第12話 デフォルトがイケメン
「——なるほどね。俺が思うに、ひとまず、夏川……さんに話してみるのがいいと思うよ。あの子なりに気にしているだろうし」
慌てるでも何でもなく、いつもの落ち着いた話し方で和泉先生は言う。類ちゃんに話してみる、全くの盲点だった。わたしに向けられているものだから、全部自分で解決しないといけないものだとばかり……。
「……放課後、また会う約束をしているので話してみます」
「うん、それがいいと思う。国語準備室、今日は来なくて大丈夫だからね。もしまた何か話したいことができたら、遠慮なく声をかけて?」
先生は、わたしの机に両腕を組んだ状態で笑った。
いつもなら頭ひとつ分上にある目線が、今は同じ高さにある。そんなことに今更気づいた。少しだけ近くなった距離の綺麗な笑顔は想像以上に破壊力が強い。正直、目のやり場に困る。今までわたしは和泉先生のどこを見ながら話していたのだろう。
……たぶん、その優しく細められている焦茶色の瞳だ。
「あ、ありがとう、ございます……」
予想以上に動揺が出たわたしの言葉に、和泉先生は一段と綺麗な笑顔を見せてくる。……もう、視線を逸らすしかない。
和泉先生は膝立ちの状態から立ち上がって、「お昼、無理はしなくて大丈夫だけど、一口でも食べられそうなら食べてね」と去っていった。
食欲がなくなっていることがどうしてバレているのか。どうしていちいち言動がイケメンなのか。和泉先生と関わった後は時々、顔が熱くなる。そして心臓がぎゅっとなる。……これも先生がかっこよくて素敵すぎるせいだ。
とりあえず、そこのアニエスはにまにましてこちらを見るのをやめよう。わたしの左肩にぽんと手を置くのをやめよう。「伊都……アナタもしかして? もしかするのデスか?」じゃないの。
「違うからね? アニエスが想像しているようなものじゃないからね……?」
「またマター。そんな真っ赤な顔で言っても説得力なんてありまセンよー?」
……う、うるさい。アニエスに背を向けて、わたしはお弁当を取り出した。
ご飯は喉に詰まる感覚を残さず、いつものように胃の中へと落ちていく。そういえば食欲がなかったと思い出したのは、お弁当箱が空っぽになった後だった。
午前中のように集中が散漫になることはなく、午後の授業とホームルームは終わる。とうとう放課後がやってきた。素早く机の上を片付けて、アニエスに向かってひとこと。
「……行ってきます」
「……伊都、アナタ緊張しすぎじゃないデスか?」
肩と表情に力が入っているのは分かっている。だけど、緊張するなという方が無理だ。
この教室を出たらまた笑われるかもしれない。そんな状態で図書室に行ったら類ちゃんまで笑われてしまうかもしれない。……こんなにもガチガチなのは久しぶりだ。
「まあ、もしも何かあった時は伊都の頼れる親友に声をかけてくだサイ。もちろん和泉先生でもいいんデスよ?」
……やっぱり、アニエスには敵わない。いたずらが成功したかのように、ふふんと胸に手を当てて笑っている親友へありがとうを伝えた。気の抜けた「行ってらっしゃいデスー」を背に、わたしは図書室へと向かう。
道中、朝よりうわさとやらが広まったせいか、わたしを見てくすくすと笑う人は増えていた。でも徹底的に無視だ。大丈夫、わたしには頼れる親友がついている。
図書室は目前、もうすぐ入り口に手が届く。そういう時に限って面倒ごとは起こってしまう。
ドン、と突き飛ばされて、窓と窓の間の壁に背中を打つ。痛みを逃すように瞑っていた瞼を開けると、どこかで見た覚えのある男子の両腕と壁に捕らわれていた。いわゆる壁ドン状態だ。
襟元をだらしなく開けたこの人は確か、先週、類ちゃんと食堂で話していた時に不躾な視線を送ってきていたうちの1人。案の定というか、他の2人もにやにやとこちらを見ている。一番に口を開いたのは、わたしを壁ドンしている男子だった。
「せんぱぁーい、夏川と仲良くしてるってほんとーですかぁ?」
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