消えた家族
あのね!
第1話 家族が消えた
これから起こる事件は地方都市富山県砺波市で起こった事件である。
「北砺あられ」を営む社長宅は地方都市の砺波市では、有名な資産家一家で、一般庶民にすれば只々仰ぎ見ることしか出来ない、手の届かないブルジョア一家に映っていた。
砺波市に建つ豪邸はこんな田舎町にも拘わらず、立派な塀に囲まれた地下一階から三階まである日本家屋で、一見お城のようにも見える正しく豪邸だった。
庶民の羨望と憧れと嫉妬の入り混じった、不幸と言う2文字から最もかけ離れたこの一家だったが、ある日突如として不可解な事件が起こる。
一家4人の姿が忽然と消えた。
ある7月の夏の日の事だった。夜が終わり、しらじらと空が明るくなり始める朝方の4時頃一家4人は車に乗り込み出掛けた。
父で社長秀樹と母薫(かおる)長男拓也28歳と長女麻美25歳の4人は、その前夜は住み込みの家政婦に家族で急用で出掛ける用が出来たので、明日は来なくても良いと言われ急に追い出される形となって途方に暮れたが、今まではこの邸宅に縛られ自分のために時間を使うことなど皆無だったので嬉しくもあった。
それでもだ。今まで前触れもなくこの様な事が起こるのは初めてで、急な事で当惑したが、今までは1日中拘束されてゆっくりとショッピングもできなかったので、直ぐに気持ちを切り替えて、こんな地方都市にも最近できた大型商業施設に出掛けることにした。
こうして…期限の4日が過ぎたので社長宅に戻った。
鍵を開け邸宅に入った登美子であったが、家の中は静まり返っていた。
(それでも…いつお帰りになるか分からんもんで食事の準備はしとかんと。それにしても不思議な事だ。あれだけ几帳面な旦那様と奥様がどこに行くとも言わんと、更にはいつ帰って来るとも言わんと出かけるなんて不思議な話じゃ。携帯に電話をしてみよう)
トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル
トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル
トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル
トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル
(どれだけ携帯を鳴らしても社長も奥様もお出にならんちゃあ。一体どういう事?私が見ていた一家は明るい、それこそ花で例えるなら今の季節にピッタリのヒマワリ🌻そのものじゃった。いつも笑顔で溢れ返っていて……「北砺あられ」も経営が順調で売り上げも絶好調だったはず。ともかく警察に通報せんと……)
🏰🌷
”ウゥ―――ウゥ―――――“ ”ウゥ――――ウゥ――――“ ”ウゥ――――ウゥ――――“” ウゥ―――ウゥ―――――"
パトカーが藤堂家の前に到着した。
ベテラン刑事谷口と新米刑事荒井は早速インタホンを押した。
”ピンポンピンポン“ ”ピンポンピンポン“ ”ピンポンピンポン“ ”ピンポンピンポン”
「は~い今伺います」
そう言うと登美子は玄関先までの長い廊下を渡りカギを開けてくれた。
「あの~何か事件でもありましたか?」
「それが……あの……この一家がもう4日も経つたと言うのに、私にどこに行くとも言わんと急に休んでくれと言われて、休暇を貰ったがあですが、家に帰ってみたら、まだ帰っておられんかったがあですちゃあ。このようなことは今までは無かったので心配で……?」
「それでは…会社はどうなっちょるがあですか?」
「この会社は夫秀樹様が社長で、妻薫様が副社長で、専務で社長の弟和樹様が社長代行として現在運営されとるがあで、社長と代行は双子でして、以心伝心(いしんでんしん)相通じるものが有るらしく、こんな時にも弟の社長代行和樹様が、素早くキャッチして何の問題もなく運営されちょるがあです」
「ところで……この家族に最近不審な点はありましたか?」
「いえ……これと言って何か……事件が起きたということはなかったですちゃあ。そう言えば……麻美お嬢様が、縁談話が舞い込んで来たけど、最近その縁談話がどちらからともなく破談になったと聞きましたちゃあ。ハッキリしたことは分からず仕舞いで……このような事になりまして……」
こうして…事件性も見当たらなかったので一週間をめどに捜索開始となった。結局は一週間経ってもなしのつぶての上、更にはどれだけかけても携帯も繋がらないので警察本部を立ち上げ一斉捜索が始まった。
そして…事件から15年警視庁はこれまでに延べ20万人弱の捜査員を投入して捜査しているが、家族の所在不明、生存の可能性も全く見えて来ない。
15年も所在を隠すほどの何があったというのか?
それから…生存の可能性といってもこれだけの捜査員を投入して捜査しているが、今まで家族の1人も姿を目撃されていない。海外にでも逃避行したとか、整形で全く別人に成りすましている可能性も捨てきれないが、そんなことをする必要がどこに有るというのだ。
もし犯行に巻き込まれ殺害されたのであれば、4人も一緒に姿が消えたのだから、1人くらいどんな形であれ見つかりそうなものだが、跡形もなく消えて手掛かりは一切見つかっていない。
この家族に自殺は最も似合わないということは、すでに殺害されている可能性が濃厚だ。
15年前この家族には一体何があったのか?
🌷🌹🌷🌹🌷
それでは…事件の起こった砺波市とはどのような市なのか簡単に紹介しておこう。
富山県砺波市(となみし)は、富山県の西部にある市。砺波市と言えばチューリップ。 春の祭典「となみチューリップフェア」では、日本最大級の300品種・300万本のチューリップが訪れた人達を魅了している。
明治時代にはチューリップの球根栽培が裏作として始まり、これが砺波の気候風土に適し、日本一のチューリップ産地として農家に大きな富をもたらした。
そして…田園地帯に農家が点在する散居村の風景は、カイニョと呼ばれる屋敷林に囲われた家屋敷なのだが、日本三大散居集落と呼ばれ、 胆沢平野(岩手県)・砺波平野(富山県)・出雲平野(島根県)伝統的な文化や風習として、この風景は数百年も継承 されており、なかでも砺波平野は最大規模のスケールである。
山の展望台から砺波平野を見下ろすと、それはまるで一面の水田の中に、点々とおびただしい数の家屋敷散らばっているだけなのだが、まるで大海に浮かぶ孤島が散らばっているように見える。
山川風土の恵みに根差した風景や文化が息づく砺波市。古き良き日本の原風景を彷彿とさせ。四季折々の表情を見せてくれる。田に水を張った春。みずみずしい緑の夏。黄金色の稲穂収穫の秋。冬の雪景色。
中でも砺波平野を象徴する散居村を見る絶好のシーズンは、田んぼに水を張りはじめ、田植えを行う4月末〜5月中頃だと言われている。 この時期に絶景スポットと言われる高台の展望台で、田んぼに水を張った夕陽が映りこんで、オレンジの世界が広がり幻想的な風景を見る事ができる。
江戸時代には加賀藩の治水事業によって庄川本流の流れが固定され、用水路網が整備されたことで開拓が進み、近世末には砺波郡が27万石の穀倉地帯となるほど栄えていた。
更には「庄川温泉郷」がある。大自然が魅せる絶景のパノラマとともに、県内でも有数の温泉地である砺波市。清流・庄川に沿うように旅館が点在する「庄川温泉郷」は、古くからの湯治場として心とからだを癒してくれる。初夏から秋にかけて味わえる鮎料理も絶品。
このような美しい自然と庄川清流に恵まれた地方都市で起きた、不可思議かつ身の毛もよだつ事件の裏には、どのような闇が存在しているのか?
富山方言
しとかんと:しておかないと
お出にならんちゃあ:お出にならない
帰っておられんかったがあですちゃあ:帰っておいでではかったです
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