“勇者殺し“は売れない魔道具店を経営します

ミランダ_milanda

第1話 客の来ない商店

「お客さん、来ませんね……」


 冬の昼下がり、オープンしてまだ一ヶ月だというのに湿った土のような臭いが充満している小さな商店にて、唯一の店員であるミミック・デールはため息を漏らしながら苦言を呈す


「まあ、偶にはそんな日もあるんじゃないか?気長に待とうぜ?」


 諭すように、ミミックにそう言ったのは店主であるミカゲ・リンだ。


「“そんな日”ばっかじゃないですか?最後にお客さん来たのもう一週間も前の話ですよ…?」


「大体、店長はいい加減なんですよ。店の前には看板すら出さない、店のこの土臭い臭いは『これも味だ』とか言って放置するし……ついでに立地も悪い。こんなんじゃお客さんも来る訳ないじゃないですか!私の生活もかかってるのに!」


 ミミックは口を尖らせて怒りながら、今までの不満を吐露する


「……と、いわれてもなあ……んーー」


 リンはポリポリと頭を掻きながらなにやら考えている様子だ。それからしばらく考える素振りをして、思考が纏まったのか顔を上げて、楽しそうな顔でミミックに喋り出す


「それじゃ、出稼ぎとかどうよ?」


「出稼ぎ……?出稼ぎって、あの?……え〜〜、それはなんか……」


「なんだよ……言ってよ」


 しばらく言いにくそうにしていたミミックだったがリンの言葉を聞いて決心が付いたのか話し出す。


「なんか“安っぽ”くないですか?」


「……え?」


「いや、だって私達も一応店を持ってる商店なのに出稼ぎとかなんか……違くないですか?どうせ出稼ぎって路上で安いよ〜とか言って売ってるあれですよね?そういう小銭稼ぎみたいなのはちょっと……」


 プライドが邪魔しているのだろう。こんな小さな店でもホームレス紛いの路上販売よりかは幾分か上だ、というプライドだ。しかし、リンはそれを一刀両断するように言い放つ。


「いいかミミック。僕は一丁前に店なんか買い取ってみたが、実はこんな薄汚い廃屋より路上販売の方が遥かに稼げるんだ。……はい。分かったらいくよ。」


「でも……」


 ミミックはまだ渋る、が───────


「もしかしたら今月の給料足んないかもね」


「今すぐ行きましょう!!」


 リンが小さく漏らしたら瞬間、ミミックは意気揚々と出発の準備を始めた。


 そうして、2人は準備を始める。店の魔道具を幾つか選んで、梱包し、風呂敷で覆う。そんな作業をすること1時間、夕方前には一通りと準備が終わった。


そうして午後の六時、荷台に全ての魔道具を詰めた二人は街の中央へと向かっていく




〜街の大きな通り〜


 荷台から地面へと荷物を下ろし終わったリン達はおもむろに地面に座る


「ひ〜〜〜疲れましたあ」


「同じく。魔法使いに力仕事はさせるなって話だよ。ほんと。」


「え?店長って魔法使いなんですか?」


「いや、なんでもない。独り言。」


 そうして二人は道に風呂敷の包みを広げる。


「作戦はこうだ。僕はここで座ってるからミミックは客呼び頑張って。以上。」


「え⁉︎なんで私だけ……」


「うるさいうるさい!給料渡してんだから偶には働けって話!僕は疲れたんだ!」


 夜の静まり返った街の中、リンの声が響き渡る。リンはその叫び声を最後に、横になって寝息をたて始めた。……すると、ミミックは大きなため息を吐いてから集客を始めた。


 大きな声で宣伝していると、周りに同業者はいなかったからか道ゆく人の視線は集まった……がどれも冷めた視点だ。しばらく続けたが、二時間ほど経っても買ってくれるどころか足を止める者すらいない状況にミミックは心が折れそうになっていた。


「店長ぉ、やっぱ無理ですよぉ。魔道具に興味あるお客さんなんか一人も────」


 ミミックがそんな弱音を吐きかけた時、初めてリンの前で客の足が止まった

 その客はフードを深く被っていて腕、足、皮膚の一切が見えない。

 どう見ても怪しい……がミミックはそのことに気付かず、無邪気に喜び始めた


「やったぁ!!店長!お客さん来ましたよ!私のお陰です!」


「……んぇ?客?」


 ミミックがすっかり寝ているリンに声を掛けると、リンはすぐに起きて意気揚々とその客らしき人物に話しかけ始めた


「ああ、えーと、……やあやあお客さん。ここは魔道具を売ってる店です。少し高いですが出来はいいものばかりですぜえ」


 リンが話しかける……かが、うんともすんとも言わず、耳を凝らせば小さく唸っている声が聞こえてくる程度。リンは不思議に思ってもう一度話しかける


「? お客さん!お客さーん!聞こえてま─────」


 リンが再度話しかけた瞬間、いきなりその客はリンの首根っこを握りしめて、体ごと持ち上げた。


「ぐっ、……あっ、がっ……」


 側から見てもその客の怪力は到底一般人の有するそれではないことが分かる。

 リンは苦しそうに客の腕を引っ掻いたて抵抗しているが、その抵抗も虚しくだんだんと首を握る力が強くなっていく


「えっと…店長!……どうしよう……」


 ミミックはまだ事態の収拾がつかない様子だ。そして、その間もその客は首をしめ続けている。……もう既にリンには抵抗する力も残っていない


「……そうだ!確かあそこに……!」


 ミミックは何かを思いついたのかリンの横の商品が並べられている場所へと駆け始めた。

 そして、商品の中のある赤い瓶を掴み取り、客に向かって思いっきり投げつけた


そうして、その瓶がそ客に直撃した瞬間。瓶から炎が迸り、その炎が客の全身を一瞬で包み込んだ。


「おお゛おおお゛お゛お゛ぉ」


客からは到底人間とは思えないひび割れた大きな叫び声が響き渡る。そして、それと同時にリンは投げ飛ばされる形で解放された。


「けほっ、けほっ……助かったよミミック。よくあれが護身用の【ファイア】の魔法を入れた瓶だって分かったね」


リンは息も絶え絶えに、苦しそうにしながらミミックへと感謝を伝える。


「えへへ……店長が大事そうに梱包してたから危険な物だと思って投げたら大正解でした。私のおかげですね。」


誇らしげにそう語るミミックにリンは苦笑で返しながらも、フードが焼き切れてその素顔が露わになった客に指を指す。

 

「ミミック、あれ見て。客の顔」


「?ちょっとブサイクですけど顔にはなにも付いてないですよ?」


ミミックの天然さには慣れているリンでもこれには流石に呆れている。しかし、すぐに真剣な顔つきになり、話し始める


「いや、そうじゃなくて……焦げてて分かりにくいけどこれ、ゴブリンだよ。しかもここら辺にいる低級のじゃなくてそこそこ強い奴。」


「……と、いうと?」


あまり意図が分からない、といったミミックにリンが説明をしようとした、その時だった


「て、ことは……あ!」


リンの視界の先には本来この街で最も大きな建物である時計塔がある……が、

いはその時計塔に炎が纏わりつくような形で大きな火柱を作っている。


そして、同時に街中から悲鳴が響き渡るのだった……


一話 完

 






 



 

 


















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