第9話 引っ越し飯(ひっこしめし)

// 楽しい鼻歌


//SE 野菜を刻む音


//SE ぐつぐつ煮える鍋の音


(甘い声で)

「きれいに掃除したキッチンで料理するのは、気持ちいいなぁ~」


// 微笑


「荷造りも終わったし、明日は引っ越しかぁ~」


「旦那様。ごはんできましたよー!」


//SE 足音


「ご依頼通り、冷蔵庫の中身を片付けるための、あり合わせ料理です」


「ニーナ特性、材料をなんでもぶち込んだ、《闇カレー鍋》」


「じゃじゃーん!」


「え? 色が黒くて怖い?」


「大丈夫ですよ~! 味はカレーですから。フフフ」


「たーくさん。召し上がれ!」


「どうです? おいしい?」


「大丈夫、食べられるって?———そうでしょう……」


// なにか魂胆がある笑い


「実は、旦那様が嫌いな野菜も入ってまーす! 当ててみてください」


「トマト?———入ってます」


「ピーマン?———正解。細かく刻みました」


「にんじん?———すりおろしました」


「なす?———大正解」


// 微笑


「全問正解! そうです。嫌いなものすべて入ってまーす!」


「さすが旦那様。舌が肥えてらっしゃるぅ~」


「ただ、勘がいいだけだ?」


「そんなことないですよ~」


//SE スプーンを置く音


「食べたくない、ですって! そんな……」


「怒らないでくださいよ」


「嫌がらせじゃありませんよー」


「……」


「そうだ。お好きな粉チーズを入れましょうね。あ・な・た!」


「どうですか?」


「追いチーは、おいちいって?」


「……」


「———笑うところ、ですか?」


// 少し間をおいてから、大げさに笑う


「やーだ、もう!」


//SE 旦那様を叩く音


「あら、痛いですか。ごめんなさい。つい、思いっきり叩いちゃった」


// 微笑


「え? ワタシも食べろって?」


「ミーナは食べられないの知ってるでしょう?」


「ミーナは食べる必要がないのです」


「お尻から充電すればいいのですから」


「引っ越しの準備は、大変ではありませんでしたよ」


「ワタシの使命は、旦那様の指示に従うこと。それに、ワタシは疲れを知りませんから。ふふふ」


「それでも感謝になにかしたい、ですか……」


「うわっ」


「そんなにきつく抱きつかれましても」


「抱きしめてるんだって?」


「……」


「ヒトが抱き合う気持ち、わかったような気がします」


「さあ、背中の主電源ボタンを押してください」


「最後の荷造りです」


「ミーナ、重いですから、がんばって段ボールに入れてくださいね」


「次、目覚めたら、新しいおうちですね」


//SE ボタンを押す音


(機械的な話し方で)

「スベテノ キノウヲ テイシシ デンゲンヲ キリマス」


//SE 終了のメロディー


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