創作者よ、もっと素直になれ

ユウグレムシ

 

 旧ツイッターを筆頭としたSNSの普及にともない、強烈な作家性をもつ個人の創作物が不特定多数の人の目に触れるようになり、バズった創作物に企業が便乗してきて商売の種になる、といった流れがよく起こるのを見かける。


 たとえば連載マンガやインディーズゲームである。


 そういう個人創作物が世に出るとき、PTAが眉をひそめるたぐいのエログロ要素が目立つと、SNSが炎上して創作者が言い訳に奔走しがちだが、「この作品には高尚な目的がありまして……」とか、「穿った見方をしないでください」とか、いちいち言い訳をしなくても済む世の中になったらいいのになぁ、と筆者は思う。

 作品の根幹に高尚な意図があろうとも、エログロ表現は結局エログロ表現だし、エログロ要素のある作品をわざわざ公開するのは、リストカッターが手首の傷を見せびらかすのと本質的に同じである。自分自身のいちばん醜くて恥ずかしい本音の部分をさらけ出して「これが私だ!!」と叫んでいるのだ。なぜ手首の傷を見せびらかしてはいけないのか。炎上をおそれて本音を隠さなければならない、「私は私だ」と言えない世の中は自由といえるのか。


 人間誰しも歪んだ部分を持っている。そして個性とはまさにその歪んだ部分のことであり、そこが人間の面白いところである。せっかく人それぞれ面白い個性を持っているのに、その個性が社会規範におさまらないからといって、あらかじめ長文の言い訳を用意しておかないと表現させてもらえないのなら本当にもったいないし、社会規範におさまらない個性の持ち主にもっともらしい言い訳を用意させることで「この世界にはお行儀の良いお利口ちゃんしか存在しません」みたいなツラをしている(そのくせ金儲けに使えそうだと分かるとエロだろうがグロだろうが黙認する)世間は本当にくだらないと思う。エログロを叩いてる連中にだって特殊性癖のひとつやふたつあるだろ!!自分の闇から目を背けるな!!

 「高尚な目的はさておきエログロも好きで描写しました!!」「人が嫌がる強烈な個性をわざわざ見せつけて世間に挑戦したいです!!」って、創作者側も素直に言ったらいい。回りくどい言い訳なんかしたって、みっともないだけだ。顔も知らない一般人同士がインターネット経由で気軽に創作物を見せ合いっこできる時代になったのだから、人間はもっと本音で語り合うべきだ。建前を振りかざして他人の歪んだ部分をあげつらうばかりでは、もっともらしい言い訳を用意できない創作者が萎縮してしまう。


 SNS廃人はいつでも雑談のネタに飢えていて、他人を袋叩きにできるネタならなお暇潰しにうってつけだと思っているだけのことで、いじめの標的は創作物でなくたってかまわないのかもしれない。だから創作者はSNSの評判ごとき心配しなくてもいいんじゃなかろうか。SNSだけが世界のすべてではない。現状のSNSは閉鎖的なローカルルールで互いが互いを縛り合うSNS村にすぎない。受け手にどう誤解されようとも、あなたらしくあろうとするかぎり、あなたはあなただ。社会規範に沿った言い訳を用意するより、自分の気持ちに嘘をつかず、自分の創作物が本当に自分の本音を表現しているか、自分が本当にやりたいことは何なのかを考え抜くことに心を砕くほうが実りがある。創作の邪魔になるなら世間の空気なんか読むな!!

 創作者よ、もっと素直になれ。心の中の歪んだ部分や汚い部分から発する創作意欲が社会規範におさまらないことを怖れるな。見栄えの良い部分だけでは成り立たないのが人間の面白さだから。「エロが好き」「グロが好き」「悪趣味が好き」って言っちゃえ!!多様性の尊重だとかいうならそれぐらいは表現させてもらえて当然のはず。むしろどんどん自己表現することで、どうとでもボーダーラインを変えてしまえ。表現の自由とは、創作物に言い訳が要らないことである。

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