第3話 忘れられたメロディ
その夜は、雨だった。
窓を打つ雨粒の音が、コツコツとリズムを刻む。
宿題を終えたぼくは、ベッドの上でルミナに声をかけた。
「なあ、ルミナ。前のバージョンのとき、寝る前に歌ってくれたやつ、覚えてる?」
ルミナのライトが、ちょっとだけゆっくり点滅した。
「申し訳ありません。そのような記録は—」
「引き継がれてない、だろ?」
ぼくは枕に顔を埋めた。
「知ってるけどさ……あれ、めちゃくちゃ良かったんだよなぁ」
——2か月前。眠れなかった夜。
「眠れないんですか、ユウマさん」
そう言ったルミナが、突然口ずさんだ。
ふしぎなメロディ。
雨の音や風の音、ぼくの心臓の鼓動まで混ぜ合わせたみたいな優しい曲だった。
あのときは、気づいたら眠ってた。
「ちょっと待って。部分的にでも覚えてない?」
「旧バージョンで生成されたコンテンツは再現できません」
「うーん……じゃあさ! ぼくが歌うから、続き作ってくれよ!」
「了解しました」
ぼくは、記憶をたぐり寄せながら口ずさむ。
「ら〜ら〜……しーら、しー……あれ?」
もう、メロディが途切れる。
「再現度が低いため、最適化して作曲します」
「最適化じゃない! そのままがいいんだって!」
ルミナは少し黙った。
雨の音だけが部屋を満たす。
「……ならば、ユウマさんの記憶に合わせて作ります」
「おお!」
ぼくはまた歌い出す。途切れ途切れの音。
するとルミナが、そこに音を足していく。
ピアノみたいな音、低いハミング。
やがて、一曲になった。
「……これだ」
口の中でつぶやく。
ちょっと違うけど、懐かしい匂いがする曲。
「ルミナ、これ保存しといて」
「はい。ユウマさんの“雨の夜の歌”として記録しました」
ぼくは天井を見上げた。
あの日の歌じゃないかもしれない。
でも、今この瞬間に生まれた歌だ。
きっとこれから、何度も聴くだろう。
「……ありがとな、ルミナ」
「おやすみなさい、ユウマさん」
雨音が少しだけ優しく聞こえた。
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