第2話
結局、優は帰ってこなかった。
私たちは何が起きたのか、理解できずにいた。
さらに各地で、さっきのようなドラゴンが出現し、同じように戦っていた高校生たちが次々と倒れる映像がSNSに流れてきた。
その日の夜、緊急会見が開かれた。
テレビに映ったのは――優だった。
「皆さん、まず…今起きていることは、予想されていたことです」
記者たちがざわめく。
「どういうことでしょうか」
「はい。奴らは、今までも存在していました。ただ、一般の人には見えないほど弱い力しかなかったのです」
「つまり…すでに身近にいたということですか」
「そうです。…ですが、落ち着いて聞いてください。質問は後ほど受け付けます」
優の声は落ち着いていた。
だが、その瞳には疲労と決意が滲んでいる。
「僕は普通の学生でした。妹も、幼馴染もいました。生まれも普通です」
――私たちのことだ。
春の胸が強く締めつけられる。
「ですが、ある日から突然“力”が宿り、奴らが見えるようになりました。奴らは人を一方的に攻撃できる。今までは小さな脅威でしたが、今は強化されている」
一度、息を整えて――。
「僕が力を使える仲間は…全員、力尽きました」
記者席の誰かが、小さく「そんな…」と呟く。
「国もこのことを認知し、協力してくれました。ですが、奴らを倒せるのは僕たちだけでした。命懸けで戦い、ついに“マザー”――奴らの量産の本体を叩きました。今残っているのは、その残滓だけです」
「ですが、防衛力は…」
「不安なのはわかります。ですが――」
その瞬間、優の体が淡く透けた。
「僕も、すでに死んでいます」
会見場が凍りつく。
「中学生の時…僕は、ある施設の実験に参加し、命を落としました」
――どういうこと?
春の脳裏に、あの日のことが蘇る。
『…なあ、今日、最後にみんなで遊ばないか?』
らしくない誘いを、軽く笑って断った。
あの時、彼は――。
「今こうしているのは、精神を粒子として留め、戦える状態にしたからです。肉体は、もうありません」
じゃあ、あの時の優は……。
「だからこそ、僕には覚悟があります。守りたい家族、幼馴染、仲間…負けるわけにはいかない。どうか、僕の大切な人たちを傷つけないでください。僕は――残りの一年で、必ずみんなを助けます」
画面越しに、春はただ優を見つめた。
声は出なかった。
胸が張り裂けそうだった。
受け入れられない。
戦いの恐怖よりも、大切な人がすでに死んでいたという事実。
今までの思い出と、今の姿が胸をかき乱す。
「ぉ…ぉ…」
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