第13話
玄関のドアを開けると、温かい明かりが廊下に漏れ出てきた。
蓮が靴を脱ぎながら「ただいま」と声をかけると、リビングから笑い声が微かに聞こえてくる。
中へ入ると、ソファに腰掛けている白神がこちらを振り向き、手を軽く上げて挨拶した。
その隣には、同年代くらいの女の子が座っていて、どうやら白神の友達らしい。二人はさっきまで盛り上がっていたようで、テーブルの上には飲みかけのジュースとコンビニのお菓子が散らばっている。
蓮が軽く会釈すると、女の子はにこやかに笑ってくれた。初対面なのに、どこか打ち解けやすそうな雰囲気がある。
「おー、帰ってたのか」
奥から男の声がして、冷蔵庫を開ける金属音が響く。ガタン、とドアを閉めると、彼は缶ビールを片手に現れた。
「ふぅ……やっと落ち着ける」
ソファに腰を落とし、プルタブを引いて豪快に一口飲む。炭酸が喉を通る音が妙に心地よく響いた。
白神の友達が時計をちらりと見て、立ち上がった。
「そろそろ帰るわー」
「あいよー。またなー」
白神も立ち上がり、玄関まで見送りに行く。ドアが閉まる音とともに、部屋の中の空気が少し静まった。
「で?」
缶を傾けながら、男が白神に視線を向ける。
「成果はあったか?」
白神は肩をすくめ、特に表情を変えずに答える。
「んー……2体しか出てこなかった」
「そっか」
男は短く返し、缶をテーブルに置く。その音が静かな部屋に響く。蓮はそのやり取りを見ながら、戦いの成果を数字で話す二人の会話にまだ慣れきれない自分を意識していた。
白神は靴を脱いで戻ってくると、ソファの背にもたれて足を投げ出した。
「でも、まあいいでしょ。今週は全体的に禍憑の数が減ってるみたいだし」
「それはそれで怪しいけどな」
男は小さく笑い、再び缶を口に運ぶ。その横顔には、戦闘中には見せない気の抜けた表情があった。
蓮はキッチンの椅子に腰掛け、水を一口飲んだ。自分の任務も、今日の戦闘も、まだ体に重く残っている。しかし、この部屋の空気はそれらをほんの少しだけ遠ざけてくれる。
白神が「あ、これ食べる?」とポテトチップスの袋を差し出してくる。
「……いただきます」
手を伸ばすと、油の匂いと塩気がふわっと漂った。戦闘と血の匂いとは正反対の、平和な香りだった。
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