第35話 危機
(佐伯視点)
「大丈夫かな」
車に揺られながら篠宮くんのことを心配していた。
「篠宮くんのこと?」夢咲先輩が、僕の独り言に反応する。
「そう、、だね」
「それにしても、篠宮くんなんで私のこと知ってたんだろう?」
「さぁ?」
僕は、篠宮くんについて知らないことが多すぎる。
いや、世界について僕はいろんな知識が足りていない気がする。
現に、僕の目の前に血だらけになった男の子がいる。
僕は、世界がこんなに危険だったなんて知らなかった。
篠宮くんは、ずっとこんな危険な世界で生きていたんだろうか?
「巻けたのか?」
「おそらく、、」
前の二人の会話が耳に入り少し安心する。
それと同時に、見覚えのない街に少し不安を覚える。
近くに、割と治安の悪い歓楽街がある通りで、普段はあまり近寄らない場所にきた。
「ごめんね、私のせいで巻き込んじゃって」夢咲先輩が発言する。
「そんなことないよ。」とりあえず、否定した。
しかし、それ以上の言葉を僕は紡げなかった。
少なくとも、僕は何も出来ていない。
車を運転しているわけでも、
敵の一人を足止めしているわけでも、
捨て身の覚悟で自転車を走らせたわけでも、
僕には、夢咲先輩に何か声をかける資格はなかった。
「わかってるの、みんな私のために傷ついてるって。私が、逃げる選択をちゃんとしなかったばっかりに」
「それは、、」違う。
今の事態は、個人のせいじゃない。
もっと大きな陰謀によるものだ。
僕は、そう言いたかった。
しかし、僕が発言するよりも先に、強い衝撃が社内に走った。
「仕事増やしやがってよぉ」
声がする。
フロントガラスを見る。
そこには烈火の姿があった。
烈火はフロントガラスを叩き割る。
「うああぁ!」
前の席でハンドルを握っていた運転手さん――あの宮園ファンの男性が、烈火に片腕を掴まれ、ガラス片と共に引きずり出されそうになっていた。
「やめろ!」
思わず声が出たが、烈火は僕の存在など気にも留めていない。
車はキィイイとけたたましい悲鳴を上げ、横の塀に激突した。
シートベルトが食い込み、息が詰まる。隣で夢咲先輩が小さく悲鳴を上げ、後部座席の少年は、衝撃を受け「ううぅ」と呻き声をあげている。
「チッ、面倒だなぁ。」
烈火がフロントガラスの破片を払いながら、ゆっくりと後部座席に向かってくる。
――まずい。
体が震える。頭では分かっていても、心臓が警鐘を鳴らし続ける。
僕は咄嗟に、倒れかけた座席の下にあった金属バットを掴んでいた。篠宮くんが「なんかあった時のため」と置いていたものだ。
「やめろおおおっ!」
叫びながら、烈火の腕を思い切り振り払う。
ガンッ!
確かな手応えがあった。烈火の肩口にバットがめり込む。
「……へぇ」
だが烈火は眉一つ動かさず、獣のような笑みを浮かべただけだった。
次の瞬間、逆にパバットを片手で握られ、ぐにゃりと金属が曲がる。
「お前、根性あるじゃねぇか」
烈火の褐色の手が僕の首元を狙って伸びてくる。
「佐伯くん!」
夢咲先輩が悲鳴を上げる。
――ダメだ、僕はもう
殺されてしまう。そう思った
刹那、後部座席から血だらけの少年が呻き声を上げ、必死に烈火の足にしがみついた。
「ケントくん!」
僕は思わず叫んだ。
烈火の体勢が一瞬だけ崩れる。
僕は残った力を振り絞り、ドアを蹴り開けた。
「先輩!降りて!」
夢咲先輩の腕を引き、外へと飛び出す。
塀にぶつかった衝撃で車は煙を上げている。
走らなければ。逃げなければ。
「……逃がすと思うかよ」
背後から烈火の声が追いかけてくる。
だが、次の瞬間。
「おやおや、随分と派手にやってくれたねぇ」
低く濁った声が路地裏に響いた。
振り返った先に、黒塗りの車が数台停まっている。
その前に立っていたのは――黒田社長。
「社長……」夢咲先輩が絶望の声を漏らす。
黒田の背後からは、ずらりと黒服の男たちが降りてきた。
ナイフや鉄パイプを手にしている。
烈火が口の端を吊り上げる。
「タイミングよく来やがったな」
「たまたまさ。直感が働かなくて。」黒田は笑いながら答える。
僕の心臓は今にも破裂しそうだった。
烈火、黒田、そして黒服の集団。
敵の数は圧倒的。
――阿鼻叫喚の絶体絶命。
「佐伯くん……少年、、」夢咲先輩は拳を握りしめる。
僕は、歯を食いしばることしかできなかった。
烈火は、足元にいたケントを引き剥がすと黒田の元へ行く。
「直感が働かないと大変だろ」烈火が言う
「本当にそうなんだよ――だから」
銃声が響いた。
乾いた破裂音に、誰もが一瞬動きを止めた。
視線を向けると――胸を押さえて血を流しているのは烈火だった。
「ど、どうして……おれを……」
烈火の目が見開かれる。
黒田は拳銃を下ろし、冷ややかに吐き捨てる。
「直感が鈍っている今、お前みたいに我の強い駒は危険すぎる。裏切る前に処分しておく――それだけだ」
「クソが……っ」
烈火は呻き、地面に崩れ落ちた。
誰も声を出せなかった。
あの怪物じみた烈火が、あっさり撃たれた。その事実が、背筋を凍らせる。
「……ぼくの……言った通り……行動を、してくれますか?」
足元からか細い声がした。
見ると、血まみれのケントくんが這うようにして僕たちのところまで来ていた。
夢咲先輩が慌てて抱きかかえる。
「少年!」
「勝算は……ありません」ケントくんは途切れ途切れに続けた。
「けど……『直感』が言ってるんです……これで……いいって」
僕は言葉を失った。
勝算もない。ただ信じろという言葉だけ。
だが――なぜか、その必死な目を見て、心の奥で「任せるしかない」と思ってしまった。
――絶体絶命の渦中で、希望になり得るのは、まだ幼い彼の直感だけだった。
◆(???視点)
「この人物を知らないかって?知らないねぇ。それにしても、写真の子。あんたの娘かなんかかい?」
違う。
私は、彼女とはそういった関係ではない。
「じゃあどんな関係なの――」
女が私を追及しようとした時、
「そいつなら知ってるぜ」
ある男が、口を挟む。
私は、その男の方を向く。
「たしか、何人かの黒服がそいつをここに捨ててたぞ」
間違えない。
彼女だ。
「今はどこに?ってか?多分スナック△△の裏路地に居座ってるぜ。捨てられた猫みたいだったぞ」
協力感謝する。
「助けになったならよかったけど、なんでその子を探してんだ?」
老婆心といったところでしょうか?
「あんた爺さんじゃん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます