第24話

 商店街を抜け、北側の裏路地へ向かうと、人通りが一気に少なくなった。夕暮れの影が長く伸び、古びたビルの隙間から、微かな低いうなり声が響く。

「……聞こえるか?」蓮が足を止め、耳を澄ます。

 豪が小声で「あれって」と指差した先、路地の奥で黒い靄のようなものが暴れていた。その靄の中で、大柄な男が鉄パイプを構え、何かを必死に押し返している。


「先輩……?」紅葉が息を呑む。

 そこにいたのは、、鷹真だった。

 禍憑は半透明な体から不気味な触手を伸ばし、周囲の壁や地面に叩きつける。鷹真は素早く避け、カウンターを狙うも、完全には押さえ込めていない様子だ。


 背後から白神が歩み出る。

「鷹真」

 振り向いた鷹真が短く「何?」と返す。

「新人の慣らしだ。代わってくれないか」

 一瞬の間があったが、鷹真は苦笑いを浮かべ、「……なるほどね」とだけ言って数歩下がった。

「OK、任せたよ」


 蓮が振り向き、「構えろ」と一言。

 豪は拳を握り、恭一は支給された練習用の木剣を両手で構える。紅葉は両足を低く開き、葵は短剣を逆手に握り直した。


 禍憑が唸り声を上げ、触手を一斉に振り下ろす。豪が前に出て右腕で受け流し、その隙に恭一が剣を振り下ろすが、硬質な感触と共に弾かれた。紅葉は横から脚を狙うが、触手に阻まれる。葵が背後に回り込み、一瞬の隙を突いて短剣を突き立てるも、禍憑の体は液状のように形を変えてかわす。


 その間、少し離れた場所で鷹真が白神に視線を送る。

「新人?」

「ああ。今日が初めてだ」

 白神は淡々と答えるが、目の奥では彼らの動きを細かく追っていた。


 豪が触手を押し返し、恭一が再び振り下ろす。今度は葵がその反動で体勢を崩させ、紅葉の蹴りが直撃。禍憑がよろめいた瞬間、四人が一斉に畳みかけた。

 木剣の一撃、拳の連打、短剣の斬撃、そして紅葉の最後の蹴りが決まり、禍憑が呻き声を上げて地面に崩れ落ちる。黒い靄が薄くなり、やがて完全に消えた。


 静寂が訪れる。

「……よし」蓮が短く言うと、白神が歩み寄ってきて手を叩いた。

「おめでとー。初撃破だな」

 四人は息を切らせながらも、小さく頷いた。豪は「……やっべ、手が震える」と笑い、恭一は木剣を見つめたまま深呼吸している。


 その様子を、少し離れた路地の影からじっと見ている人物がいた。

 制服姿の女子――真田だった。腕を組み、表情を変えぬまま、その一部始終を目に焼き付けていた。

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