第11話 セリーヌ家の危機と王都への旅立ち

俺は、王都へ向かう馬車の中にいた。隣には、セリーヌが座っている。いや、隣っていうか、俺は、セリーヌの護衛として、馬車の隅に座らされていた。いやいやいや、王都へ連行されるのは、俺だろ。なんで、俺が護衛になってるんだよ。俺の思考は、再び暴走を始めた。


……護衛、か。

俺、護衛の仕事、したことないぞ。

護衛って、なんか、こう、剣とか、なんか、銃とか、そういうの、持ってるもんだろ。

いや、俺、丸腰なんですけど。

どうすんのこれ。

いや、待てよ。

ひょっとして、俺の能力、護衛スキル、とかいう能力なのか?

いや、それ、キスしないと発動しないだろ。

護衛中に、キスする、とかいう展開、ないからな。

いや、もう、なんでもいいや。


馬車の中は、俺の予想以上に広かった。セリーヌと、護衛として同行している王国兵士の二人、そして、俺の四人だ。いや、俺、護衛じゃなかった。護送される囚人だ。なんで、俺が護衛席に座ってるんだよ。俺の思考は、再び暴走を始めた。


「……蓮、ごめんなさい」

「……なんで謝るんですか」


セリーヌが、俺の顔を見て、そう言った。その瞳は、どこか、俺に、助けを求めているようにも見えた。


「……私のせいで、貴方がこんな目に」

「いや、俺は、あなたを守る召使いですから。それに、俺は、あなたに、何もしてあげられてない。だから、せめて、貴方を守りたい」


俺がそう言うと、セリーヌは、目を丸くする。その瞳は、どこか、俺の言葉に、安堵しているようにも見えた。俺は、セリーヌの家の危機について、彼女に尋ねる。セリーヌは、最初は口を閉ざしていたが、俺の言葉に、少しずつ、心を開いていった。


「……私の家は、冤罪をかけられているの」


その言葉を口にする直前、セリーヌは視線を落とし、膝の上で握りしめた拳に、さらに力を込めた。その手は、小刻みに震えていた。俺は、何も言わずに、ただ、彼女の言葉を待つ。


「冤罪?」

「ええ。父が、王家の財産を横領した、と。でも、それは、父が、ある人物に、陥れられたものなの」


俺は、セリーヌの言葉に、息をのむ。冤罪、か。いや、冤罪って。なんか、こう、サスペンスドラマの、そういうやつだろ。俺の思考は、再び暴走を始めた。


……サスペンスドラマ、か。

俺、サスペンスドラマの主人公か?

いや、違う。

俺は、ただの召使いだぞ。

いや、転移者だった。

ひょっとして、俺の能力、探偵スキル、とかいう能力なのか?

いや、それ、キスしないと発動しないだろ。

探偵中に、キスする、とかいう展開、ないからな。

いや、もう、なんでもいいや。


馬車は、王都に到着した。

俺は、窓の外を覗き込む。

石造りの建物が、空に向かってそびえ立ち、通りには、パンを焼く香ばしい匂いが漂っている。

人々が、活気に満ち溢れていた。

いや、活気っていうか、俺の能力の噂で持ちきりだ。

「学院に、伝説の英雄がいたらしい」とか、「魔物を一撃で倒したらしい」とか、尾ひれがつきまくってる。

いやいやいや、英雄って。

俺は、ただの召使いだぞ。

しかも、能力の発動条件が「キス」って、どう考えても英雄らしくないだろ。


俺は、セリーヌの護衛として、王都を歩く。いや、俺、囚人じゃなかった。なんで、俺が護衛になってるんだよ。俺の思考は、再び暴走を始めた。


……護衛、か。

俺、護衛の仕事、したことないぞ。

護衛って、なんか、こう、剣とか、なんか、銃とか、そういうの、持ってるもんだろ。

いや、俺、丸腰なんですけど。

どうすんのこれ。

いや、もう、なんでもいいや。


その時、一人の男が、俺たちに近づいてきた。その男の顔は、俺に見覚えがあった。第2話の受付で、セリーヌに声をかけてきた、あの男だ。名を、ディランというらしい。


「セリーヌ嬢。お困りでしたら、私の家に……」


ディランは、そう言って、セリーヌに手を差し伸べる。セリーヌは、その手を払いのけ、俺を指差した。


「失礼な。私の護衛に用はございません」

「……護衛?」


ディランは、俺の顔を見て、ニヤリと笑う。そして、セリーヌの耳元に、そっと、顔を近づける。


「……ふふ。まさか、落ちぶれたお嬢様が、平民の護衛を連れてくるとはね」


その言葉に、セリーヌの顔が、一瞬だけ、歪む。

ディランは、そんなセリーヌの反応を見て、さらにニヤリと笑う。


「……まさか、貴方の父上を、陥れたのが、私だとでも?」


ディランは、そう言って、俺とセリーヌを睨みつける。俺は、その言葉を聞いて、息をのんだ。俺の異世界生活は、キスと、魔法と、そして、魔物と、そして、怪しい研究者と、そして、王国兵士と、そして、冤罪と、そして、黒幕との、ドタバタな毎日になりそうだ。そして、その先には、セリーヌの家の危機と、そして、俺の能力の秘密を巡る、新たな戦いが待っている。俺は、セリーヌのために、頑張るぞ!いや、キスしないと能力が使えない召使いが、頑張る、とかいう展開、ないからな。



いや、もう、なんでもいいや。

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