感情が物理的に爆発する美少女の世話を任されたんだけど助けてください
庭雨
学園編
第1話 極秘ミッション
「こちらトロイア。敵戦艦に潜入成功」
なかなか悪くない滑り出しだ。
探知レーダーを避けるため――高度一万メートル、時速マッハ2のステルス戦闘機から軍艦へダイブ。
初めて指示を聞いたときは正気を疑ったが……どうにか成功だ。
毎週サボらずにやってきたグライドパーツの飛行訓練。
あれがなければ即ゲームオーバーだったに違いない。
過去の俺、よくやった。マジで感謝。
「よくやったわ、トロイア。ターゲットポイントの座標をこれから送ります」
直後、ARゴーグルの視界にマップが浮かび上がる。
画面の端に表示される、ゲームのミニマップそっくりだ。
現在地と通路の全レイアウト、それに詳細な補足情報まで完備。
「赤い点は敵の警備兵。赤く塗り潰されているエリアは監視カメラの撮影可能範囲。ターゲットポイントは黄色いバツ。最下層にあるから、二階層を降りないといけないわ。あと、スキャンマップの過信は禁物。こちらもカメラを見ながらアシストするけど、ちょっとラグがあるから、ルート構築は現場にいるあなたに任せるわ。臨機応変に進みなさい」
「了解しました」
マップの索敵情報によれば、この廊下に警備兵はいない。
監視カメラの死角も多く、カバー範囲は意外とガバガバだ。
拍子抜けするくらい、楽に進めそうだ。
マップを確認しつつ、肉眼でも周囲をチェック。
最短ルートでターゲットへ向かう。
今のところ、表示と現実に差異はない。
まるで軍艦の設計図を見ながら歩いている気分だ。
通信越しのマリアンヌ博士は「過信は禁物」と警告していた。
けれど、ここまで精巧だと信じるなという方が無理だ。
そのせいで、つい安全確認を雑にしてしまう。
――とはいえ油断は禁物だ。
敵がマップの解析法を逆手に取り、わざと正確な情報を見せて肝心な部分だけを誤魔化す。
そんな罠の可能性だってある。
廊下を抜けると、下の階層へ続く階段が現れた。
身をかがめ、下を覗く。
客室がずらりと並び、警備兵が数人、巡回している。
俺の目標はさらに下――貨物室だ。
警備兵が視線を外した隙を狙い、一気に二階層を飛び降りる。
普通なら着地音でバレるところだが、ここはエンジンの轟音がある。
時間をかけて静かに移動するより、素早く動いて視認される可能性を減らした方が得策だ。
「ターゲットポイントまであと少しよ。目的物の周りにも、警備兵はたくさんいるから気をつけてね」
博士の警告通り、マップに表示されたターゲットポイントの周辺には赤い点が五つも鎮座していた。
あれを掻い潜って貨物室に入るのは、至難の技だな。
一人や二人程度なら、俺の技術で簡単に欺けるが、五人となると少々厳しい。
(さて、どうするべきか……)
長考している暇はない。
ここはオーソドックスに、おとり作戦だ。
ポーチから小型爆弾を取り出し、奥の廊下へ放り投げる。
直後――轟音が階層全体に響き渡った。
物陰に身を潜めつつ、ゴーグルのズーム機能で警備兵たちを観察する。
爆発に気づき、慌てて口々に騒いでいる。
彼らの英語はゴーグルが自動的に字幕化してくれる。
翻訳機能もあるが、誤訳のリスクを避けるために、英語に精通している俺はそのまま読み上げた。
「事故が起きたらしい、様子を見に行くぞ! お前は警鐘を鳴らしに行け」
「了解」
「お前はここに残れ。こちらを誘い出すための罠かもしれないからな」
ふむ、やはりそう簡単にはいかないか。
下っ端の警備兵とはいえ、そこそこ頭が回るのを配置しているらしい。
狙っているブツの貴重さを考えると当然か。
とはいえ、五人中四人を移動させることに成功した。
俺は非戦闘員だが、一人ぐらいなら容易く処理できるだろう。
三人の警備兵が通り過ぎるのを待ってから、俺は貨物室へ向かった。
残された警備兵が目を光らせながらキョロキョロと左右を確認している。
見た限りでは、奴の武器は手に握っているハンドガン一丁のみ。
不意をついてあれを弾き飛ばし、肉弾戦に持ち込むか。
それともここから睡眠ダーツを打ち込んで、スーツが厚くないことを祈るか。
音を立てずに倒せるダーツの方が無難だ。
しかし、スーツが針を通さない強度を持っていた場合、こちらの存在をバラすだけという無惨な結果に終わってしまう。
うまく狙えばヘルメットとスーツの間にある、わずかな隙間に刺せるかもしれない。
俺の技量が問われる手段だが、それなら博打をせずに済む。
吹き筒に睡眠薬を塗ったダーツを差し込み、大きく息を吸い込んでから落ち着いて狙いを定めた。
舌を歯に当て、息が真っ直ぐ、鋭く飛ぶように口内を整える。
――ふっ。
ダーツは寸分の狂いもなく首筋に突き刺さり、警備兵はパタリと瞬時に倒れた。
さあ、他の連中が戻ってくる前にさっさとブツを頂こう。
倒れている男の上を跨いで扉を開き、貨物室の中を覗くと……想像の範疇を超えた光景に呆気を取られた。
「博士、これって……」
「ええ、こっちからも見えてるわ」
裸の女子が柱に四肢を縛りつけられていた。
「人質でしょうか?」
「その子の救出にあたって頂戴」
「い、いや、でも……どうやって……。それに目的のものは……」
「ワイヤーを切って助けたら、担いで一緒にそこから脱出しなさい」
「か、担ぐんですか? 俺が? 裸の女子を?」
「気が進まないのはわかっているけれど、そんなことを気にしている場合じゃないでしょ。時は一刻を争うの。我慢しなさい」
「我慢でどうにかなる問題じゃないんですけど……」
とはいえ、置き去りにするわけにもいかないのは確かだ。
しなやかなボディライン、柔らかそうな肌、短髪だが綺麗に整った赤髪。
俺にはない体の特徴が色々と気になる。
だが、幸い、胸とかお尻とかは……失礼ながら、あまり女性っぽくないので、男を担いでいると自分に嘘をつけば、どうにかなりそうだ。
俺はなるべく彼女の体を視界に入れないように気を遣いながら、四肢を縛り付けているワイヤーを小型レーザー照射機で切り裂いていく。
少女は気絶しているのか、寝ているのか、微動だにしない。
息はあるので死んではいないようだ。
最後に右腕を縛っていたワイヤーを切って彼女を解放すると、サイレンが大きな音を立てて鳴り響き出した。
どうやらワイヤーが警報のトリガーだったらしい。
早急に脱出しないと警備兵に取り囲まれてしまう。
「おおおおぉん!!!」
唐突に、サイレンに混じって、くじらの雄叫びみたいなものが聞こえたので、思わず「は?」と声が出る。
背中の少女かと思ったが、彼女はこの騒音の中でも逞しく眠っていた。
出所を探すために、俺は周辺を見回した。
――見つけた。
声の正体は奥の壁にプロジェクターで映し出されたのは――いわゆる、十八禁的な動画だった。
しかも、緊縛ものという罪深いジャンル。
(この軍艦……、一体全体どうなってるんだ?)
「ん……?」
とうとう目が覚めてしまったのか、少女は小さな両目をゴシゴシと擦っている。
「えっ、あっ、ふぇ……!?」
そして壁に大々的に描かれた現代美術に気づくと、彼女は変な声を出しながら顔を真っ赤にする。
「あの、えっと、誰ですかぁーー!!! 変態!!! 誰か、た、助けてください!!!」
「おっ、おい! ちっ……」
突飛な状況に混乱している彼女はドタバタと暴れ出す。
まあ、俺もエロ動画を見せつけてくる、意味不明な人攫いに出会ったら、同じ反応をすると思うので納得だ。
だが、白雪姫は大人しく寝ていてくれないと困る。
もう一度眠ってもらおう。
俺は彼女を降ろして、首筋の急所を狙ってチョップを食らわせた。
「アッツ!!!」
すると、なぜか俺の手が大火傷を負っていた。
慌てて火傷した手をズボンに叩きつけて痛みを抑えようとする。
彼女を気絶させることには成功したみたいだが、首回りだけ異様に体温が上がっているみたいだ。
皮膚に異常はないが、目玉焼きを作れてしまいそうな温度なのが、手を近づけるだけでわかる。
単なる熱ってわけではなさそうだ。
「博士、何かがおかしいですよ! 彼女の体が異常なほど熱くなってます!」
「説明はあと。早く彼女と一緒にそこから脱出しなさい」
非常に気になるところだが、無事に脱出する方が大事だ。
俺は言われるがままに少女を背負い直し、貨物室の扉へ向かって走り出した。
「トロイア、ちょっと待って!」
脳が博士の言葉を理解する前に俺は扉を開いてしまっていた。
目の前に立ちはだかる五人の警備兵。その全員が俺に銃口を向けている。
俺は咄嗟に屈んで銃弾を避け、扉を再び閉じると、周りにある荷物の山を倒して簡素なバリケードを作り出した。
「まいったわ。袋の鼠ね」
「博士、あっちの壁は船の外に繋がってますよね?」
「そうね。トロイア、もしかして……」
「高さはどのくらいですか?」
「五メートルよ」
小型爆弾は一つ余っている。
五メートルの高度は若干厳しいが、上昇気流をうまく乗り継いでいけばどうにかなるだろう。
巻き込まれないように柱の裏に隠れ、ポーチから取り出した最後の小型爆弾を部屋の奥へ投げつける。
すると爆弾が起爆して壁が吹き飛び、海を見下ろせる大穴が開いた。
「博士、船の準備お願いします。十キロ以内で」
「了解」
俺はロープを使って、少女の体を自分の前に縛りつけて固定した。
さっきも言った通り、女性らしくない体ではある。
だが――、やはり柔らかくあるべき部位はそれなりに柔らかく、それがスーツ越しに伝わってきて、非常に気が散る。
俺は自分の頬を一発叩いて煩悩を弾き出し、大穴から飛び出した。
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