第5話 模擬戦大会とライバルの罠

「貴様! 寮を勝手に要塞化するとは、どういうつもりだ!」


翌朝、俺たちは学院の教師に呼び出された。

いや、俺だけだ。

セリーヌは、俺の背後で、なぜか得意げな顔をしている。

いや、あんたのご命令でやったんですけど。


「これは、寮の耐久性を向上させた、革新的な建築技術ですわ」


セリーヌが、教師に向かって、堂々と胸を張る。

教師は、セリーヌの言葉に、呆れたような顔をしている。

いや、呆れるだろ。

昨日までボロボロだった寮が、一晩で要塞になってるんだぞ。


「……規律を乱した罪は重い。だが、その建築技術は、確かに一見の価値がある」


教師は、そう言って、俺の作った要塞をじっと見つめる。

そして、彼は、俺にこう言った。


「……次の模擬戦大会で、貴様の能力を披露しろ。それができれば、この件は不問にしよう」


俺は、思わずセリーヌと顔を見合わせる。

模擬戦大会。

学院中の生徒が集まり、教師陣まで見に来る一大行事だ。

いや、待て待て待て。

一大行事か?

俺、そんな大規模なイベントに参加するのか?

しかも、俺の能力、キスしないと発動しないんですけど。

いや、それ、どうするんだよ。

観客の前でキス、とかいう展開、ないからな。


「……どうする、蓮?」


セリーヌが、俺に小声で尋ねる。

俺は、心の中で、セリーヌにツッコミを入れる。

いや、どうするって、俺に聞くなよ。

あんたのご命令だろ。


「……やります」


俺は、そう言って、教師に頭を下げた。

教師は、満足そうに頷くと、その場を立ち去った。

残されたのは、俺と、セリーヌと、そして、昨日出会った少女だ。

彼女は、俺たちに近づいてきた。

茶色の髪に、眼鏡をかけた、真面目そうな少女。

名を、リディアというらしい。


「模擬戦大会、見物させてもらいますね」


リディアは、そう言って、俺に微笑む。

そして、彼女は、セリーヌをじっと見つめて、一言、こう言った。


「……貴方の召使いの能力、貴方の才能とは、全く違うようですね」


セリーヌは、その言葉を聞いて、顔を真っ赤にする。

リディアは、そんなセリーヌの反応を見て、ニヤリと笑う。

いや、性格悪いだろ。


「……うるさいわね! 私の才能は、あなたなんかには分からない!」


セリーヌは、そう言って、リディアに食ってかかる。

リディアは、そんなセリーヌの言葉を、鼻で笑い飛ばす。


「……ふふ。では、模擬戦大会で、その『才能』とやら、見せてもらいますね」


そう言って、リディアは、その場を立ち去った。

セリーヌは、悔しそうに、唇を噛みしめている。

俺は、そんなセリーヌの姿を見て、何も言えなくなった。

彼女のプライドが、また一つ、傷つけられた。


「……蓮」

「はい」


俺がそう言うと、セリーヌは、俺の顔をじっと見つめる。


「……キス、以外の方法で、能力を発動させる方法、ないのかしら?」


セリーヌは、そう言って、俺に小声で尋ねる。

俺は、心の中で、セリーヌにツッコミを入れる。

いや、ないだろ。

あったら、とっくに試してるって。


「……もしかして、ハグとか?」


俺がそう言うと、セリーヌは、顔を真っ赤にして、俺を睨みつける。

いや、ごめん。

冗談だよ。

でも、セリーヌは、俺の冗談を、真剣に受け止めているみたいだ。


「……試してみる価値はあるわね」


セリーヌは、そう言って、俺に抱きついてきた。

俺の心臓は、ドクドクと、早鐘を打つ。

いや、待て待て待て。

ハグか?

ハグで能力が発動するのか?

いや、しないだろ。

…しないよな?


「……はぁ、はぁ、はぁ……」


セリーヌは、俺から離れると、息を荒くしている。

俺は、自分の心臓の音を、セリーヌに聞かれてないか、心配になった。

リディアの挑発、そして、セリーヌの新たな決意。

俺たちの学院生活は、ますます、波乱に満ちていきそうだ。


そして、その先には、模擬戦大会という、大きな舞台が待ち受けている。

俺は、セリーヌの期待に応えられるのか?

いや、違う。

俺は、召使いだ。

召使いが、ご主人様の期待に応えるのは、当たり前のことだ。

俺は、セリーヌのために、頑張るぞ!

いや、キスしないと能力が使えない召使いが、頑張る、とかいう展開、ないからな。

いや、もう、なんでもいいや。

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