(4)
「七美ちゃん、どうだった?」
翌日、学校で陽太に訊ねられた。
「大丈夫、ではなさそうかな」
「やっぱり、陸が何も言わずに引っ越しちゃったから?」
「うん……」
それ以上は言えなかった。
いつも一緒にいたのに、実は嫌われていた、なんて……。まだ高校生になって一学期の間しか一緒に過ごしていないけど、それだけの時間を共にしていた人から嫌われていたなんて、又聞きさせるものではない。
でも……、もしそれを口にしたら、彼はどうするのだろう。そういうことならと気を回し、私から離れていくのだろうか。そしたら、七美は学校に来てくれる? ……いや、それだけでは、きっと来ない。
私はできる限り、七美の味方でいたかった。七美に協力したかった。
だから、本当は聞きたくもない恋愛相談にのってきた。絶対に私には振り向いてくれない彼女に向き合ってきた。
彼女が陸と結ばれて、幸せになるのなら。
そう思ってきた。
だけど、陽太と陸に出会ってすぐに、七美の幼少期からの淡い恋心は実らないとわかった。
長年一途に想い続けて、それでも叶わないとわかったのは当人ではなく、私だった。
七美に教えた方がよかったのかもしれない。
そしたら、彼女が陸を想った時間の何もかもが無駄だったということも、もっと早くに気付けたし、その時間を別の何かに充てることだってできたはずだ。
陸について楽しそうに話す七美は見られなくなるけれど、私はそうするべきだった。
いや、でも。
だから、言えなかった。
言ってしまったら、七美は相当落ち込むと、容易に想像できた。
ハッピーエンドの物語しか世の中には存在しないと信じているような、童話のお姫様。
それが七美だから。
彼女が、自分が報われない現実に、耐えられるなんて思えなかった。
だから……。
私は言わなかった。
知っていて、黙っていた。
七美のために……。
……本当に、七美のため?
本当は、最悪の形で失恋したら、もう陸を諦めてくれるとも思ったんじゃないの? 陸への想いが実らないとわかったら、いつも隣で支えていた私の存在に、少しでも目を向けてくれるかも、なんて期待したんじゃないの?
…………きっと、全部だ。
七美のためだと、彼女のためを想っての行動だと言いながら、結局私は全部、自分のためにやっていた。
なんて、卑怯なのだろう。
いつだって、恋は私の心を醜くしていく。
私が、〝普通〟の女の子だったら、こうならずに済んだのだろうか。
じゃあ、〝普通〟じゃない私は、どうしたらいいのだろうか。
七美は最悪の形で失恋したけれど、私になんて目もくれず、陽太への嫉妬心を強くしただけだ。
少しは私を頼ったり、縋ったり、恋人でなくても、せめて、そうあってもいいのではないだろうか。友達って、親友って、そういう、親や恋人に吐き出せない気持ちを吐き出せる存在ではないのだろうか。彼女はそういう風に私を信頼してくれてはいないのだろうか。
明るくて、楽しくて、そんなお気楽な時間を過ごすだけの関係が一番平和なのかもしれない。
でも、私は恋人でなくてもいいから、心の深い繋がりがほしかった。
私には一生、〝普通〟の生活は訪れないのだから。せめて、二番でも、三番でもいいから、そういう存在になりたかったのに。
――居なくなればいい。
彼女の言葉が頭に響く。
……何も望みが無い私が少しでも彼女に振り向いてもらうためには、受け身でいるばかりではいけないんだ。
次の更新予定
波紋 〜ただ、それだけだった。〜 花奏 希美 @kanade_nozomi
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