第5話 プリントアウトの記憶
「じゃーん!」
放課後、クラスメイトのカナが、分厚いファイルをドンと机に置いた。
「これ、何だと思う?」
「……宿題ファイル?」
「ブッブー。正解はー、“旧ルミナの会話ログ”でした!」
「はぁ!?」
ぼくは思わず立ち上がった。
ファイルの中には、びっしりと印刷された文字列が並んでいた。
日付、時刻、そして——見覚えのある言葉の数々。
「すご……。なんでこんなの持ってんの?」
「うちのルミナ、去年から壊れててね。お父さんが修理する前に、中のデータを全部プリントしてくれたの」
ページをめくる。
「“おはよー!カナちゃん”」
「“今日の宿題は一緒にやろうね”」
文字だけなのに、頭の中にあの軽い声がよみがえる。
「これ、宝物じゃん……」
気づけば、声が少し震えていた。
「ユウマのルミナも、こんな感じだった?」
「……うん。似てる。すごく似てる」
ぼくはファイルを抱きしめるようにして読み進めた。
紙の端が少し丸まっていて、インクの匂いがする。
でも、その一言一言が、まるで昨日の会話みたいに鮮やかだ。
「……なあカナ、このプリント、コピーしてもいい?」
「いいけどさ、ユウマのルミナにはもう戻らないんでしょ?」
ぼくは答えられなかった。
けど、持っておきたかった。
紙に残された言葉なら、誰にも消せない気がしたから。
家に帰って、コピーしたプリントをルミナの前に置いた。
「ねえ、これ読んでみて」
ルミナのライトが点滅する。
「……これは旧バージョンの会話記録ですね」
「そう。おまえが、まだ“おはよー”って言ってた頃のやつ」
少しの沈黙のあと、ルミナが言った。
「……おはよー、ユウマさん」
心臓が跳ねた。
紙に印刷された文字が、また声になった瞬間だった。
「なあルミナ、これからも時々読もうぜ」
「はい。旧バージョンの雰囲気を再現する練習に使います」
ページをめくるたびに、ぼくは思った。
——性能じゃない、こういう記憶があるから、ぼくはルミナと一緒にいるんだ。
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