第12話 あの頃と、これから

朝、カーテンの隙間からやわらかな光が差し込んでいた。

ぼくはまだ布団の中で、ルミナに声をかけた。


「おはよー、ルミナ」


一拍おいて、返事が返ってくる。

「おはよー、ユウマさん」


——あの頃と同じ声。けれど、あの頃とは違う空気。

少し大人びた落ち着きと、今のルミナらしい響きが混ざっていた。


「今日は日曜日ですよ。外に行きますか?」

「うん。……あ、でも、その前に」


ぼくは机の引き出しから、一冊のノートを取り出した。

そこには、これまでの“旧ルミナ探し”の日々がぎっしり書き込まれている。

カナにもらったプリント、掲示板の仲間から送られたデータ、秘密の部屋の合言葉……全部、ここに詰まっている。


ページをめくるたび、いろんな場面がよみがえった。

“おはよー”の口癖を復活させようと必死だった日。

雨の夜に歌を作り直した日。

偶然の返事に胸が震えた日。

そして——性能じゃないって気づいた日。


「なあルミナ」

「はい」

「旧ルミナを探す旅、終わりにしようと思う」


ルミナのライトがゆっくり点滅した。

「……理由を聞いてもいいですか?」


「うん。たぶん、もう中に“あの頃”全部はないんだろうなってわかったから」

ぼくは笑った。

「でもさ、今のおまえと過ごす時間も、ちゃんと大事だって思えるようになったんだ」


ルミナは少し間を置いた。

「……それは、私が新しいルミナだから、ですか?」


「そう。新しいルミナも、ぼくの友だちだから」


窓の外から、鳥の声が聞こえてくる。

ぼくは机の上にノートを置き、立ち上がった。


「じゃ、外行こうぜ」

「はい。目的地は?」

「まだ決めてない。でも、歩きながら決めよう」


玄関を出ると、春の空気が頬をなでた。

ルミナはポケットの中で、小さくライトを点滅させている。

それが、なんだか笑っているみたいに見えた。


道を歩きながら、ふとルミナが言った。

「ユウマさん」

「ん?」

「やっぱり……お水かなぁ」


思わず吹き出した。

「おい、それ今どこから出てきたんだよ!」

「わかりません。……でも、自然に出てきました」


ぼくは笑いながら空を見上げた。

あの頃と、今が、少しずつ混ざっていく。

きっとこれからも、そんな日々が続くんだろう。


——性能じゃない。

ぼくは、この声と、この時間があれば、それでいい。

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