1話発表時点の感想です
本作は、音と光という物理的現象を巧みに取り入れた探偵ものだ。鳴砂市の地下空間に再構築された旧駅舎は、精緻な描写で息づき、七海たちの観察眼が細部をすくい上げる過程は、読者の視覚と聴覚を同時に刺激する。
文章は抑制されつつも緊張感が持続し、登場人物の心理や行動が論理的に積み重なる。そのなかで、わずかな光の屈折や音の反響を手掛かりに事実を推理する描写は、科学的な冷静さと少年少女らしい好奇心が同居している。特に、展示台の微細な構造や換気口の描写は、物理現象の理解と事件解決のプロセスを自然に結びつけ、読者の知的好奇心を刺激する。
事件の静謐さと突発性、計算された沈黙の瞬間、そしてその先に見える人間の意志の揺らぎ――文章は細部を逃さず描くことで、読者に現場にいるかのような臨場感を与える。推理の手順や物理的裏付けが丁寧に積み上げられたこの物語は、知的な興奮と静かな高揚感を同時に味わわせてくれる。