第3話 そもそも、本当に入れ替わっているのか?
「オーケー、整理しよう」
ウワ月(パチ森)がファシリテーターとしての役目を思い出したのか、大仰に声を張った。
「俺たちは、パチ森、ウワ月、ヤミ本のはずだ。だけどウワ月が二人いて、ヤミ本が消えちまった。ヤミ本には『他人になりたい』という、うそをつくための立派な動機がある。で、今度は装置の不具合という話が出てきたわけだ」
「ヤミ本だけが入れ替わらずに、ヤミ本の中にいる。そして、うそをついている。証明しようがないみたいだけど」
パチ森(ウワ月)がいらだたしげに頭をかいた。ヤミ本(ウワ月)がそこへ言葉を重ねる。
「不具合を言い始めれば、それこそきりがないわ。装置の不具合で、私が二分割された状態だったら? それか、私とヤミ本の魂だか何だかが混ざり合っている状態だったら?」
「魂が二つに分かれたり、混ざったりするもんかよ」
ウワ月(パチ森)は懐疑的な見方を隠そうともしないが、ヤミ本(ウワ月)は笑みを浮かべた。
「それよ。私たちは、本当に入れ替わってるの?」
「魂の交換、あるいは自意識の交換なんてものが可能なんて思えないわ。今さらだけどね。マド原の開発した装置は、もっと別物なんじゃないの?」
ヤミ本(ウワ月)は、機械の残骸の上を歩きながら言う。
「もしあれが、入れ替わり装置でなく、暗示装置に近いものだとしたら――」
「私たちは、互いに入れ替わったと思い込まされてるってことね。そうすると、電流を使ったのも説明がつくわね。脳のシナプスだかニューロンだかに電気信号を与えて、自分のことを他人だと誤認させる。マド原の考えそうなことよ」
パチ森(ウワ月)も納得顔でそう口にする。
ヤミ本(ウワ月)は満足げにうなずいた。
「だとすれば、私の人格が二人にコピーされるって誤作動も、ありうる話なのかもしれない」
「つまり俺たちは、入れ替わってないってことだな。俺はウワ月で、だけど自分で自分をパチ森だと思い込んでる」
ウワ月(パチ森)が言う。
「断言はできそうにないわね。これまでの議論と同じで、証拠なんてないんだから。でも、この説が一番希望をもてそうだわ」
ヤミ本(ウワ月)が言う。
「悔しいけど、そのとおりだわ。ひとまずそれぞれの生活に戻って、暗示だか脳の機能だかが元通りになるのを待つしかないってことね」
パチ森(ウワ月)が言う。
実のところ、それは正しい答えではないのかもしれなかった。しかし、彼らが今後少しでも前向きに生きる上では最適解に違いない。
「この惨状どうする?」
「厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだわ」
「どうせ個人の実験失敗で片付く。放っておこう」
「この件に限らず、みんな何かに追われたり、しがらみに苦しんだりしてる」
「でも、この実験で誰が誰だか分からなくなったわ」
「だから、もう一から好きに生きましょう」
それは誰の言葉だったか、判然としない。何より、彼らにとってはもうそんなことなど重要ではなかった。
誰かが言った。
「さよなら、私の体」
「さよなら、私の心」
「達者でな」
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