第12話 ゴリアテの真実と失われた故郷の記憶

ダビデと共に砂漠を旅する日々が続いた。

二人の間に言葉は少なかったが、お互いの存在は、それぞれが背負う孤独な重荷を少しずつ軽くしていた。

メラブは、ダビデの強さがただの武勇からくるものではないことを理解し、ダビデは、メラブの静かな優しさと強さを感じ取っていた。


ある日の午後、灼熱の太陽を避けるため、彼らは人里離れた古い岩屋に身を潜めた。

そこは、かつて貿易商が利用していた中継地点のようで、壁には様々な絵や文字が残されていた。

メラブが何気なく、埃を被った壁画を払うと、そこに描かれた巨大な戦士の姿が目に飛び込んできた。


その姿は、父ゴリアテに酷似していた。隣には、故郷ガテの紋章が刻まれている。

メラブは息をのんだ。壁画の戦士は、剣を携え、盾を構え、威圧的な姿で描かれている。

しかし、その足元には、多くの人々がひざまずき、彼に水を差し出したり、傷の手当をしたりしている様子が描かれていた。


そして、戦士の頭上には、太陽の神の紋章が、そしてその背後には、ペリシテの土地に古くから伝わる、巨大な蛇の姿が描かれていた。

それは、ペリシテの民が古来から信仰してきた、神々の姿だった。


「これは…」


メラブが呟くと、ダビデが静かにその壁画に目を向けた。


「この壁画は、ずいぶん古いもののようだ。私の故郷にも、似たような古い言い伝えがある。

昔、ペリシテの地で、とてつもなく巨大な戦士がいたそうだ。

彼は、戦士として生きることを望んでいなかったが、生まれながらの体格ゆえに、戦場に立つ運命を背負わされた。

彼は、民を守るために剣を手にしたが、その体格ゆえに人々から恐れられ、誰とも心を通わせることができなかった。

ただ、一人の少年だけが、彼に恐れることなく、花を差し出したという…」


ダビデの言葉は、まるでメラブの父の物語を語っているかのようだった。

メラブは、その言葉が胸に突き刺さるような衝撃を感じた。


父は、なぜ戦士になったのか?なぜ、あの戦場に立ったのか?メラブは、これまで知っていた父の姿が、ほんの一面に過ぎなかったことを悟った。


その夜、メラブはダビデに、父ゴリアテの真実を打ち明ける決意を固めた。

父は、決してイスラエルを憎んでいなかった。

ただ、故郷の人々を守るために、神の裁きを避けるために、戦士として生きる運命を受け入れたのだ。

メラブは、父が背負っていた孤独と、彼が守ろうとした愛について、初めて涙ながらに語った。


ダビデは、メラブの告白を静かに、そして真剣に聞いていた。彼は、メラブの涙をそっと拭うと、静かに言った。


「君の父は、誰よりも勇敢な戦士だった。私は、彼の勇気を心から尊敬している。

そして、私もまた、君の父と同じように、神の御心を知ることができず、孤独に苦しむことがある。

しかし、君の父は、最後の最後まで、愛する人々のために戦った。それは、何よりも尊いことだ」


ダビデの言葉に、メラブは、復讐という重荷から解放されたような、深い安堵を感じた。


彼女の心は、憎しみから愛へと、ゆっくりと、しかし確実に変化していた。

それは、父の復讐を果たすことではなく、父の真実を理解し、彼が守りたかったものを、自分自身が守ることだった。

メラブは、ダビデと共に、父の誇りを取り戻すための、新たな道を見出したのだ。

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