四月

四月七日(佐藤太志)

 既に二日目のプログラムの大半が終わっていた。あとは自由参加の部活動見学だけだ。教室でラグビー部を見に行きたいという生徒は僕だけだった。

隣の席の南雲なぐもくんを誘ったが、家の用事があるからできないと言われてしまった。

 中学からの友達と高校からの即席の友達を置いてグラウンドへ向かう。グラウンドは道路を渡った反対側にある。


 遠くからでも一目見ただけでラグビー部だとわかる。

一人がボールを蹴り、残りの数名がボールをキャッチし、攻める。そういう練習だった。あまりこの高校自体には興味がなく、人数が少ないことを今、初めて知った。

 数えただけで五人。あとから知ったがこれが全メンバーらしかった。


 「ラスト三回ーラッサンー」というかけ声が無駄に広い校庭を素通りし、校舎に当たりまた耳に入る。

 ボーっと眺めているうちにラストが過ぎ、休憩レストになっているようだった。

部員の一人が「え?新入生?」と困惑しながら、駆け寄ってくると、他の部員も刷り込みを終えた雛みたいに続く。あっという間に囲まれてしまった彼らにとってみれば格好の餌なのだろう。

 よほど餌が久しぶりだったのか、ピヨピヨと鳴き出した。「君、見学?」さっき一番最初に話しかけてきた色黒の明らかにパスめっちゃするポジションバックスの選手がそう言った。なんか百円娯楽みたいな髪型だった。たぶんキャプテンなんだろう。

金属のスパイクがアスファルトに擦れる。この一瞬で、タックル何回分かと同じくらい削れる。

「はい。そうです。」

教室でもしたように、沢山のをつけて、普段の言葉に無理矢理貼り付けたような敬語を使う。

「まぁ座っていってよ」

すぐ近くの椅子を見ると自分の部屋ように無造作に荷物が置かれていた。

「座るとこないからあのイス持ってきてー」

色黒の人がそう言うと、おそらく二年生だろうか。ガタイが良い人が椅子を抱えて持ってきた。

両耳が誰かの握り拳みたいになっていた。

元柔道部なのだろうか。

「ありがとうございます。」

「ガタイいいねーなんかスポーツやってたの?」

センター分けのイケメンだ。

咄嗟にAVのインタビューが頭に浮かんだ。

「はい。中学の頃にラグビーしてました。」

「マジ?経験者?」驚くと同時にセンター分けが揺れる。

AV脳のまま行くと出演したことがあるかどうかという質問のようにしか聞こえない。処女かどうかかもしれない。そういえば、最近全然下ネタを言っていない。教室はいまだそんな空気にはならない。

即座にいつもの脳みそに切り替える。

「はい。そうっす。」

当たり障りがなさすぎて水平面で運動を加えるといつか地球を一周して戻ってきそうだ。

「ポジションは?」

「ロックかプロップを行ったり来たりしてました。」

俺は身長が高く、体重も重いので、タックルや体当たりヒットが多いフォワードの中でもとくにロックかプロップの適性が高かった。

「マジ?うちのの合同チームフォワード少ないんだよね、入ってすぐにスタメンになれるかもよ」別のメンバーが間髪入れずに発する。いかにもなバックス、そしてその足からはフィールドをかけ抜けて、得点トライを取るウィングのようだった。

「どこと合同なんすか?」

聞いてはみたものの知らない二字熟語を三回言われただけだった。

まぁ知っても大した意味ないけどね。

ポタリと、制服のズボンに汗が落ちる。

もう少し人数いればなぁと誰かがこぼす。

俺らだけで戦いたいよな。水溜まりが広がる。


「なら」


七人制ラグビーセブンスすればいいじゃないですか」

この瞬間俺の入部が決まった。

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