第2話 畠山 定信

 本日は2月13日の金曜日、昔の映画なら「ジェイソン」という化け物オジサンが物見遊山で人界に来る日らしい。

 さて、そんな極めて穏やかな日常において、僕の下駄箱の中で事件は発生する。


 いつも通りに下駄箱を開けると、そこには白い紙袋が鎮座している。

 白地の紙袋には、「GODIVA」と金細工のような文字と馬の印章が刻まれている。


(ゴッドイーバァ?それとも、ジーオーディアイウ゛ィエイ?

 何だろう?ガンプラの新ブランドかな?)

 袋の中を覗き込むと、濃い茶色のリボンを纏った茶色の小箱と二つ折りされた小さなピンクの紙片。

 ほのかに甘い香りもしている。


 すると、背後から生徒達おとこどもの話し声が聞こえてくる。

 とりあえず、くだんの紙袋はそのままに、上履きを引っ張り出した。


 靴はどうするかって?

 決まってんだろ、下駄箱の上さ!


 自己紹介が遅れて申し訳ない、僕の名前は畠山 定信。

 華も恥じらう?高校二年生だ。

 まぁ、あと2ヶ月もすれば受験生に進級する事になるのだが…。


 さて、面倒な期末考査も無事終わり、下駄箱を開ければ、さらに香りの増した白い紙袋が鎮座している。

 とりあえず、白い紙袋こいつ下駄箱ここに放置すると、面倒ごとになるので、鞄に詰め込み持ち帰る事にする。

 幸い、期末考査期間中は部活も休みだし、今日は他生徒同様にブレザー姿一般服なので、目立つことなく帰宅もできる。

 ちなみに、帰宅中の電車の中では、何人かの女子学生の視線に晒されてしまったが、気にする事ではない。

(漢は黙って、帰るのみ!)


 何事もなく帰宅し、食堂に向かうと母が昼食の準備を整えていた。

「あら、サダノブ。

 お帰りなさい。」

 こちら、僕の母親です、以上です。

 …何?これ以上の説明を求めるとは、どういう(以下略


「ただいま、母さん。」

 上着をハンガーにかけていると、母が鞄に反応を示す。

「良い香りがするねぇ?」


「ただいまぁ!!」

 玄関から妹の声が聞こえる。

 ドタドタと走ってくる足音ともに妹が食堂に顔を見せる。

「ママ、ただいまぁ!」

 こちらは、妹の畠山 ゆかり。

 中高一貫の女学園に通う中学二年生の自称腐女子。

 なんでも最近は、男同士BoysLoveに嵌まったとか何とか言っていた。


「あら、ユカリ。

 お帰りなさい。」

 妹の前で僕の鞄を物色し始めていた母。


「ママ、何してるの?

 何かいい匂いがするんだけど…。」

「でしょ?」

 近くの椅子に鞄を置いた妹も、母と一緒に僕の鞄を物色している。


 程なくすると、くだんの白い紙袋が登場する。

「これ…かしら?」

 紙袋を取り出す母。

「うんうん、甘くて良い香り♪」

 妹もワクワクしている。

(女性というのは、かくも甘い匂いには敏感なのだろうか?)

 そんな事を思いながら、彼女たちの所作を眺めている僕。


 すると、妹が袋の文字を見て目を丸くする。

「ママ!

 これ、ゴディバよ!

 ゴディバ!!」

「ええ!!」

 妹の声につられて、袋の文字を見つめ驚く母。


 二人母と妹が僕の顔をガン見して聞いてくる。

「あんた・・・」

「お兄ちゃん・・・」

「「これ、どうしたの?」」


「知らん!!」

 僕はバッサリと切り捨てた。


 二人の呆れた視線が突き刺さってくるのだが、知らないものは知らないのだ。

 呆れた視線を向けたまま、袋の中身を確認する二人母と妹


 茶色の小箱は開封され、中からチョコレートが登場したところで、二人母と妹は詰問してくる。

「本当にどうしたの?」

「これって、お兄ちゃんが買ってくるシロモノじゃないわよね?」


「実はな…。」

 という訳で、下駄箱の話をすると、妹が目を輝かせ始める。

 と、そのタイミングで、ピンクの紙片を見つけた母。

 その内容を見ると、慌てて妹を呼び寄せる母。

 そして、ひそひそ話が始まる事、数分…。


「ねぇ、お兄ちゃん。

 ワタナベ アキラ君って知ってる?」

「はっ?」

 渡辺姓わたなべせいなど、山程いる。

 クラスにも四人は在籍している。

 まぁ、アキラという名前に心当たりはないが…。


「知らんが、どうしたんだ?」

 僕の返答に、少し戸惑いながら、母がピンクの紙片を手渡してきた。


「明日、ここで待っています。

 渡辺 明」

 可愛い丸文字の下には、渋谷109を指し示す手書きの地図が描かれている。


「これ、男の子かしら?」

 母が訝しそうに紙片をのぞき込めば

「う~~ん、美しい男同士BoysLoveの世界!」

 うっとりとする妹


 僕の通う高校は、地元では有名な中高一貫制の男子進学校だ。

 男子校とくれば、男同士その手の話しも無くはない。

 無くはないのだが、僕には男色の趣味はない!


「…これは、ケンカだな。

 うん、決闘を申し込んできたんだな!!」

 混乱している僕の頭は、そう考える事で、平静を装う事にした。

 益々、冷たい視線を向けて来る二人母と妹


「という訳で、昼飯を食って、鍛錬に行きます!」

「…はいはい。」

 母は、気を取り直したように昼食の準備を再開する。

「私、着替えてこよ。」

 妹は自室に消えた。


「あんたも、着替えてきなさい。」

「へ~い。」

 母に促され、僕も自室に退いた。

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