第20話
翌日。今日はカフェのバイトもなく、明日も休みだ。
蓮は腰に剣を差し、そのまま街を歩いていた。気持ちに余裕がある日だからこそ、剣を持ち歩く感覚を確かめておきたかったのだ。
ふと、頭の片隅に何かが引っかかる。
(……あ、そうだ。今日か明日、学校で宿題のチェックがあるんだった)
思い出した瞬間、面倒そうに息を吐きながらも、実家に帰る足を速めた。机の上に広げられたノートとプリントを前に座り、ペンを走らせる。
任務や戦闘に比べれば、宿題など造作もない。集中すればあっという間に終わる。
荷物をまとめ、学校へと向かう。
校舎の中に入ると、懐かしい教室の匂いが鼻をくすぐった。机の並びも、窓から差し込む光も、何も変わっていない。
「おい蓮、それ何だよ? 腰の……」
友人が指さしたのは、蓮の腰の剣だった。
「あ……やべ、持ってきちまった」
苦笑いを返す蓮。場が少しざわつくが、すぐに世間話が始まり、久しぶりの会話が心を和ませた。
やがて教室の扉が開き、担任が入ってきた。
「よし、それじゃあ宿題をチェックしていくぞ」
先生は一人一人の机を回り、ノートやプリントを確認していく。
全員のチェックが終わり、ホッとした空気が教室に流れたその時だった。
先生の口元が、不自然に吊り上がる。にやりと、嫌な笑み。
そして――手に、一本のナイフが握られていた。
その刃の周囲には、赤黒いもやのようなものがまとわりついている。
(……禍憑)
蓮は即座に腰のゴーグルを装着する。視界に映る赤い光が、正体をはっきりと告げていた。
なぜ先生が禍憑なのかは分からない。だが、今は理由などどうでもいい。目の前にいるのは、人を殺す気だ。
先生は最前列の生徒の肩を押さえ、ナイフを振り上げる。
その刃が降り下ろされる寸前――蓮の剣が上から叩きつけられた。金属音が響き、ナイフは床に転がる。
その動きに、教室中の視線が集中する。
先生は驚愕した表情を見せたが、次の瞬間、獣のように腕を振るった。
爪が、鋭い刃のように伸びて迫る。
だが蓮の表情は冷静だった。
一歩踏み込み、腰のひねりと共に剣を横に振る。
風を裂く音と共に、禍憑となった先生の胴体が切り裂かれた。
黒い靄が空中に散り、静寂が教室を包む。
生徒たちは何が起こったのか理解できず、ただ蓮の背中を見つめていた。
蓮はゆっくりと剣を下ろし、息を吐く。
(……守れた)
それだけを胸に刻みながら、刃についた黒い残滓を振り払った。
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