました!」

お父さんが笑い出す。

「二日酔いで!?それは斬新ですね!」

気づくと、石川たちの周りには多くのキャンパーが集まっていた。みんな興味深そうにこの奇妙なケーキを見つめている。

管理人のおじさんも安心したような表情で近づく。

「よかった、ちゃんと食べられるものができたんですね」

石川が調子に乗り始める。

「そうです!これがグレートなキャンプなんです!普通じゃ面白くないでしょう?」(二日酔いの症状も少し和らいできたようで、元気を取り戻す)

富山が呆れながらも、少し嬉しそうに言う。

「まあ、結果オーライってことかしら......」

千葉が感動して石川を見つめる。

「石川、やっぱりすごいよ!こんな状態でもちゃんとケーキが作れるなんて!」

石川が得意げになる。

「だろう?これがグレートなキャンプの真髄なんだ!どんな状況でも楽しめる、それがキャンプの醍醐味さ!」

周りのキャンパーたちが拍手する。

「すごいですね!」「面白いアイデア!」「私たちも今度やってみようかな!」

石川が満足そうに周りを見回す。

「みなさん、ありがとうございます!これからもグレートなキャンプを続けていきますので、また何かあったら声をかけてください!」(すっかり調子を取り戻し、いつもの陽気な石川に戻る)

大学生の一人が興味深そうに質問する。

「他にも変わったキャンプをやってるんですか?」

千葉が笑いながら答える。

「はい!いつも石川が突拍子もないことを思いつくんです!」

富山が苦笑いしながら付け加える。

「毎回振り回されてるんですよ、私たち......」

石川が次のアイデアを考え始める。

「そうそう、次回は『雨の日に外でティータイムキャンプ』なんてどうかな?」(目をキラキラさせながら提案)

富山が即座に反応する。

「絶対嫌よ!風邪引くじゃない!」(慌てて手を振る)

千葉が笑いながら言う。

「でも面白そうだけどね!どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなるし!」(相変わらずの前向きさ)

周りのキャンパーたちも笑い声を上げる。この三人の掛け合いが、キャンプ場全体を明るい雰囲気にしていた。

石川がふと真面目な表情になる。

「でもさ、本当に良かったよ。二日酔いでフラフラだったけど、みんなと一緒だから楽しくケーキが作れた。これがグレートなキャンプの本当の意味なんだと思う」(珍しく感慨深い口調)

千葉が感動する。

「石川......」

富山も少し感動する。

「たまには良いこと言うのね」

しかし、石川はすぐにいつもの調子に戻る。

「よし!それじゃあ次回のキャンプの計画を......うっぷ」(急に気持ち悪くなる)

富山が呆れる。

「まだ二日酔い治ってないじゃない!今日はもう休みなさい!」

千葉が笑いながら言う。

「今日はこれで十分だよ。また次回、グレートなキャンプを楽しもうね!」

石川がふらつきながらも満足そうに頷く。

「そうだね......でも今日は本当にグレートなキャンプだった......」(テントに向かってよろよろと歩いていく)

富山と千葉がその後を追いながら、キャンプ場に笑い声が響いた。

管理人のおじさんが微笑みながら呟く。

「面白い人たちだなあ......また来てくれるといいな」

大学生たちも感心しながら話している。

「あの人たち、本当に楽しそうだったね」「私たちももっとキャンプを楽しまなきゃ」

こうして、石川たちの「二日酔い状態でヴィクトリアサンドウィッチを作ろう」キャンプは、予想以上の成功を収めた。見た目は散々だったが、味は意外に美味しく、何より周りのキャンパーたちとの交流が生まれた。

夕方、石川は完全に回復していた。

「やっぱりグレートなキャンプは最高だな!次はもっとすごいことを......」

富山が即座に止める。

「今日はもう十分よ!」

千葉が笑いながら締めくくる。

「でも今日は本当に楽しかった!どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなるって、改めて実感したよ!」

三人の笑い声が、夕焼けに染まったキャンプ場に響き渡った。そして石川はすでに次回のグレートなキャンプのアイデアを考え始めているのだった......。

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『俺達のグレートなキャンプ87 二日酔い状態でヴィクトリアサンドウィッチを作ろう』 海山純平 @umiyama117

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