覇道高校
チャッキー
第1話 真の覇者とは
朝日が校舎の屋根を金色に染める頃、覇道高校はその威厳を誇示していた。
石造りの重厚な門柱をくぐると、左右に広がる広大な校庭が眼前に開ける。
そこでは、早朝からトレーニングに励む生徒たちの姿がちらほらと見えた。
体育着姿の者もいれば、楽器を携え静かに練習する者もいる。
ここはただの学校ではない。文武両道、芸術からスポーツ、学問まであらゆる分野で頂点を目指す者が集う場所だ。
門の脇には、一枚の銘板が掲げられている。そこには、覇道高校の創設者にして現校長、アレクサンドロスの有名な格言が刻まれていた。
⸻
「真の覇者とは、力を誇る者にあらず。己の限界を知り、挑み続ける者なり。」
⸻
この言葉は、入学を志す者すべてに課せられた誓いのように、門をくぐる者の胸に刻まれる。
その奥には、堂々とした姿で立つアレクサンドロス校長の像が置かれており、まるで生徒たちを見守っているかのようだった。
覇道高校の正門前――。
白亜の門柱には金色の文字で校訓が刻まれている。
「征け、そして掴め。」――校長アレクサンドロスの言葉だ。
その静かな朝を切り裂くように、低くうなるエンジン音が近づいてきた。
視線が一斉に道路の向こうを向く。
単車が校門の前で停まり、黒いヘルメットを脱いだ男が姿を現す。
短く刈られた髪に鋭い目つき、着崩した学ラン。
肩からは小さな熱帯魚のキーホルダーが揺れている。
緒方翔――。
中学時代、素行不良で教師たちの胃を痛めたが、群れず、一匹狼を貫いた男。
今日が、この覇道高校との初対面だ。
翔は門を見上げ、鼻で笑った。
「征け、そして掴め…ね。偉そうなもんだ」
単車のエンジンを切り、片足で地面を踏みしめる。
今日、この門を一番派手にくぐるのは自分だ――そう信じていた。
その時だった。
カツン、カツン、と低く響く音が耳を打った。
蹄の音。
振り向いた翔の視界に、真紅の巨体が迫る。
赤い毛並みの馬――赤兎馬。
その背に、黒髪を後ろで束ねた巨躯の男が腰かけていた。
視線が交わる。
一瞬で分かった。こいつは、ただ者じゃない。
男は馬から降り、何事もなかったかのように翔の隣に立った。
同じ一年生の入学者として。
翔の胸が、わずかにざわめいた。
「……マジかよ」
この門の前で、誰かの影に隠れる日が来るとは思ってもいなかった。
——
体育館は、朝からざわめきっぱなしだった。
新入生たちはそれぞれ勝手にしゃべり、笑い、動き回っている。
前列では、金髪を逆立てた男が大声で友達と腕相撲を始め、
後ろの席ではスマホを横に構えてゲームに夢中な奴がいる。
隣同士でイヤホンを分け合って音楽を聴く女子たち、
何かと大声で笑い飛ばす威勢のいい連中――
この場を式典と思っている者は、ほとんどいなかった。
翔は腕を組み、やや前屈みに座っていた。
笑い声や足音の中でも、門に刻まれたあの言葉がまだ頭に残っている。
「征け、そして掴め」――鼻で笑ったはずなのに、どうにも引っかかる。
前の列でやかましく騒いでいる奴らを睨みつけ、視線で黙らせる。
右隣の列にスマホをいじっている奴を見つけては、わざと靴先で椅子の足を蹴った。
こういう場で舐められるのはごめんだ。覇道高校がどんな学校だろうと、
少なくともこの一年の頂点は自分だ――そう思っていた。
だが。
視線を少し動かすと、二列前の左側にあの男がいる。
門の前で、翔の単車の横に赤い馬を並べていた男だ。
あのとき、エンジン音と蹄の音が並んで響いた。
単車の排気音に負けない、地面を打つ重い衝撃。
普通なら滑稽に見えるはずなのに――あれは絵になっていた。
むしろ、自分のほうが軽く見えた気すらする。
体育館のざわめきの中、その男はただ黙って座っている。
にもかかわらず、背中から滲み出る気配は、馬とともに現れた時と同じだ。
鋼の鎧のような静けさ。
目を合わせてもいないのに、喉の奥がわずかに乾く。
(……何者だ、あいつ)
翔は小さく舌打ちをし、前を向いた。
だが意識は、どうしても横並びになったあの光景へと引き戻される。
—ここに覇道高等学校の入学式が幕を開ける—
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