経験値返納し続けたら神様に気に入られました
ユルヤカ
0001 経験値返納
「これ換金よろしく」
「おー今日も派手にやられたね。やっぱりフェートに冒険者は厳しいんじゃない?」
心配しているようでこいつは馬鹿にしている。
15歳、成人の儀の中で授かったスキルが最弱スキルだったからだ。
スキルにも様々なものがあり、戦闘系、職業系などと分けられている。
戦闘系は冒険者や傭兵といった腕を生かした職業、職業系は生産だったりそのスキルに合わせた職業になる。なぜかって?
それは、授かったスキルに合わせたスキルしか得られなくなるからだ。
授かったスキルにはそれぞれスキルツリーというものがあり、経験値を使ってそのスキルツリーからスキルを手に入れるため、授かったスキルに応じたスキルしか得られないのだ。
魔物を倒したり、物を作ったり経験値の入手方法は色々ある。
とにかく経験値を手に入れてスキルを得ることが大切だ。
しかし僕の場合は違う。
僕の手に入れたスキル「経験値返納」は、手に入れた経験値を神様に返すという意味のわからないものだ。しかもスキルツリーもない。
生産職をやろうにも他の生産スキルを持っている人には勝てない。
できる仕事はどれも安い給金の仕事で、その中で最も稼げる仕事が冒険者だった。
冒険者は危ない仕事だが、経験値を手に入れやすい職業だ。
もしかしたら、経験値を返納し続ければ何か起こるかもしれない、そう思い手に入れた経験値は1年間全て返納していた。
といってもそれ以外使い道がないだけなのだが。
「はい、これお金。フットラビットごときでこんな怪我するならやめた方がいいって。死ぬよ?」
「この仕事じゃないと稼げないんだ。だから別にいいだろ、好きにしても」
「まぁ誰もお前が死んでも気にしないだろうしな」
そういってこいつはフッと鼻で笑う。
腹がたつ。自分でもわかっていても人から言われると無性に腹がたつ。
自分の感情を抑えながら、金を受け取ってギルドを出る。
「銅貨6枚か…」
1日かけてボロボロになりながら倒したフットラビットという魔物2体分は換金しても、パン6個分だ。これじゃ宿にも泊まれない。
他の冒険者は魔物相手でもスキルを使って身体強化したりして戦っていける。
それに対して僕はただの一般人だ。足の速い兎に勝つでも一苦労だ。
そんなことを考えていても仕方がない。
そう思い、いつも通り近くの食堂に向かう。
カランカラン
「あっ、フェート皿洗い頼んだよ!今混んでて皿が不足しそうなの。テキパキ頼むね!」
「はい。任せてください」
店主のフランさんの指示で皿洗いに入る。
この食堂はフランさんが一人で経営していて、繁盛してきて一人じゃ回らなくなってきたため僕が手伝っている。
皿洗いだったり、調理の方を手伝う代わりにフランさんの家に泊まらせてもらっているのだ。本当に返しきれない恩がこの人にはあるのだ。
「どうだ?俺と楽しいことしようぜ?」
「やめてください。今仕事中なので…」
「仕事終わったらいいってことか?やったぜ、待ってるからな。逃げるんじゃねえぞ」
「お客様、失礼ながらご退店いただけますか?他のお客様と店の迷惑になりますので」
「なんだ、テメェ。何にもできない雑魚が。覚えとくからな」
そういって店からナンパ野郎は出て行った。
フランさんは美人でまだ18ぐらいで若い。だからこそこうやって絡まれることが多い。それを止めるのも僕の役目なのだ。
「ありがとう、フェート。いつもありがとね」
「いえ、閉店まであと1時間頑張りましょう!」
「うん、そうだね」
それから1時間は皿洗いしたり料理したり、ずっと目まぐるしく動き続けた。
本当はフランさんが料理スキルを持っているから料理するべきなのだが、僕が接客をするとすぐにボコられたり食い逃げされたりと散々なことになるから、フランさんに接客をしてもらっている。
少しでも味を落とさないようにと料理を練習してなんとか客に出せるぐらいの腕までにはなった。とはいえ、フランさんの足元にも及んでいない気はするのだが。
「お疲れ様ー今日も助かったよ。本当にありがとね」
「いえいえ、止めてもらってるのでこれくらい当然というかまだ足りないくらいというか…」
「いいんだよ?気にしなくて。私も一人じゃないから寂しくないし」
フランさんはいつもそういっているが、これを聞くたびに思うことがある。
ずっと思っていたことだったので思い切って聞いてみることにした。
「フランさん、恋人とかいないんですか?」
「えっ?い、いないよ。気になっている人ならいるけどね」
気になっている人がいるんだとしたら、どう考えても僕は邪魔じゃないだろうか。
やっぱり出ていくか。フランさんには迷惑かけたくないしな。
「それなら僕は邪魔だと思うので、明日出ていきますね。今までありがとうございました」
「いやいやいや、邪魔じゃないから!出て行かないで、私寂しいから!」
「本当ですか?」
「本当だから、いなくならないでね?」
「はい、それならお言葉に甘えて」
フランさんは気になっている人よりも僕のことを心配してくれるなんて。
やっぱりこの人にはもっと恩返しをして行かなくてはならないとな。
「はぁ、なんでわからないかな。鈍すぎるよ…」
「何か言いましたか?」
「なんでもないよっ!おやすみ!」
そういってフランさんは自分の部屋に逃げるように入った。
強くなってもっとお金を稼げるように頑張ろうと決意し、寝るために僕も自分の部屋に向かった。
「んーっ、よく寝た」
朝の早くに起きてギルドに向かうための準備をする。
準備を終え、部屋から出てリビングに置いてあるパンを取りに向かう。
「あっ、フェートおはよう。そこにサンドウィッチあるから持っていって!昼に食べてね」
リビング行くとフランさんが仕込みをしていた。
フランさんが作ってくれたというサンドウィッチが包まれて机の上に置かれている。
「ありがとうございます!いってきます」
「行ってらっしゃーい。気をつけてね」
フランさんが作ってくれたサンドウィッチを持って平原に向かう。
今日の目標はフットラビット3体撃破だ。
平原に出てしばらく進むと、少し離れたところにフットラビット2体を発見した。
今までは1対1でしか戦ったことがないのだが、変わるきっかけになると思い2体同時に戦ってみることにした。
フットラビットは、見つかったら脚力を生かして突撃してくる。
だから見つからないように先制するのがコツだ。まあ、強い人ならそんなことをしなくてもいいのだろうが。
僕が使う武器は短剣と爆裂玉だ。今回は爆裂玉で先制攻撃する。
爆裂玉というのは銅貨5枚で買えるアイテムで、何かに命中して包んでいる殻が割れると中の火薬に火がついて爆発を起こすという仕組みだ。
今の僕には高級品で、フットラビット1体相手なら元を取れないが、2体なら十分元を取れる。
2体ともに被爆するよう狙いを定めて爆裂玉を投げた。
見事に1体の頭に命中し、もう一体も爆発に巻きこまれた。
「やった!」
倒したことを確認するために近くに近づく。
近くまで行くとフットラビット2体は爆発で死んでいた。
【経験値4を獲得しました】
フットラビットを撃破したことで経験値をもらえた。
フットラビット1体あたり2の経験値を得られる。1年間冒険者としてフットラビットを毎日倒し続けた僕はすでにフットラビットから900近くの経験値を得て、スキルを得た時にもらえる経験値100を合わせるとも少しで1000になろうというところだった。
とりあえず今回得た経験値も返納しちゃおう。
【経験値1000を返納しました。特典として水神の加護を獲得しました】
突然のアナウンスに思考が止まる。
特典をもらえた…?経験値を返納したことで…?
スキルの獲得欄を開くと、スキルの下に加護という新しい欄があり、そこに「水神の加護」と書かれていた。
「やっぱりこのスキルは弱くなんてないんだ…!」
僕の最弱と呼ばれ続けたスキル「経験値返納」が覚醒した。
僕はこれからのことに想像を膨らませながらギルドに戻った。
ここから僕の冒険譚が始まるんだ!
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