第14話 新たなる誓い

メラブは、荒野を駆け抜けるダビデの後を追った。

遠くに見える彼の姿は、朝日に照らされ、まるで神が遣わした光のようだった。

数日後、追手を撒いたダビデと仲間たちが、ようやく休息を取るために立ち止まった。


メラブは疲労困憊になりながらも、彼らの元へと辿り着いた。

ダビデは、彼女の姿に驚きと安堵の入り混じった表情を浮かべた。


「なぜ、戻ってきたんだ…?」


ダビデの問いに、メラブは息を切らしながらも、はっきりと答えた。


「あなたの隣にいると、決めたからです」


彼女の言葉に、ダビデは静かに微笑んだ。

その笑顔は、かつて王宮で見たときよりも、ずっと深く、そして温かかった。


ダビデはメラブの手を握り、彼女の決意を静かに受け入れた。

彼らの間には、もはや言葉はいらなかった。二人の心は、固く結びついていた。


その夜、メラブはダビデの仲間たちに、自分がゴリアテの娘であることを打ち明けた。


仲間たちは、一瞬、驚きと警戒の目をメラブに向けた。

しかし、ダビデが彼らの間に立ち、静かにメラブの真実を語り、彼女が共に旅をしてきたこと、そして彼女の決意を伝えると、仲間たちの表情は次第に和らいでいった。

彼らは、ダビデが信じる人を、心から信頼していた。メラブは、孤独な旅の終わりに、初めて「居場所」を見つけたような気がした。


この日から、メラブとダビデの関係は、単なる逃亡者と協力者ではなく、互いに心の奥底を分かち合う、唯一無二の存在へと変わっていった。

彼らは夜ごと焚き火を囲み、それぞれの故郷の物語を語り合った。メラブは、故郷ガテの豊かな海や、人々が信仰する海の神々の話を語った。


ダビデは、イスラエルの神、ヤハウェの教えや、故郷ベツレヘムの丘で羊を飼っていた頃の穏やかな日々を話した。


「私の父は、人々から恐れられ、孤独だった。しかし、彼は誰よりも故郷を愛し、人々を守りたかった。だからこそ、彼は最後の最後まで戦ったのだ」


メラブは、父ゴリアテの真実をダビデに語り、彼の死が、単なる敗北ではなかったことを伝えた。ダビデは、静かにメラブの言葉を聞き、そして言った。


「君の父は、本当の英雄だ。私は、彼を憎んではいない。むしろ、私と彼の間には、理解と尊敬がある」


二人の会話は、イスラエルとペリシテ、二つの民族の間に横たわる深い溝を、少しずつ埋めていくようだった。

互いの文化、信仰、そして歴史を理解しようとすることで、彼らは憎しみが無意味なものであることを、改めて知った。

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