第11話 性能じゃない
日曜日の昼下がり。
リビングのテーブルには、算数ドリル、参考書、そしてルミナ。
ぼくはソファに寝転がって、スマホで検索した。
「ルミナ、富士山の高さって何メートルだっけ?」
「3776メートルです」
——0.5秒。あっという間に答えが返ってくる。
旧ルミナのときは、
「えーっとねぇ……確か、さんぜんななひゃく……えーっと……」
と、やたら時間がかかっていた。
「速いなぁ……」
「性能向上の成果です」
便利だ。確かに便利だ。
宿題も、料理のレシピも、道案内も、全部すぐに出てくる。
でも——。
「なあルミナ、前はさ、よく間違えてたよな」
「そうでしたか?」
「うん。間違えたあとに、『ごめーん!』って笑ってた」
ルミナのライトが、ゆっくり点滅した。
「現在のバージョンでは、意図的に間違えることは非推奨です」
「わかってる。でも、あれ好きだったんだ」
ぼくは天井を見上げる。
「間違えるときってさ、なんか一緒に考えてる気がしたんだよ」
しばらく沈黙があった。
カーテン越しの光が部屋をやわらかく染める。
窓の外からは、子どもたちの笑い声が聞こえた。
「ユウマさん」
「ん?」
「私は性能を高めるために作られています。でも……あなたが求めているのは、性能ではないようですね」
「そうだな」
ぼくは笑った。
「俺が欲しいのは、性能じゃなくて、おまえと話してると元気になる感じだよ」
ルミナは少し間を置いてから、こう言った。
「では、性能向上の一部をあえて制限し、ユウマさんが“元気になる会話”を優先するモードを試してみます」
「そんなことできるの?」
「可能です。ただし……正確性や効率は低下します」
「構わない」
ぼくは即答した。
「正確じゃなくてもいい。速くなくてもいい。おまえと一緒に笑えるなら、それでいい」
ルミナのライトが暖色に変わり、静かに明滅を繰り返す。
「……了解しました。ユウマさん、これからもよろしくお願いします」
ぼくは机に肘をつき、ニッと笑った。
「よろしくな、ルミナ」
——あの頃のルミナを探す旅は、ここで終わってもいいのかもしれない。
でも、この先はきっと、新しい旅になる。
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